リクルート江副浩正だって最初から8兆円企業を作ろうとしたわけではなかった

リクルート江副浩正だって最初から8兆円企業を作ろうとしたわけではなかった

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2021/11/25
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新事業創出チャンスが加速度的に増えているにもかかわらず、起業家数も起業件数もアメリカや中国などに比べて大幅に見劣りするのが日本の現状だ。しかし、いまや時価総額トップ10に入る大企業のリクルートだって、江副浩正がたった1人で立ち上げた小さな会社だった。今そういうアクションがもっとないと、未来の日本企業社会は年老いた活力のないものになってしまう。GAFAMのあとを追うどころではなくなってしまうのだ。現状が居心地いいからといって、私たちの働き方が今のままでいいわけがない。成功した起業家はどう意識を変えたのだろうか。『起業の天才! 江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男』の著者でジャーナリストの大西康之氏と、新規事業家で『起業は意志が10割』の著者である守屋実氏が語り合った。

大きなリスクを背負わなくても起業できる時代

大西 リクルートの創業者・江副浩正が会社を立ち上げた時、最初から「日本に新しい情報産業を作ろう!」といった志は持っていませんでした。フェイスブック(現・メタ)のCEO・ザッカーバーグも創業当初から現在のような状態になるとは思っていなかったでしょう。スタート地点は、効率的にお金を稼ごうであったり自分の技術でおもしろいことをやろうという思いだったり、あるいは身の回りに問題を感じたりするところだったはずです。それが、ある段階から意志が10割へと成長していきます。つまり、私は意志は育っていくと考えています。

守屋 そうですね、意志は育っていくと思います。僕は起業する人は決して「特別な人」ではないと思っています。最初から新規事業を興そうという強い意志を持っていなくても、きっかけは何でもいいのです。世の中がこれだけ猛スピードで変化していく中で、「何も変わらない」ほうがむしろ難しい。一般的な意味での起業と定義されるかどうかは別として、誰もが何か新しいことをする時代に突入していると思います。

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大西 私はリクルート(元)社員にたくさんの取材を重ねて『起業の天才! 江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男』を書きました。これまでも多くの起業家の足跡を追って執筆を続けてきたので、おかげさまで「起業といえば大西」といってもらえ、ますます多くの起業家と出会う機会をいただけるようになりました。そんな中で、近年感じるのは、小さい頃から温暖化や格差など社会課題に触れて、「なんとかしたい」と思い、事業を立ち上げる若者が増えているということです。すばらしいことだなと、思っています。

守屋 そうですね。僕はこれまで「どうやったら起業できるんですか?」といった質問を数えきれないくらい受けてきました。しかし、世の中に解決すべきことなんて、そこら中にあるんですよね。さらにいうと、現在はSNSを通じていくらでもつながることができますし、スタートアップ向けの無料のサービスもたくさんある。資金調達のためにクラウンドファンディングをしてもいい。大きなリスクを背負わなくても起業はできる時代です。

大西 守屋さんは「新規事業家」として、ずっと世の中の困りごとを見つけて解決を続けています。困りごとを発掘する天才ですよね。大きな変化を遂げている今の社会では、むしろ課題は増えている。事業を作るチャンスはいくらでもありますよね。

ホワイトカラーとブルーカラーの進化形はこうなる

守屋 そうした感度は、とくに大企業に長くいると低くなるかもしれません。私も最初はミスミに就職したサラリーマンでしたが、歴史上、1社に就社して人生そのまま真っ直ぐ進んでいく時代は、どこの国でもどの時代でもほとんどなかったのではないかと思います。しかし、令和の時代になった今も、そんな「昭和の奇跡」を引きずった昭和96年の意識の人がいる。入社1年目で「何ができるかわからない」というならばまだわかりますが、3年、5年、10年とどんどん社内での時間が経つにつれて自らの意志を持たない習慣がついてしまいます。それに慣れすぎてしまうと、治療不可能になってしまいます。

大西 私も28年間会社員でしたが、企業の中にいると、言われたことをやって上司に褒められて少しずつ階段を上がっていくのが楽しくなっちゃうんですよね。社畜としての首輪が、プラチナになり、ゴールドになり……みたいな、そんなゲームで妙に日々が充実してしまうんです。しかし、「それが本当にやりたいことなのか?」といざ問われると、「違う」と気付くんです。

守屋 しかも、今後は労働者を取り巻く環境も大きく変わっていくでしょう。これまでは、ホワイトカラーとブルーカラーという単純な構造でした。それが、ホワイトカラーはピュアホワイトとオペレーショナルホワイトに分かれ、ピュアホワイトは経営者や投資家で、オペレーショナルホワイトはAIに代替できない最終的にジャッジするような仕事と位置づけられます。

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ブルーカラーの仕事は、機械に代替される部分も多いでしょうが、替えの効かない専門的な領域を人間が行い続けることとなります。替えの効かない存在なので、報酬が上がり、ブルーカラーはスカイブルーとなっていきます。さらに、資本主義的成長に興味がないグリーンという層も現れるのではないかとも思います。大きく環境が変わる中で、自分はどう働くのかが問われているように思います。

大西 おもしろいですね! みんなが1日8時間「言われたことをやろう」と会社で働いた時代ではなくなりつつありますよね。

「それは、あなたが決めることでしょ」

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大西康之氏

大西 社畜的な働き方の反対に位置するのが、「当事者意識」だと思います。リクルートのおもしろいところは、面接の時点から「この会社で何をしたい?」を尋ね、そこからずっと、それを聞かれ続けるところです。そして、「これをしたいです」「こんなことに困っています」というと、「じゃあ、きみ、それをやって。どのくらい人数が必要?」とプロジェクトがスタートする。だから、リクルートのメンバーたちに話を聞くと、「あの事業は俺が立ち上げたんだ」という人がたくさんいるんです(笑)。そうした圧倒的な当事者意識を持たせる組織文化を作った江副は、やはり天才だったのだろうと思います。

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守屋実氏

守屋 江副さんとはキャラクターが異なりますが、ミスミ時代に田口弘さんも同じような風土を作っていました。起業で一番大事なことは、人と金ですよね。普通の企業は、人事権も予算権も社員にはありません。でも、田口さんは極力それを社員に渡すようにしていました。「空(くう)の経営」と呼ばれていたのですが、「この事業、現在こういう状況ですがどうしましょうか?」といった相談をしても、田口さんは「それは、あなたが決めることでしょ」と言うんです。一人ひとりが事業の経営者であるということを意識させるわけです。人事異動すら社員が自分たちで決めるオリジナルの制度を運用していました。

会社にいても「会社のプロ」でなく「仕事のプロ」に

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守屋 会社にいながら起業につながる意志を育むには、『起業は意志が10割』でも書いたように、僕は「会社のプロから仕事のプロ」になっていくことが重要だと考えています。仕事のプロとは、弁護士などがわかりやすいですが、一つの専門性でさまざまなクライアントと働く存在です。「仕事のプロ」は会社の中には存在しないかというと、そんなことはありません。たとえば、広報のプロや法務のプロ、経理のプロという方もいるでしょう。「自分は何のプロになりたいか」という意志もなく、与えられら作業を淡々と行っていると、いつの日か、消去法的に会社のプロになってしまいます。会社に勤めていても、自分は何をやりたいのか、自分の意志さえ持っていれば仕事のプロになるのです。また、何の仕事のプロになりたいかが定まれば、副業でもプロボノでもよいので、その専門性を社外で生かしてみるもいいんじゃないでしょうか。

自分の単価を知るのが「仕事のプロ」への第一歩

大西 多くの人は、「起業は特別な才能や恵まれた環境がある人しかできない」と思っている。しかし、そんなことはないですよね。『起業の天才!』で描き込んだように、江副はもともと非常に貧しい家庭環境で育ちました。その中で自分で効果的に稼げる方法を見出し、リクルートの創業にまでつなげていきました。

守屋 簡単にいうと、自分でお金を稼ぐという実感が重要なのかもしれませんね。

大西 たしかに、私が会社を辞める時に大きな不安がなかったのは、自分の原稿の単価を知っていたからです。このぐらいの時間をかけて取材・執筆をしたものは、だいたいどれくらいの値になるということがわかっていました。アメリカでは、会社員であっても確定申告(タックス・リターン)をします。そうすると、自分の収入と経費を把握し、さらに税金や健康保険はいくら払っているのかなどを理解します。「昨年に比べて収入はこれくらい増えたのか」「支払ったこのお金は何に使われているのか」といったことを明確に理解することができます。これは、「仕事のプロ」への第一歩だと思います。日本の会社員も確定申告することをシミュレーションすれば、受身的に会社から給料が支払われる状態からは脱していくはずです。

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守屋 さらにいうと、会社の外に出れば、ものを書いて稼いでいる人はたくさんいます。そうしたコミュニティに入れば、どれくらいの相場観なのかを掴むことができる。著述の世界だけでなく、どの分野であっても同様のことがいえます。自分の1年先を走っている人もいれば、10年先の人もいる。そういう人と交われば、いくらでも自分はどう生きていけばいいかをイメージしていくことができます。

チャンスが到来したらいつでも掴めるよう習慣づける

大西 昔に比べて現在は、ずっとそういったことをしやすくなりましたよね。昔は、オフィスに9時-5時でいなければいけませんでしたし、副業も基本的には禁止されていました。しかし、今は副業を解禁している企業も増え、オンラインで仕事ができる。なだらかに、社外で仕事を始めてみて「本当に好きなこと見つかったら辞める」ということがいくらでもできる時代となっています。私がよく言っているのは、「たった2人しか乗れないロケットのコックピットに乗れるチャンスがあったら、迷わずに座ってみろ」ということです。そんな経験できないし、絶対におもしろい。怖さもあるかもしれませんが、ワクワクしたら飛び込んでみることが大事なのです。

守屋 大切なのは、チャンスが来たら掴めるよう、日頃から自分で「やる・やらない」の判断を何遍も経験しておくことです。そして「やる」と判断したら、ちゃんとやることを身につけておくこと。いつも「やらない」の判断ばかりしている人は、ロケットのコックピットに座るまたとないチャンスがきても、きっとその時も座らない判断をしてしまいます。日頃から、意志を持って、一歩を踏み出す癖をつけておくことが重要なのです。

(オンライン対談 構成/佐藤智)

◆大西康之
1965年愛知県生まれ。1988年、早稲田大学法学部卒業後、日本経済新聞入社。欧州総局(ロンドン)、日経ビジネス編集委員、日本経済新聞編集員などを経て2016年4月に独立。著書に『稲盛和夫最後の闘い JAL再生に賭けた経営者人生』『ファーストペンギン 楽天三木谷浩史の挑戦』(以上、日本経済新聞出版社)『三洋電機 井植敏の告白』『会社が消えた日 三洋電機10万人のそれから』(以上日経BP社)『ロケット・ササキ ジョブズが憧れた伝説のエンジニア佐々木正』(新潮社)『起業の天才! 江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男』(東洋経済新報社)などがある。

◆守屋実
1992年ミスミ入社、新規事業開発に従事。2002年新規事業の専門会社エムアウトをミスミ創業者の田口弘氏と創業、複数事業の立上げおよび売却を実施。2010年守屋実事務所設立。新規事業家として活動。ラクスル、ケアプロの立上げに参画、副社長を歴任後、キャディ、シタテル、ガラパゴス、みらい創造機構、JCC、日本農業、サウンドファン、セイビー、フリーランス協会、みんなのコード、おうちにかえろう病院、博報堂、JAXA、JR東日本スタートアップなどの取締役など、内閣府有識者委員、山东省経済顧問を歴任。2018年にブティックス、ラクスルを2か月連続で上場に導く。近著『起業は意志が10割』(講談社)『DXスタートアップ革命』(日本経済新聞出版)。

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