バイデン演説はなぜ「習近平」を連発したのか?

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  • 更新日:2021/05/04
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今回のテーマは、「バイデンが習に言及した本当の理由」です。ジョー・バイデン大統領は4月28日(現地時間)、施政方針演説である「一般教書演説」を行いました。そこでバイデン氏は、中国の習近平国家主席について繰り返し言及しました。どうして習主席に触れる必要があったのでしょうか。

その答えは一般教書演説の構成要素とその順番に注目すると見えてきます。そこで本稿では、演説の構成要素と順番及び内容からバイデン氏の意図、戦略並びに信念を読み解きます。

演説するバイデン大統領(Doug Mills/Pool via REUTERS)

演説に関与した「2人の人物」

ホワイトハウスによると、今回の一般教書演説の原稿作成において2人の人物が主導的な役割を果たしました。

1人はマイク・ドニロン大統領上級顧問です。バイデン大統領と民主党系政治コンサルタントのドニロン氏との関係は40年以上になります。バイデン氏は長男のボー氏が15年脳腫瘍で死亡したので翌年の米大統領選挙出馬を見送りましたが、ドニロン氏が直前まで出馬の準備をしていたことを自伝で明かしました。

オバマ政権でドニロン氏はバイデン副大統領(当時)の顧問を務めていました。20年米大統領選挙ではバイデン陣営の主席戦略家を務めました。バイデン氏の参謀トップです。

ドニロン氏はバイデン氏の地元デラウェア大学にある「ジョセフ・R・バイデン公共政策管理学部」の幹部で、同大学のバイデン研究所の教授でした。兄弟はオバマ政権の大統領補佐官(国家保障問題担当)であったトーマス・ドニロン氏です。

もう1人はバイデン氏にとって初の一般教書演説の原稿を書いたインド系米国人で移民2世のビナイ・レディ氏です。レディ氏は、オバマ政権2期目(2013~17年)のバイデン副大統領(当時)のスピーチライターでした。20年大統領選挙においてもバイデン氏の演説原稿を書きました。

演説の構成要素と順番

ドニロン氏とレディ氏が深く関与した一般教書演説の構成要素と順番は以下のようになっています。

まず、バイデン大統領は政権発足から100日間における「成果」の強調から入りました。第1の成果として挙げたのが、100日間で1億回分の目標を超えて、2億2000万回分のワクチン接種を達成したことです。そして第2の成果として挙げたのが、3月に「米国救済計画」法が成立したことです。この計画を通じて、バイデン氏は全国の85%の世帯に1400ドル(約15万円)の「救済小切手」を送付できたと、成果をアピールしました。

次にバイデン氏は、「米国雇用計画」と「米国家族支援計画」を盛んに売り込みました。米国雇用計画では2兆ドル(約220兆円)規模の投資を行います。この投資には老朽化した道路や橋、鉄道のインフラ整備が含まれています。加えて、電気自動車の充電ステーションを50万カ所設置するという目標を掲げました。

一方、一般教書演説の目玉商品となった「米国家族支援計画」では、1.8兆ドル(約200兆円)を投資して子育て支援や単科大学の授業料無償化等を行います。バイデン氏はこの2つの計画の「セールス」に徹しました。

ここまでの演説の流れは想定内でしたが、この後で想定外のことが起きました。

「打倒中国」で結束

続けてバイデン大統領は野党共和党との協議で難航している「ジョージ・フロイド警察正義法」、銃の規制及び移民問題に関して語らずに、外交政策に移ったのです。通常の一般教書演説では国内政策に大半の時間を費やし、その後で外交政策に触れて、最後に「核となるメッセージ」を発信して終了する構成になります。これがいわゆる「定番」です。

ところがバイデン氏の演説は、最初に内政についてアピールし、一旦外交を挟んで、内政に戻るという構成になっていました。しかもバイデン氏は外交政策で、習国家主席について語りました。なぜここで中国をクッションに入れる必要があったのでしょうか。

ドニロン氏がアドバイスをしたか否かは不明ですが、いずれにしてもバイデン大統領は「戦略的な構成」を選択したと言えます。演説で「習主席との電話会談で、衝突ではなく競争を歓迎すると伝えた」「中国が国営企業に補助金を出し、米国の技術や知的財産権を盗んで(米国の)労働者と産業を弱める不公平な貿易慣行を行っていることに対抗する」と、語気を強めました。

さらにバイデン氏は、「衝突を始めるのではなく、阻止するためにNATO(北大西洋条約機構)と同様、インド太平洋地域においても軍事的プレゼンスを維持すると習主席に告げた」と説明しました。

そのうえで、「米国は人権や自由に関与することから身を引かないと世界のリーダーに語ったと、彼(習主席)に伝えた」「基本的な人権が犯されたら米国の大統領は黙っていない」と、強気の発言を連発しました。

これらの発言の意図は、中国に関して「強いバイデン」「強いリーダー」をアピールすることです。ただ、演説の構成の視点から述べると、異なった分析が可能です。

バイデン氏は明らかに共和党保守派と民主党リベラル派が、「打倒中国」で結束できると読んでいます。つまり、「打倒中国」をクッションに入れて団結力を高めてから、バイデン氏が共和党から支持を得られていない「ジョージ・フロイド警察正義法」、銃の規制及び移民問題などの「難題」で協力を得たかったとみてよいでしょう。ここが今回の一般教書演説における見えざるポイントでした。

要するに、バイデン一般教書演説は「成果」「セールス」「打倒中国」「難題」「核となるメッセージ」の順番で構成されていました。

「バイデン=危機的状況に強いリーダー」

リーダーには平時に力を発揮するリーダーがいる反面、危機的状況に強いリーダーがいます。バイデン大統領は正に後者と言えそうです。

バイデン氏は演説の冒頭、「危機と好機について演説をするためにここに来た」と述べました。

確かにバイデン氏が大統領に就任したとき、新型コロナウイルス感染拡大、経済の悪化、民主主義に対する攻撃など米国は危機的な状況に陥っていました。同氏は人生においても危機が存在することを深く理解しています。演説の中で「人生は我々をへこます」と語りました。

1972年に最初の妻と娘を交通事故で亡くし、長男のボー氏までも失ったバイデン大統領の非常に重みのある言葉でした。周知の通り、バイデン氏は吃音症の危機を克服しました。自分の人生の危機を好機に変えてきたのです。

演説で語った「危機が可能性に変わる」「危機が好機に変わる」及び「後退が強さに変わる」は、バイデン大統領の経験と信念から出た言葉です。バイデン氏は今、自身の人生と米国が直面している危機を重ね合わせ、困難な状況に立ち向かっています。

バイデンの「ゲームチェンジャー」

その結果、米国は着実に前進しています。例えば、1月20日の大統領就任時、2回目のワクチン接種を完了した高齢者の割合は、わずか1%でしたが、バイデン大統領は70%まで引き上げました。就任時から新型コロナウイルスによる高齢者の死者数は1月から80%も減少しました。しかも最悪の経済状況から脱出し、就任100日間で130万人の新規雇用の記録を達成したと報告しました。

バイデン氏が演説で提案した「米国家族支援計画」では、「子ども減税」を通じて子育て支援を行います。例えば、6歳以上の子どもがいる家庭には最高で3000ドル(約33万円)の減税をします。

一方、6歳以下の子どもがいる家庭には最高で3600ドル(約39万円)の減税を実行します。つまり、両親と2人の6歳以下の子どもがいる家庭には最高で7200ドル(約78万円)の減税になります。

バイデン氏は子ども減税により、米国の家族が遭遇している危機を好機に変えようとしています。同氏はこれまでに打ち出した政策を、「ゲームチェンジャー(試合の流れを変えるもの)」と呼んでいます。

「民主主義サミット」の意義

何が今回の一般教書演説における「核となるメッセージ」だったのでしょうか。演説の最後にバイデン大統領は、21年1月6日に米連邦議会議事堂で発生した暴徒による占拠事件を民主主義に対する「冒涜」と呼んで強く非難しました。その際、ドナルド・トランプ前大統領には一言も触れずに、民主主義と専制主義の対立に焦点を当てました。

バイデン大統領は「民主主義が今なお機能することを証明しなければならない」「専制主義が未来を勝ち取ることはない。米国が勝ち取るのだ」とまで言い切りました。「専制主義の脅威から民主主義を守り抜く」という核となるメッセージを発信して演説を締めくくりました。バイデン氏は民主主義の擁護者です。

一般教書演説の前日4月27日、政府高官とメディアが電話会議を行いました。そこで政府高官は「民主主義サミット」に関する記者団からの質問に回答しました。同高官によると、バイデン氏は世界では専制主義と民主主義のシステムが競争をしていると捉えています。

民主主義サミットの目的は、米国がリーダーシップを発揮して「民主主義が専制主義や収奪政治よりも優れている」というメッセージを発信することです。もちろん、人権擁護の促進もサミットの目的に含まれています。

「民主主義サミット」開催は実現するのか?

ただ、民主主義サミット開催には懸念材料があるのも事実です。その1つが民主主義サミット参加国と非参加国の互いの敵意を煽る可能性が高いことです。世界に排他的な「民主国家のクラブ」を作り、ブロック化を促進することに成りかねません。

さらに、どの国が参加できるのかも懸念材料です。例えば、トルコ、ハンガリー、サウジアラビア、フィリピンは果たして民主主義サミットに参加できるのか、疑問があります。サウジアラビアは米国にとって中東の戦略的同盟国であり、フィリピンは南シナ海における対中国戦略における重要なパートナーです。しかし、人権侵害の面でサウジアラビアとフィリピンを民主国家とは到底呼べません。

ちなみに、21年4月にワシントンで開催された気候変動サミットにおいても参加国に関する質問がホワイトハウスの記者団から出ました。参加40カ国の中にグアテマラ、ホンジュラスとエルサルバドルの3カ国が含まれていないのは納得がいかないと言うのです。

バイデン大統領とカマラ・ハリス副大統領は、気候変動が原因で中米北部「三角地帯」はハリケーンによる甚大な被害を受け、その結果米国とメキシコとの国境に上の3カ国から「子ども移民」が押し寄せていると主張しているからです。ホワイトハウスのジェン・サキ報道官は経済規模を基準に40カ国を選択したと回答しましたが、気候変動と移民問題を結びつけるならば、当然3カ国は招待されるべきでした。

当初、バイデン氏は「民主主義国家のサミット(Summit of Democracies)」と呼んでいましたが、参加国の問題に対処するために「民主主義のためのサミット(Summit for Democracy)」に名称を変更しました。「民主主義のためのサミット」であれば、非民主主義国家の参加も可能になるからです。とはいうものの、気候変動サミットに続いて、民主主義サミットが年内に開催されるかはまったく不透明です。

海野素央

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