表参道の小道に広がる原風景 「Mame Kurogouchi Aoyama」がオープン

表参道の小道に広がる原風景 「Mame Kurogouchi Aoyama」がオープン

  • GINZA
  • 更新日:2023/03/18

入り口の先に広がる花鳥風月、長野の雪を彷彿とさせる白い壁。2023年、初の旗艦店を開く場所に選んだのは数々の思い出を刻んだ元住居であった。長い時間軸をテーマにしたショップができるまでの記録を公開。

記憶と伝統の技術が詰まった空間で
紡がれていく新たな物語

黒河内真衣子 旗艦店オープンにあたって表参道に限らず、さまざまなエリアを検討していました。そのなかで足を踏み入れた瞬間にショップの情景が浮かんだのが、ここです。表参道でありながら落ち着きがあり、元々住居であったという面影を感じながらも私たちらしい新しいチャレンジができるのではと思い、羽根木店の建築デザインを担当してくださった柳原照弘さんにすぐ連絡しました。

柳原照弘 週末だけ開く羽根木のショップは5坪を活かすために茶室のような空間を設計しました。今度も〈マメ クロゴウチ〉らしい物件ですよね。総面積は36・3坪=120㎡で、平屋ではなく地下室を含めた2階建て。元住居なので天井も低い。ブティックとして用いるには特異な間取りです。

限られた空間でフルラインを見せる技巧は「巻貝」の構造から着想しました。入り口で箱庭を眺めて、階段を登り、中心に据えたフィッティングルームのまわりをぐるっと巡る。殻の中を歩く感覚です。

黒河内 アルルでのプレゼンも面白かった。いい思い出です。

柳原 そうそう。市場で理想的な形の貝を調達して、意気揚々とマメちゃんを出迎えたら。

黒河内 私は貝が食べられない(笑)。

柳原 一瞬、頭が真っ白になりました。背水の陣で話すと、興味を持ってもらえた。形にできて本当によかったです。

黒河内 アレルギーなだけで、造形は好きですよ。殻の中に迷い込むのはかけらを探して彷徨うものづくりに通ずる。

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歳月を重ねることで生まれるもの

柳原 ブランドがある限りは続いていく存在である青山店は、お客様との大切な記憶も集積されます。月日が流れるにつれて魅力が増す風合いにしたかった。そこで左官仕上げが浮かび、左官が持つ「しなやかさ」を引き出せるのは職人の都倉達弥さんしかいないと思いました。

都倉達弥 光栄です。内装のほぼすべてを任せていただいたのは初めての経験でした。沖縄産の石灰岩を主に塗りに使用しています。面と眼の距離を意識して空間でテクスチャーが均一に見えるよう、部分ごとに素材の配合を変えています。石灰岩の粉砕時に発生したかけらで、天井は2mm、壁は3mm、床は4mmと異なる粒度のものを入れました。ここへつなぎとして2mmに挽いた竹を混ぜています。いろいろ試した結果、和テイストにならないギリギリの長さです。視線からもっとも遠くなる天井は一番多く配合しました。

柳原 新月の日に大分へ出向いて、伐採したんですよね。日が合わずに断念したけれど、僕たちも行きたかったなぁ。

都倉 その時期の竹は水分が豊富なので、美しい状態を保てるんです。切ったままの状態で1週間寝かせてから砕きました。この竹を混ぜるアイデアはパリで〈マメ クロゴウチ〉2023SSのショーを見て、浮かんだものです。

柳原 アルルで見た白い石灰岩の建物群のような質感を出したいと相談していましたしね。

都倉 塗り壁でよく用いる藁だと日本の雰囲気が際立ちすぎるし、石を混ぜると硬派な印象になる。どうしようかと考えあぐねていたところでした。ちなみに竹は時間が経つにつれて落ち着きを増し、よりいい表情になっていきます。

黒河内 土壁が普通にある環境が私の原風景でもあります。固くてやわらかい左官仕上げの質感もあいまって、包み込まれているような感じがする。すごくホッとします。

柳原 自然のもので彩られているのが大きいのかもしれません。今回はマメちゃんと庭の植栽を見に山まで行きましたよね。僕としてはクライアントというよりは〈マメ クロゴウチ〉と協業している感覚に近かったです。

黒河内 大きな店づくりに携わったことのない私が深く関わらせてもらえるのは、とても意外でした。同時にものづくりをしている者としてうれしくもありました。

柳原 糸や生地を探しに各地を訪ねられているので、いろいろ目にしておきたいのではないかと。あと、単純に、作り手として楽しんでもらえそうだと思ったんですよね。

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細部の意匠が美しい所作へとつながる

柳原 石灰岩とのコントラストとして随所に金物や木材を施しています。なかでもラックなどに用いているのは「神代欅」と呼ばれるもの。長い年月を土中で過ごしていたため、独特の色合いと木目を形成しています。

マメスタッフ 実は「神代欅」をもっとも配置しているのは、カウンター裏の引き出しなんです。木目まできれいにそろえられています。スタッフしか目にしない部分だからこそ誂えたいと、黒河内たってのリクエストでした。貴重な木材に触れることで背筋が伸び、自然と丁寧な振る舞いが生まれます。

柳原 服でいう裏地と同じだと。皮膚と密接するので、すごく重要だと話されていましたね。このように徹底される姿は刺激にもなりますし、設計者冥利に尽きます。

都倉 壁と向き合う日々を終えて、あらためて全体を見渡すと、もうすでに街に溶け込んでいると感じました。訪れた方が笑顔になって帰ってほしいですね。

柳原 静寂のなかで〈マメ クロゴウチ〉の服ととことん対話してもらえたらうれしいです。

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看板のない1階入り口をくぐると、「西海園芸」山口陽介さんによる箱庭がお出迎え。長野の原風景を再現。

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エントランス左側にある階段の柔らかいなめらかさ、そして登り切った先でまずは左官の美しさを堪能。このステップ幅の狭さこそがかつては住居であったことを物語っている。

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右側に見えるガラス張りのスペースが試着室。服と対話ができるようにブティックとしては規格外の広さを確保。カーペットは山形の老舗絨毯ブランド「山形緞通」の手刺緞通を贅沢に採用。両A面のカーテンはデンマークのファブリックブランド〈クヴァドラ〉のもの。

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雪原を連想させる白い天井、壁、床は左官仕上げによるもの。自然素材の経年変化も愛でていく。着想源は2022年6月に黒河内真衣子さんと柳原照弘さんが旅をした南仏アルルにて。砂質石灰岩による白い建物をたくさん目にし、その柔和なムードに感銘を受けたそう。

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バッグ類を飾るショーケースの棚も、1000年単位ものあいだ地中に眠っていた「神代欅」で誂えた。ガラス越しにのぞく美しい佇まいに見入ってしまう。実物を手にしたいときは、ケースから取り出してもらう。スタッフの振る舞いも店を構成する大切な要素となる。

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梁だけを残した2階は新たに壁を作り、奥行きを生み出すことで実際の坪数よりも広い印象へ。歩くうちに服を“発見”していく構造は、ル・コルビュジエが多用した空間内の散策で景色の変化を楽しむ“建築的プロムナード”の考えを用いて設計。ラックを設置するのは壁側のみ。訪問者は一着に集中できる。コレクションを眺めるうちに美術館へトリップした感覚に。

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複数あった窓はひとつに絞り込んだ。表参道の緑がのぞく。左官仕上げによる空間が、自然光をやさしく店内へと招き入れる。服と向き合う場である点を考慮してBGMはなし。

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GINZA2023年3月号掲載

yagiyukiya

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