「天心VS武尊」戦が変えた“格闘技とお金”の常識 石井館長は「ファイトマネーは2億円以上」と言及

「天心VS武尊」戦が変えた“格闘技とお金”の常識 石井館長は「ファイトマネーは2億円以上」と言及

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  • 更新日:2022/06/23
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死闘を演じた那須川天心(右)と武尊

6月19日に開催された、「那須川天心VS武尊」戦がメインとなった東京ドームでの格闘技イベント「THE MATCH」は、5万6399人もの観客を集めた。「天心VS武尊」の対決は格闘技ファン待望の試合だったが、地上波での放送はなし。ネット動画サービス「ABEMAプレミアム」が独占配信した。だがフタを開けてみれば、テレビ中継なしでも興行的には大成功を収め、試合は世間の大きな話題となった。図らずも、テレビに頼らなくても格闘技イベントは盛り上げられることを証明した形となった。「天心VS武尊」戦を契機として、スポーツ放送の在り方が大きく変わる可能性がある。

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格闘技ファンが待ち望んだ「世紀の一戦」は、那須川天心が武尊を判定5-0で下した。それぞれ別の格闘技団体に所属しながら頂点に立ち、およそ7年の紆余(うよ)曲折を経て実現したカードだっただけに、2人には大きな称賛が送られた。

「天心VS武尊」戦は世間の注目が高かっただけに、当初、「THE MATCH」はフジテレビがゴールデンタイムで放送する予定だった。だが、5月31日に同局は「主催者側との契約に至らず、放送しないことが決まった」と発表。これに対して、天心は自身のSNSで「お金の為じゃねえんだよ。未来の為にやってんだよ。子供達はどうすんだよ」と怒りをあらわにし、武尊も「この試合の意味を分かって欲しい」と訴えた。

結局、試合は「ABEMAプレミアム」でのネット配信のみとなったわけだが、結果的にはこれが大成功。視聴する番組ごとに料金を支払うPPV(ペイ・パー・ビュー)は50万件を超えたと発表された。

PPV方式のチケットは、5500円(ABEMAプレミアム会員は4400円)の「一般チケット」と、7700円(同6160円)の「那須川天心応援チケット」「武尊応援チケット」の3種類が販売された。この金額帯のチケットが50万件も売れたというのだから、莫大な収益となったことは想像にかたくない。

K-1の創設者で、数々の格闘技大会をプロデュースしてきた正道会館の石井和義館長は、試合直後にツイッターでこうつぶやいた。

「チケット売り上げ20億、ペイパービュー50万件25億、スポンサー5億、計50億。観客数59000人すべての興行記録塗り替えたね。選手、並びに全ての関係者に心より感謝いたします。ありがとうございました!」

このツイートはまたたく間に拡散され話題となったが、改めて石井館長にツイートの真意と試算の根拠を聞いてみた。

「観客数は、大会関係者も含めると5万9000人くらいになるでしょう。客席はリングサイドの1列目300万円、2列目200万円、3列目100万円と、(価格設定としては)ちょっと高すぎると思いましたが、それがあっという間に売り切れましたからね。PPVが50万件というのも、すごい数字です。イベントによっては無料で入れている客がいるものだけど、今回は実際にチケットを購入した人の人数ですからね。格闘技の試合の記録を塗り替えたと思います。もし、フジテレビが放送していたら、そんなにPPVの数字は伸びなかったでしょう。ABEMAはプレミアム会員になると20%引きで見られるから、ほとんどの人は会員登録してから試聴したと思います。ABEMAの会員は一気に何十万人も増えたはずです」

石井氏はスポンサー料を「5億円」と試算したが、その内訳はどう計算したのだろうか。

「私のプロデューサーとしての経験で推定しました。メインスポンサーが4社あって、1社1億円出せば4億円。あとは小さいスポンサーを全部まとめて1億円くらいと計算して、合計5億円くらいじゃないかと試算しました。チケット代やPPVの収入もすべて合わせると全体で約50億円になる。でもそれにはグッズの売上げは入っていませんから、実質的な収入はもっとあるでしょう」

石井氏がツイッターでこの試算を出したことで、スポーツ紙などはこれを引用し、多くの関心が集まった。

「プロスポーツなんですから、お金のことは大切ですよね。大きなお金と名誉が得られるから、若い子たちが夢を抱いて目指せる部分はあると思います」

それならばと、さまざま臆測が飛ぶ天心と武尊のファイトマネーを聞いみると、こう推察してくれた。

「先日、世界タイトルマッチを行ったボクシングの井上尚弥選手のファイトマネーが2億円くらいと聞きましたが、それより多いんじゃないか。天心も武尊もファイトマネーは2億円以上だと思いますよ。そのくらい、大会実行委員の榊原信行さんは頑張って出したんだろうと思います。これからは、試合後にPPVの収入の何%かをもらう選手も出てくるはずです」

その榊原氏は5月31日、フジテレビの中継見送りを受けての記者会見で、「(フジテレビとは)経済的な条件で折り合わなかったのではない。放映権料で折り合わなかったのではない」と放映権料自体はさほどの金額ではないことを明かした。あくまで天心と武尊の試合を多くの人に見てもらいたいのだと説明した。石井氏は3大ドームなどで大イベントをプロモートしてきた経験から、放映権料について次のように話す。

「私の時代は、ああいう大きなイベントでは、テレビの放映権料は1億円以上ありました。年末の格闘技イベントでは3億円もらったこともあります。今はもっと少ないでしょうし、今回のPPVの売り上げにはかなわないですよね。ただ、榊原さんも言っていたけど、お金の問題じゃないと思うんですよ。別に放映権料が安いから、地上波はいらないというわけじゃない。子供たちに夢を見せたいから、あるいは天心と武尊に地上波のゴールデンタイムでやらせたいから、(榊原氏は)フジテレビでやりたいと言っていたと思うんです」

どうしても多くの人に試合を見てもらいたい――その思いは選手も同じだっただろう。それが顕著に表れたのは、試合のルールについて「武尊が(天心が所属する)ライズのルールに合わせた」ことだったと石井氏は話す。武尊は不利なルールで闘うことになっても試合の実現を優先させたのだろう、とみる。

「今回の『ワンキャッチ、ワンアタックあり』のルールは、武尊にとっては不利です。武尊は前に出てラッシュで倒すタイプなので、クリンチされるとラッシュが止まる。せっかく、これから詰めて倒そうという時に、天心がクリンチしてうまく逃げればそこからまたスタートになる。天心は距離を取ってカウンターを狙うタイプなので、離れて戦いたいわけです。普通なら(武尊が所属する)K-1側はのまないルールですよね。それをのんだということは、武尊がどうしてもファンのために試合を実現させたかったのだと思います」

今回の中継を大成功させたABEMAには、今後も注目のコンテンツがある。11月から12月にかけて、カタールで開催される「FIFAワールドカップ2022」の全64試合を無料生中継することに決まっている。元博報堂で作家の本間龍氏はこう話す。

「ABEMAはワールドカップに数十億円以上のお金を出しているでしょう。これは先行投資であり、ABEMAにとっては、ワールドカップで試聴がどれくらい伸びるかが、今後の試金石になると思います」

スポーツとネット放送の結びつきはますます強まりそうだ。6月7日に行われた井上尚弥とノニト・ドネアのWBA・IBF・WBC世界バンタム級王座統一戦は「Amazonプライム」が独占生配信した。

「スポーツコンテンツで、顧客を引きつけようという戦略はABEMAと同じです。ただし、Amazonは多国籍企業ですから、世界各地で、いろいろなコンテンツを買いまくっている。その中でもスポーツは、言葉が通じなくても盛り上がれるし、勝敗がつくのでわかりやすい。今後もネット配信の有力なコンテンツになっていくでしょう。『Apple TV』も今年4月から、MLBと提携し、『フライデーナイトベースボール』をネットで無料配信し、メジャーリーグのファンにアプローチしています。人気スポーツのネット配信での価値ははますます高まるはずです。天心vs武尊の一戦で、いよいよそれが形になって現れたということだと思います」

今後、天心はボクシングへの転向を表明しているが、武尊との再戦はあるのだろうか。前出の石井氏はこう話す。

「天心がボクシングで世界を獲ったら、ボクシングを引退して総合格闘技にやって来るという展開はあり得ると思います。そして、総合のリングで武尊と天心が、世界タイトルをかけて再戦する。そんな夢の対戦を見てみたいですね」

その時は、格闘技の「楽しみ方」もさらにカタチを変えているかもしれない。(AERA dot.編集部・上田耕司)

上田耕司

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