マンガ大賞2021で堂々の2位!「チ。」の作者・魚豊が懸ける作品への思い「人の心が大きく動く、そんな作品を描きたい」

マンガ大賞2021で堂々の2位!「チ。」の作者・魚豊が懸ける作品への思い「人の心が大きく動く、そんな作品を描きたい」

  • @DIME
  • 更新日:2021/07/22

「マンガ大賞2021」にて堂々の2位にランクインした『チ。-地球の運動について-』。著名人も面白いと話題にするほど、いま大注目の作品だ。信じるものを証明するために命をかける主人公たちの言葉や生き様に込めた魚豊先生の思いとは。

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第1集より ©魚豊/小学館

何かが大きく変わった瞬間の人間の反応や行動を描きたかった

物語の舞台は15世紀のヨーロッパ。まだ天動説が信じられていた時代の話である。当時は天動説以外を論じることは、異端思想を学んでいるということで処罰を受ける時代。そんな中、自分たちが美しいと信じる「地動説」の証明に命をかける主人公たちの物語だ。

主人公たちと表現するのは、この「地動説」の証明に人生のすべてをかけるのは1人ではなく、思いが受け継がれていくからであるが、詳細はぜひ本作を読んでいただきたい。

まず気になるのはあらすじだけを見ると歴史マンガのようだが、これはノンフィクションなのだろうか。

「ストーリーは完全にフィクションです。地動説という学説はもちろん現実のものですが、それに対峙していくのは私が作ったキャラクターなので創作の歴史です。

歴史の出来事って関心のない人にとっては、閉ざされていて全く興味がわかないものだと思うんです。でもそこに、何か一つでも面白いと感じるエンタメ性があると、一気に“そちらの世界にもこんな面白いものがあるんだ!”と新たな扉が開くような気がする。

今回、私は“何かが大きく変わった瞬間に立ち会った人の反応や動き”を描くことで、歴史という距離のあるテーマでも、身近に感じられる面白さが生まれるんじゃないかと思いました。 地動説はまさに大きく認識が変わる瞬間なので、これをモチーフに人間模様を描ければ、“自分にとっても面白いものを作れる!”と思いました」

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第1集より ©魚豊/小学館

地動説ではなくとも、人間模様を描ければテーマは何でもよかったと魚豊先生はいう。では、なぜ地動説を選んだのだろうか。

「知性と暴力が密接に結びついているマンガを描きたいなと思っていたんです。テーマを模索していたときに、地動説が候補に上がった。そこから地動説を調べ始めて、とても興味深いと感じたのでテーマに決定しました。

大雑把ですが中世あたりは、自然科学的な知性と宗教的な暴力・拷問とかがすごく密接だった。作品中にも火あぶりの表現がありますが、当時は自由になんでもかんでも開かれた議論ができる環境ではなかった。

今の世界だと、教科書的な知識と暴力は関係ないという感じに見えると思うんです。例えば、ヤンキーは暴力で優等生は知性という感じです。でも、乖離しているように見えて実はとても密接でただただ隠ぺいが進んだだけだと私は思うんです。だから、マンガの中で、“うわ、昔ってこんなにやばかったんだ”ってところから、最終的に“今もそんなに変わんないじゃん”って思ってもらえるようなところにまでもっていくことができればいいなと思っています」

キャラクターと同じように満足気な顔をして自分も死にたい

『チ。-地球の運動について-』を読むと、人間模様にリアリティーを感じると同時に、キャラクターが紡ぐ言葉が心の奥底にずしりと何かを訴えてくるような感覚に陥る。

――『好き』がいけない訳がない! この世に期待をしなくなると我々の魂は瞬く間に濁ってしまう。“好き”とか“夢”とか“希望”とかそういうモノは捨てちゃダメだ!

――『自らが間違ってる可能性』を肯定する姿勢が、学術とか研究には大切なんじゃないかってことです。

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第4集より ©魚豊/小学館

『チ。-地球の運動について-』から一部セリフを抜粋したが、魚豊先生が登場人物の言葉に込めている思いは何なのだろうか。

「“他人事にしないこと”や“当事者意識を感じるもの”を描きたいと思っています。現代を生きている私たちって、安定してるが故の、ある種の不足感が付き纏っている気がする。

仕事をして休日はネット動画を観て、SNSを見て……。ある意味完璧で快楽も与えられているんだけど、心のどこかで、これでいいんだっけ? となる瞬間がありませんか。ちょっとリスクをとるというか、飛び出したり冒険してみたりってことがあまりにもなく、閉塞感みたいなものがある。毎日楽しいんだけど、楽しいだけでいいの? と。

きっとそれは、今与えられている楽しみの多くが“他人事”だからだと思うんです。今はみんな多忙ですし、ノイズにならない、適度な退屈しのぎになる、ウェルメイドなコンテンツが膨大な量供給されている。それはそれで快楽だし、見てて疲れないけど、でも自分の興奮じゃないし自分の人生でもありません。

一方、当事者意識を感じるものは見ていて疲れるし、ノイズになる事もあるだけど、影響を受けて、考えが変わることがあるかもしれないし、もしかしたら、ずっとやりたいと思っていたことを行動するきっかけになるかもしれない。そうやって、自分の行動を変えるのは疲れるけど、不思議と開放感もある気がします。

天動説が当たり前の世の中でそれを疑い、自分の信じる道に向けて決断をしていくというキャラクターに、今2021年を生きている私の価値観がうまくシンクロすればいいなと思います」

ただのエンタメでなく「心に残る変化」が生じてほしい

最後に、本作を読者にどう受け止めてほしいかを聞いた。

「自分の思いはふんだんに込めていますが、こういうふうに読んでほしい、みたいなことは思っていないです。いうまでもないですが、買っていただいた読者の方にはそれぞれ自由に読んで頂ければありがたいです。

ただ、私自身は、読んでいるときに現実を忘れられるものより、読んだあとに現実を変える物語が好き。だから、私が描く作品も、単純なエンタメで終わらず、現実のことを考えたり、何か心に残って変化があったりするような作品にしたいという思いをもって描いています」

魚豊(うおと)/漫画家。2018年11月~2019年8月まで、『ひゃくえむ。』(講談社『マガジンポケット』)を連載。小学館『ビッグコミックスピリッツ』にて2020年9月より『チ。-地球の運動について-』連載中。

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取材・文/田村菜津季

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