「部下に花を持たせる」上司ほど昇進する理由

「部下に花を持たせる」上司ほど昇進する理由

  • 東洋経済オンライン
  • 更新日:2021/09/15
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リーダーにとって最も重要な仕事とは何でしょうか(写真:ペイレスイメージズ1(モデル)/PIXTA)

リーダーにとって最も重要な仕事は、次のリーダーをつくること。リーダーである自分自身が輝くのではなく、後輩や部下を輝かせ、花を持たせることができるか。後輩や部下にチャレンジの場を与え、リスクは自分がとる覚悟を持てるか。
『INTEGRITY インテグリティ――正しく、美しい意思決定ができるリーダーの「自分軸」のつくり方』を上梓した岸田氏が、次世代リーダーを育てるインテグリティについて説く。

後輩や部下に「花を持たせる」

インテグリティ(高潔さ、誠実さ、真摯であること)のある人は、人を育てるのが上手です。私は、私の最も重要な仕事は、業績を上げることではなく、次のリーダーをつくることだと位置づけました。そして2020年の1月1日付で、当時38歳だった関灘茂さんがカーニーの日本代表に就任しました。

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コンサルティング会社では社内での地位が「マネジャー」→「プリンシパル」→「パートナー(共同経営者)」と、徐々に上がっていきます。人材を育てる観点から言えば、まずパートナーシップのメンバーすなわちパートナーをつくる。そしてパートナーをつくるためにはパートナーの予備軍であるプリンシパルをつくっていくという考え方になります。

次のリーダーをつくるために何をするかというと、自分が輝くのではなく、ほかの人を輝かせることです。具体的に言えば、「この仕事は彼が・彼女がやりました」と手柄を立てる、花を持たせる機会をつくることです。

逆に言えば、「成功したら手柄は自分のもの」としていたら、人はついてこない。いわば、Make room for others to shine.ということです。

コンサルティング会社では、常にプロジェクトごとに新しくチームがつくられます。固定的な部があって、課があって、係があって、私は課長だからお前は部下だよねという関係はありません。そういう束の間のチームだから、「私はあなたの上司だよ」と言ったところで知れている。3カ月経てばバラバラになっているかもしれないし、関灘さんのように優秀な人がいたら追い越されてしまうかもしれません

■「ナチュラルチーム」をつくることができるか

ですから後輩や部下を育てるのも難しいところがあるのですが、私がリーダーの資質として重視しているのは「ナチュラルチーム」をつくることができるかということです。

「ナチュラルチーム」とは何かというと、たとえば懇意にしている社長から金曜日の夜の会食の席で「月曜日にこういう意見を聞きたい」と言われたとします。そのための準備期間は土日しかありません。

自分一人で準備してもアイデアに限界はあるし、作業も間に合わない。
(働き方改革ではこのようなことはご法度ですが、それはひとまずおいておくとして)そこで週末に私が連絡したら、3人くらいのメンバーがどこかに集まって、あるいはリモート会議で、一緒に手弁当でその仕事をしてくれる。それがナチュラルチームです。

目先の利害とは関係なく、ちょっと面白そうな仕事だし、この人となら一緒にやりたいと言ってくれる。そういうナチュラルチームメンバーがいる人は、かなり有望だと思います。

ではどうすればナチュラルチームをつくれるかというと、Thought Leadership(自分の考え方を示すリーダーシップ)、そして全人格的な魅力がないといけないと思います。そしてなんといっても、人を伸ばそうという気持ちがなかったらナチュラルチームはできないでしょう。

部下には今できること以上のことをやらせてみる

先ほど人を育てるには「その人が輝く機会をつくる」ことだと言いましたが、これは簡単なことではありません。チャレンジの場を与えても失敗するかもしれないし、その失敗のリスクは自分が取らなければいけない。

たとえば、あるコンペで自分がプレゼンテーションをやったほうが勝てると思うかもしれない。事実そのとおりかもしれません。しかし自分がずっとやっている限り、一緒に働く部下が今以上に成長することはありません。

そうだとしたら、やらせてみるしかないのです。部下にプレゼンテーションをさせてみる。何かの交渉をさせてみる。もちろん一度目は失敗する可能性は高い。だから「のるかそるか」というときに任せるわけにはいきませんが、取り返しがつく範囲でならあえて失敗させてみるのも手です。

人間は同じことをやらせていると育ちません。常に今できること以上の、少し背伸びしたことをさせる必要があります。そして、それは本当の現場で経験させなければいけない。ですから今までやったことがないこと、社長の前でプレゼンテーションするなどのチャレンジをさせることです。

そしてそのときの成功の手柄は「彼が・彼女が頑張ったからです」と、きちんとその人に花を持たせる。自分が助けたから成功したのだと言いたくなりますが、もちろん、そんなことを言ってはいけません。

若手に手柄を譲り、花を持たせることで、優秀な若手が自分を超えていったり、クライアントが若手のほうを向き始めたりすることもあるかもしれません。

「次から岸田さんは来なくていいから、今度は彼だけでいいよ」
と言われるかもしれない。

そんなときでも、「それはそれでいい」と思えなければなりません。それを言ったのが専務なら、自分は社長のことをケアするようにするとか、ほかの人ができないことをやればいい。
「仕事を奪われる」とか「クライアントを取られてしまう」という恐怖と嫉妬に勝たなければいけない。

■自分を超えそうな人材こそを採用する

このことは採用の段階のときから意識しておくべきです。

若い人を採用するかどうかを社内で検討しているとき、評価の欄に「私の下で使えるイメージがあります」と書く人がいました。こういうとき私は、「君の下で使う奴なんて採らなくていいよ。君が勝てませんという奴を採るんだ」と言いました。

嫌な役目なのですが、今いる人を超える人材を採れるようになってきたら、それは会社としてはいいことでしょう。だから採用する側の当人も若い人が自分を超えていく恐怖と嫉妬に勝たないといけない。

当人と同等くらいの人を採用するときのインタビューのコメントに、「あっ、これは嫉妬がある」と思うときがあります。意識しているのか、無意識なのかわからないけれど、「この人を入れたら自分のポジションが危うくなる」と思っているのがわかるときがある。でもそういう場合はその人材を採用するほうが間違いなく、よいのです。

前回「情報やクライアントを共有すればパイが大きくなる」と言いましたが、人を育てるときも同じです。パイが大きくなれば、コンサルタント一人ひとりも昇進のチャンスが増えるのです。

パイが同じであれば、常にピラミッドの大きさも同じだから、誰かが外に出ないとピラミッドの上には行けない。でもパイが増えたら、ピラミッドも大きくなっていくのだから、多くの人が昇進できる。

だから人を育てることは、自分より素晴らしい人を見つけて、自分がリスクをとってその人に活躍の場を与え、輝かせるようにしていくことの繰り返しです。

38歳の関灘茂さんがカーニー日本代表に就任

コンサルタントの世界は、いわゆる昇進のスピードが速いのが特徴かもしれません。日本の伝統的な大企業にはやはりまだ年功序列の名残があって、実力主義が徹底されていないところがあります。その点、外資系のコンサルティング会社では、パートナーに定年もないし、30代でも日本の代表になれる。

先に述べたように、関灘茂さんは38歳でカーニーの日本代表になりました。

彼が日本代表になったときに、彼より年上のパートナーの人たちには、「なぜ?」と思った人もいたかもしれません。

ちなみに私は以前から関灘さんに日本代表になってもらおうと思っていたわけではありません。ほかの人にも平等にリーダーシップを発揮する機会を与えました。

改革しなければいけないテーマはたくさんあったので、大きなテーマを渡して、それをどのように実行するかとか、ほかのパートナーや若いコンサルタントのフォロワーシップを得ながらやれるのかとかをずっと見ていました。

日本の会社でこれまで言われてきた「次の社長選びは社長の専権事項」ということはパートナーシップの会社ではありえません。パートナーとプリンシパルに「次の代表に必要な要件、資質は何か」を挙げてもらい、それに照らして「誰が適任だと思うか」の意見をアジア・パシフィックのリーダーと一緒に聴取し、それで最終的に決めました。

コンサルティングの変革ができる人

関灘さんには、新しいものを持ってこられるという期待がありました。コンサルティングの在り方が変わってきている今、変化をつくり出せる人が求められていたのです。端的に言えばテクノロジーでしょう。彼に期待する理由の1つは、テクノロジーの変化をコンサルティングの変革に持ち込めることです。

テクノロジーはその裏側に何があるかがすべてはわからなくても、感覚的に「これを使えばこんなものができる」ということがわからなければならない。それが関灘さんは自然にできているのです。

関灘さんには、パートナーになってしばらくの間、小言のような助言もしました。端的に言えば、「自分ばっかり輝くんじゃない」ということです。

関灘さんには、もうここまできたら自分が輝くのではなく、他人に光を当てる立場なんだよ、とアドバイスしました。

「自分は素晴らしい」「自分はクライアントを獲得できる」「自分はクライアントをうならせられる」ではなく、自分がそういう機会を人に与えて、次のリーダーをつくることに目標を移していかなければいけない。

このことは若いうちから心に留めておいてほしいと思います。それがより高いインテグリティを持ったリーダーへの出発点でもあります。

■厳密な「アップ・オア・アウト」でなくてもよい

人を育てるときに覚えておくべきなのは、人間は人それぞれという事実です。人にはいろいろな得意技があるし、立ち上がりのスピードにも違いがあります。一律に決まった時間を与えて、「制限時間内にこれができないといけない」というふうにはしないほうがいい。

コンサルティング会社では2~3年で区切って「アップ・オア・アウト(昇進できなければ退社せよ)」という方針を掲げるところがあります。私はそういう環境で育って、その信奉者でした。カーニーの日本代表になってもそれを推進しました。

しかし、日本代表を務めていた最後のころには、「厳密なアップ・オア・アウトでなくてもよいのかな」と思うようになりました。アップ・オア・アウトを厳密に適用すると、そのペースで育つ人しか育たないし、できていないところを探すような「減点方式」になりがちです。人によって成長スピードも得意技も違うのですから、よいところを伸ばすほうがいいのではないか。つまり欠点を叩くよりも、長所を伸ばすほうがいい。

人間はよいところも悪いところもあります。しかし私たちは、人の短所はよく見えるけれど、長所はあまり目に入ってこない。だから往々にして「ここはダメだから、ここを何とかしなさい」と指摘してしまいがちです。

一人の人間の能力を六角形や八角形のレーダーチャートで表して、「あなたはここがよいけれど、ここが低い」と言って、点数の低い部分を伸ばそうとしますが、私はそこを指摘したところで、本人が萎縮するだけで、あまり意味がないと思います。

「強み」を伸ばせば「弱み」が「弱み」でなくなる

評価会議でも、「この人はここができない」という報告を聞くたびに、「それはもう何回も聞いてわかっているから、こことここをもっと伸ばそうよ」と言います。そうすることで何が起こるかというと、長所を伸ばすうちに短所があまり気にならなくなるのです。

面白いもので、人間というのは年をとっても、レーダーチャートの形そのものはあまり変わらない。個性とはそれほど変えにくいのです。しかし強いところを伸ばせば、相似形で全体的に大きくなる。ということは、平均より下だった部分も、いつしか人並みか、あるいはそれ以上になるということです。

基本的に人の相対的な「強み」「弱み」は、そうそう変わるものではないというのは、私自身の経験から言えることです。

私は若いころから自分が受けた評価をずっと保存してありますが、常に「Communication(コミュニケーション)」と「Interpersonal Skills(対人関係構築力)」という項目の評価は高い点数を示していました。

一方「Developing Intellectual Capital(知財開発)」という項目はあまり高くありませんでした。「Working effectively with others(他人とうまく働ける)」という項目は、最初からずっと高かったと思います。

それから、「Contributing to the firm(プロジェクト以外のことにも貢献する)」とか、基礎コンサルティング技術は、「並上」くらい。この形は何年経ってもほとんど変わりませんでした。

もちろん立場が変われば評価の方法も変わるのですが、基本的なレーダーチャートの形はほとんど変形しないまま、何年も経ってしまいました。

とはいえ、会社から「劣っているところを何とかしろ」とは、ほとんど言われた記憶がありません。当時のシニアメンバーは「彼はこれが得意なんだから、これを伸ばせばいい」と思って私を育ててくれたのでしょう。

最近は、ほめて伸ばすことの弊害も言われていますが、やはり人を育てる基本は長所に注目して、そこをほめること。そうやって人を育てることで自分自身のインテグリティも身についていくのだと、私は思います。

(岸田 雅裕:ラッセル・レイノルズ 日本代表)

岸田 雅裕

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