
回収・リサイクルされずに捨てられたビニール袋やペットボトルなどのプラスチック製品が川を伝って海へ流出し、紫外線による劣化や波などによる破砕で粒子状になる「マイクロプラスチック」ゴミが年々増えている。分解されるまでに500年を要するこのゴミの量は毎年800万トン。実はこのゴミを、海中の動物プランクトンがかみ砕いて、微小なナノプラスチックに分解していることが最新の研究で明らかになった。
◆ナノプラスチック1日34万個以上生成
マサチューセッツ大学アマースト校を中心とする共同研究チームはこのほど、世界中の淡水と海水の両方に生息する微細な動物プランクトンの一種であるワムシが、マイクロプラスチックをかみ砕き、さらに小さく、潜在的に危険なナノプラスチック(1ミクロン以下の粒子)に分解できることを発見した。
ワムシとして知られるこの小さな生物は、プラスチックが水生生物に与える脅威を解決するどころか、粒子を何千もの小さなより危険な可能性のあるナノプラスチックに分割することによって、そのリスクを増大させている可能性がある。
1匹のワムシは、1日に34万8000~36万6000個のナノプラスチックを作り出すことができ、環境には数え切れないほどのナノ粒子の大群が存在することになる。
このワムシは微細でどこにでも生息し、数も多く、ある湖では水1リットル中に約2万3000匹が生息している。研究チームは、中国最大の湖である鄱陽湖で、ワムシが毎日1京3300兆個のプラスチック粒子を作り出していると試算した。この研究は、国際科学学術誌「ネイチャー・ナノテクノロジー」に発表された。
プラスチックが驚くほど丈夫な素材であることはよく知られているが、分解には500年もかかる。ペットボトルや包装、部品が古くなると、その小さな破片が砕け散る。これらのマイクロプラスチックは、エベレストの頂上からマリアナ海溝の深部まで、地球上のあらゆる場所で発見されており、最近の報告によれば、多くの人間の血液や心臓組織にも含まれている。
問題は、マイクロプラスチックが環境と人間の健康に未知のリスクをもたらし、世界中の生態系を変化させていることだ。
プラスチックの粒子が小さければ小さいほど拡散しやすく、その数も多くなる。個々のマイクロプラスチックは、理論的には1000兆個のナノプラスチック粒子に分解される可能性があるという。
また、サイズが小さいということは表面積が大きいということであり、マイクロプラスチックよりも反応性が高く、人間やほかの生物の健康に対してさらに有害になる可能性がある。マイクロプラスチックには注目が集まっているが、ナノプラスチックの研究、特にどのように生成されるのかについてはほとんど関心が持たれていない。
◆マイクロプラスチック0.01ミリから数千個のナノプラスチック排泄
研究チームは2018年に、南極のオキアミがポリエチレンボールを1マイクロメートル以下の破片に分解できるということを聞きつけ、水生生物がマイクロプラスチックの生成にどのような役割を果たすかを調べることに関心を持った。マサチューセッツ大学アマースト校ストックブリッジ農学部のバオシャン・シン教授(環境・土壌化学)は、ワムシがオキアミに似た特殊な咀嚼(そしゃく)器を持っていることから、ワムシを調べることにしたという。世界中に2000種いるワムシもプラスチックを分解できるという仮説を検証しようと考えた。
海産および淡水産のワムシをさまざまな大きさのプラスチックに暴露した結果、すべてのワムシが最大10マイクロメートル(0.01ミリ)のマイクロプラスチックを摂取し、分解した後、数千個のナノプラスチックを環境中に排泄することがわかった。ワムシの体内からは、ナノプラスチックだけでなく、食品容器に含まれるポリエチレンのマイクロプラスチックも検出された。
シン教授は、「この研究は最初の一歩に過ぎない。マイクロプラスチックの生物学的断片化について、陸上や水中のほかの生物を調べ、毒物学者や公衆衛生研究者と協力して、このナノプラスチックの大発生が私たちに何をもたらしているのかを解明する必要がある」と語る。
中国海洋大学環境科学・工学教授で、論文の筆頭著者であるジアオ・ジャオ氏は、「世界中の淡水系と海水系の両方でナノプラスチックを生成・発生させる経路としてよく知られている物理的・光化学的な断片化に加えて、今回、新たに生物学的断片化が発見された。この発見は、ナノプラスチックの世界的な流束を正確に評価するのに役立つだろう」と語る。さらに、「ナノプラスチックはさまざまな生物に有毒である可能性があるだけでなく、ほかの汚染物質のキャリアとしても機能する。また、プラスチックに含まれる化学添加物の放出は、破砕中や破砕後に促進される可能性がある」と指摘した。