『椿の庭』富司純子インタビュー:この映画の絹子さんは、私のベストワンかと思うほどです

『椿の庭』富司純子インタビュー:この映画の絹子さんは、私のベストワンかと思うほどです

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  • 更新日:2021/04/08
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国内外で高い評価を受ける写真家・上田義彦が初監督した『椿の庭』が2021年4月9日より公開されます。

海を臨む高台の古民家を舞台に、夫を亡くしたばかりの絹子(富司純子)、その娘の陶子(鈴木京香)、そして陶子の姉妹の忘れ形見・渚(シム・ウンギョン)。三世代の女性たちを通して、失われてゆくものの記憶を護ろうとする想いを映像(本作はフィルムで撮影されています)に定着された清廉な傑作です。

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今回は、主人公の絹子を演じた日本映画界の至宝ともいうべき大スターであり名女優でもある富司純子さんに、作品に懸けた意気込みや想いなどをうかがってみることにしました。

あの古民家にいるだけで 絹子さんでいることができた

―― 本作は富司さんにとって14年ぶりの主演映画になりますが、出演にあたってどのような気持ちで臨まれたかをお聞かせください。

富司純子(以下、富司):まず、上田先生から台本にする前の段階のものをいただいて、それを読ませていただいた上で了承させていただきました。本当に素晴らしい映像がどんどん目に浮かんでくるような台本だったんです。これはもうぜひやらせていただきたい! と思いました。この段階でそこまで思わせてくれたのは、私としましては初めての体験です。

―― その目に浮かんだ映像とは、どういう感じのものだったのでしょう?

富司:夫が亡くなって、長年住んでいた家を手放さなくてはいけなくなっていくというお話の中で、私自身はまだその家を一度も見ていないにも拘らず、庭であるとか木々であるとか、そういった四季折々の風景が美しい映像として感じられたんです。ですから撮影が始まってロケ地に着いたときも、すっとその家の世界観の中に入っていけました。

―― 映画を拝見しますと、あの古民家と富司さんが演じてらっしゃる絹子さんが、本当に一体化しているようなように映えています、富司さんご自身が古民家を初めてご覧になった時点で、いろいろ感慨深いものがおありだったのではないでしょうか。

富司:ええ、素晴らしいと思いました。門を入ると石畳みの敷かれた正面の佇まいとか庭の風情など、すごく素敵で、また家の中に入っていくと、お台所もとてもモダンで、部屋も私の好きなものがいっぱい飾ってあったりして、すごく心地良いんです。

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―― いざ撮影が始まっての印象的なことなどございますか。

富司:まずはやはり監督の、あの家に対する想いの深さですね。ふっと見ると監督がお庭を掃除なさってたり、本当にこのおうちを愛しんでいらっしゃるんです。そこの芝生は踏まないでくださいとか、庭の石とかも、また家の中のじゅうたんや時計など、とにかく家の敷地の中に置かれたものはすべて監督の想いが込められているように私には思えてなりませんでした。

また撮影中もとにかく監督はお優しくて、ワンカット終わるたびに「良かったですよ」とか誉めてくださるんです。それがとても励みになるというか、嬉しかったです。

―― 絹子という人物に関して、どのようなお気持ちで演じていこうといったものはおありだったのでしょうか。

富司:いえ、あの庭にいるだけで生活感というものが出せるといいますか、立ってるだけでも絹子さんでいられる。ですから「演じる」とかそういったことは一切作らないというか、そんなことすら考えずにすむほどに、自然体でいることができました。

現場でもその場の雰囲気をとても大切にしてくださっていたので、こちらも何の迷いもないというか、とにかくあそこにいるだけで楽しかったです。

―― では、台本にないアドリブみたいなこともやられたりとか?

富司:それもありませんでした。監督は撮影も兼ねてらしたので、ご自身でアングルとライトを決められて、その中で私たちは台本通りに演じるという、実に自然な流れでもありましたね。

もし監督がご自分の撮りたい画の中に私たちがはまっていなければ、何かおっしゃったことでしょうけど、現場では特にそういうこともなかったです。スタッフにも「みなさん、大きな声は出さないで静かにしてください」とか、その場の雰囲気をとても大切にしてくださっていたので、こちらも何の迷いもないというか、とにかくあそこにいるだけでみんなが楽しかったんですよ。

―― ご自身も家というものを大切にしてらっしゃいますか。

富司:そうですね。でも一軒家って現実的には主婦が大変なんです。庭の掃除や手入れくらいは自分でできても、木の手入れを植木屋さんに頼んだりといったメンテナンスなどを考えますと本当に大変です。歳とともにマンションの方が楽だなあ、なんて思っちゃう事も正直あります(笑)。ですから、ああいったおうちで1年間もお仕事させていただけたというのは、とても楽しいというか、幸せな時間でした。

映画の撮影形態も 徐々に変わってきました

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―― 一方でこの映画の中の祖母と孫の関係性も、通常のものとは少し違っています。

富司:そうですね。娘が駆け落ちして外国で子どもを産んで、やがて大きくなった孫が突如帰ってくる。娘は残念ながら亡くなっているけど、絹子さんとしては孫と暮らすことができて幸せだったのではないかなと思うんですね。

―― 孫娘の渚を演じられたシム・ウンギョンさんはいかがでしたか。

富司さん:一緒に撮影していてすごく自然だし、可愛い人です。日本語もお上手ですし、撮影の最初の頃は本当にお忙しくて他の仕事も入ってらしたようで、それでいて日本語を一生懸命お勉強してらっしゃるのを知って、頑張っていらっしゃるなと思いました。私が韓国の言葉を覚えるとなったら大変ですから。でも彼女はすごく努力していて、しかもひとりで日本に来て頑張ってらして、もちろん今も素晴らしいですけれども、もっともっと素晴らしい女優さんになっていかれると思います。

―― 着物を脱いだり着たりするシーンも、すごく丁寧に撮られていました。

富司:あれも台本通りのままですね。着物って手入れが大変で、今の時代はなかなか着物を着る人が少なくなっています。私自身は6歳から地唄舞のお稽古で着慣れていたのが役にたったと思っています。

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―― この作品は昔ながらのフィルムで撮影されていて、それでいて自然光の照明を非常に大事にした撮影がなされています。

富司:最近は撮影の形態も変わってきています。このたびの現場はとにかく少人数でした。きっと上田監督が気に入られた腕の良い録音さんや照明さんといった精鋭の方々をお揃えになったんだと思うんです。ですからそういう中でお仕事させていただけるありがたさというものも、今回はすごく感じました。

あるがままに生きてきた その上での「今」がある

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―― スッと伸びた背中ですとか、美しい所作を保つ秘訣みたいなものがあったら教えていただけますか。

富司:日課としてはEテレの朝の体操をしたり、あとは本当に少しですけど体を動かしたりスクワットしたりと、そのくらいでしょうか。背筋が伸びてないと歳を取ったように見えてしまいますし、着物も綺麗に着られませんので。油断しているとすぐに猫背になってきて、「あっいけない!」と思ってピシッとする。やはりそういう意識を常に持っていないと楽な姿勢になってしまいがちなので、その点は気をつけています。

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―― 完成した作品をご覧になっての感想などはいかがでしょうか。

富司:絹子さんはもとより、女性たちを本当に素敵に撮ってくださって、女優冥利に尽きると思いました。本当に嬉しいなあって。この度の『椿の庭』の絹子さんは私のベストワンじゃないかと思うほどで、今後これ以上良い作品に出会えるのかなあとまで思ってしまいます。

―― 上田監督は「移ろいゆくものの美しさを残したかった」みたいなことをおっしゃっていますが、本作の椿という花にもそういった意味合いが込められている気がしております。

富司:つまりこの映画は絹子さんだったり、陶子(鈴木京香)だったり、渚(シム・ウンギョン)だったり、そういう女性3人の想いを上田監督が椿を通して込められてるのではないかなという気もいたしております。

―― 確かにこの作品は、椿が落ちてしまった後も生きていく人たちまできちんと撮られていました。

富司:本来の日本の良さみたいなものをこの映画を通してわかっていただければ嬉しいなって思います。

(取材・文:増當竜也)

増當竜也

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