「小学4年生で人生が決まる」日本で進行する新型格差社会のヤバさ

「小学4年生で人生が決まる」日本で進行する新型格差社会のヤバさ

  • PRESIDENT Online
  • 更新日:2021/05/04

都市部で中学受験をする家庭が増えている。社会学者の山田昌弘氏は「日本では教育格差が進行している。中学受験をできるかどうかでその後の人生ルートがある程度決まってしまう」と指摘する――。

※本稿は、山田昌弘『新型格差社会』(朝日新書)の一部を再編集したものです。

No image

写真=時事通信フォト東京大学・本郷キャンパスの赤門=2021年2月25日、東京都文京区 - 写真=時事通信フォト

コミュニケーション力が過剰に求められる現在

他人と円滑に意思疎通をするコミュニケーション力を重視する傾向は、あらゆる企業の採用で広がっています。

30年程前までは、公務員試験ではペーパーテストさえ合格すれば、面接はほぼフリーパスでした。しかし最近は、ペーパーテストの成績の比率が下がり、面接の印象が良くなければ合格できなくなりました。多くの企業も採用で重視する項目に「コミュニケーション力」を挙げており、「真面目にコツコツ努力することが得意、でも人と喋るのが苦手」な学生は、就職活動で自分をアピールできず、何十社受けても一社も内定が出ないことが珍しくないのです。

学生もそのことを自覚していますが、コミュニケーション力には性格も関係するため、一朝一夕にはなかなか変えられません。コミュ力重視の就職活動に無理やり自分を適応させることに疲れ果て、就活をやめてしまい家に引きこもってしまう学生もいます。最近は就活指導を専門とする塾もあちこちにでき、そうした場では面接指導なども行っています。膨大なデータが蓄積されていて、何々省採用向けの面接、銀行採用向けの面接など、採用先に合わせた面接指導もしています。当然のように安くない受講料がかかります。

子どもの興味関心は、親の教養に左右される

社会の動向に通じている人の中には、「今後の社会を生きていくためにはコミュニケーション力が必要だ」と早くから気づき、インターナショナルスクールや先進的な教育を行っている学校に子どもを通わせている親も少なくありません。以前、ある公立の科学館に講演に行ったのですが、そこで行われていた子ども向けの科学教室では、小学生になったばかりの児童の取り組みを母親たちが参観していました。きっとその親たちは、自分の子どもがサイエンスに興味を持つことを願って、その教室に申し込んだはずです。科学実験をしている子どもたちを熱心に見ている母親の姿に驚いたものです。ちなみに費用はほとんどかかりません。

子どもの知的な興味や関心は、親自身の教養に対する関心に大きく左右されます。家に大きな本棚があって、そこにたくさんの本がある家庭に育った子どもと、まったく読書をしない親のもとに育った子どもでは、知的好奇心に大きな格差が自然に生まれてしまうのです。OECD(経済協力開発機構)の調査でも、自宅にある本の冊数と子どもの学習成績の間には相関があるという結果が出ています。

育った家庭で「観るテレビ番組」も違う

余談ですが、知り合いからこんな話を聞きました。ある大卒の女性が高卒の男性と恋愛結婚して一緒に生活し始めた後で、初めて気づいたことがあったそうです。それは、「観るテレビ番組が違う」ことです。その男性は正社員として頑張って仕事をしている真面目な人ですが、観るテレビはお笑い芸人が出てくるバラエティ番組ばかり。

一方女性のほうは、クイズ番組やNHKのニュース番組を見て育ったタイプ。彼女がクイズ番組で、「この答え、わかった」と言ったら、夫に「よく知ってるね」と感動されたそうです。子ども時代にどのような家庭に育ったかで、成長してからも興味や関心の領域が違ってくることをまざまざと感じさせられたエピソードです。

最近の日本では、実践的な英語教育の重要性が叫ばれるようになり、小学校から英語の授業が始まっています。しかし語学を身につけることは水泳のような運動と一緒で、いくら畳の上で泳ぐ真似をしても泳げるようにはならないように、どれだけ本物の外国語に触れているかが最も重要です。学校の授業で1週間に2~3時間学ぶぐらいでは、英語は決して身につきません。やはり、普段の日常生活でどれだけ英語に接しているかが決め手になるのです。

親が仕事で英語を使っていたり、帰国子女で幼い頃に外国で生活していたりする人は、そういう点で圧倒的に有利です。英語を話すことが当たり前の環境で育つと、自分も「当たり前」に適応するために自然に頑張るのです。

No image

写真=iStock.com/Punchim※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Punchim

「親の格差」は「子どもの教育格差」につながる

昨今わずか20年程の間に、日本では経済のグローバル化が急速に進みましたが、早くからその潮流を見抜いていた家庭の子どもとそうでない子どもとの間では、英語力に圧倒的な差があるのは当然です。「英語は話せて当たり前」という家では、幼い頃からバイリンガル教育に力を入れますが、親自身が英語の「え」も話せない家では、そもそも「英語が大切になる」という発想すら浮かびません。英語力もまた、学校の学習では到底追いつかないぐらいの「格差」が拡大しつつあるのです。

現在、オンラインで仕事ができる人々は、IT企業をはじめとするオフィスで働くホワイトワーカーが中心です。実際には、どんなに工夫してもテレワークできない業種のほうが、日本では圧倒的に多いのが現実です。パンデミック下においても、一部の家庭だけが充実した教育を子どもに受けさせることができたのに対し、そうでないほとんどの家庭は、子どもの教育機会を減らす結果になってしまったことは否めません。新型コロナウイルスは、親の格差が子どもの教育格差につながる実態をも浮き彫りにしたといえるでしょう。

このように、コロナ禍が顕在化させた親の状況による教育格差を、公的に埋める手だてを考える時期に来ています。

都市部で目立つ中学受験をする家庭

もともと日本では、コロナ以前から「教育格差」が静かに進行していました。この15年ぐらいの間に、東京や神奈川、大阪などの都市部の家庭では、中学受験をして私立中学を目指す人が増えています。一定以上の収入がある家庭では、子どものほとんどが地元の公立に進学せず、私立に進むという地域もあります。中高一貫の私立に進学した場合、6年間の学費は400万円以上かかるのが普通ですが、それでも私立を選ぶ家庭が増えています。

No image

写真=iStock.com/RichLegg※写真はイメージです - 写真=iStock.com/RichLegg

数年前に、東京の下町にある中学校に教育実習生の指導に行ったことがあります。驚くことにそのクラスでは、女子中学生の人数が男子のほぼ半分でした。先生方に訊くと、その地域に住む女子の家庭の多くが、娘を近隣の私立中学に進学させることが理由でした。なぜなら校則を守らない生徒が多く、「娘をこの中学に入れたらまずい」と考えての親の判断が生まれるのでしょう。

私もその中学の授業を見学しましたが、先生が何人も教室にいる中で、男子生徒が消しゴムの飛ばし合いをして遊んでいました。私語もひっきりなしに聞こえてくるのに、教師は誰も怒らないのです。「これでは、インテリの親は確かに娘を入学させたくないだろう……」と感じたものでした。

「小4で中学受験専門塾に入れるか」で人生が決まる

近年、日本の最難関大学である東京大学や京都大学に入学する学生の多くは、中高一貫校の卒業生だといわれます。いわば、「学歴」を決めるのが大学受験ではなく、中学受験だというわけです。小学生のときから受験のために塾通いをし、中高一貫校への入学を果たして偏差値の高い大学を出た彼らは、大手の優良企業や給与の高い外資系企業などに就職し、社会の「上層」の一員となっていくのです。

つまり、小学4年生ぐらいの時点で、毎月5万円以上の受講料がかかる中学受験専門塾に通えるかどうかで、その後の人生ルートがある程度決まってしまう。これが、今の子どもを取り巻く現実になりつつあります。親の所得が子ども世代に影響し、格差が再生産されている状況です。この日本の「教育格差」の広がりによって、10~20年後に社会階層の固定化がもたらされることが予想されます。極端にいえば、日本は自ら階級社会への道に戻ろうとしているのです。

大卒は大卒以上と結婚し、高卒は高卒同士で結婚する

この状況は、芸能界やスポーツ界にも当てはまります。ひと昔前は、恵まれない家庭環境の中から、アイドルやスポーツ選手が生まれてくることも多かった。しかし今は、子どもの頃からトレーニングすることが、活躍のためには必須の条件になりつつあります。

日本では特に、女性が結婚相手に対し、自分よりも高い学歴を求める傾向が強くあります。自分が大卒であれば、大卒以上の男性と結婚することが最低限の条件である、という女性は少なくありません。大卒同士の夫婦は、自分たちの子どもに関しても「必ず大学は出てほしい」と願います。

No image

写真=iStock.com/kyonntra※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kyonntra

それに対して高卒同士の夫婦は、大学というものに対して具体的なメリットを実体験で感じていません。大学にかかる4年間の学費を払うよりも、高校を出てすぐに働き始めたほうが親元から早く独立できますから、むしろ大学進学を望まないケースもよくあります。

女子大学生にインタビューすると、ここ数年、彼女たちの多くは結婚相手の年収よりも、「職業安定性」を求めていることに気づかされます。かつては「年収1000万円以上でなければ結婚しない」などと言う女性がいたものですが、それも今は昔です。日本が長期不況に陥りデフレ経済下で20年以上が経過し、結婚適齢期の20代後半から30代前半でそのような高年収を得ている男性の数は激減しました。

年収600万以上の若い独身男性は、東京でも3.5%しかいない

ある結婚相談所の調べによれば、未婚の女性が結婚相手に望む年収は現在も、500万~599万円、600万~699万円が半数を占めます。しかし現実を見ると、令和元年における日本人男性の平均給与は、全世代を含めて540万円しかありません。国税庁の民間給与実態統計調査を見ると、20代から30代前半に限った場合、400万~500万円が普通なのです。首都の東京とそれ以外の地域では給与に差がありますが、東京ですら年収600万円以上の若い独身男性は3.5%しかいないのです。

No image

新型格差社会』より

そのため結婚相談所を運営する会社やお見合い事業を運営する自治体の部署では、高年収の相手を望む女性に対して、カウンセリングで説得することがあるそうです。「年収600万円以上の男性」を希望する女性がいたら、「では、もしも年収590万円で、それ以外の条件はぴったりという男性が現れたらどうしますか?」というような質問をして、相手に望む年収のランクを下げさせるというのです。ランクを下げないと、紹介できる男性がいないからです。

「女性側がお金を払う」マッチングサービスもある

一方で現実的な考えを持つ未婚女性の多くは、年収の多さよりも結婚相手の候補となる男性の職業安定性に敏感になっています。欧米型の市場経済が日本企業にも浸透し、雇用規制の緩和によって正社員以外の労働者が増えたことから、公務員や銀行員のような安定した職業に就いている男性が結婚相手として人気が高いのです。

No image

山田昌弘『新型格差社会』(朝日新書)

若い女性の多くが、自分が親から与えられたような生活を結婚後も維持し、戦後型家族の典型であった「父親が働きに出て、母親は主に家事をして家を守り、2人から3人の子どもを育てる」という家族形態を望んでいます。不安定な職業の男性と結婚してしまっては、リストラなどにあったときに生活できなくなるリスクがある。そのリスクを回避するために、安定した職業の男性を求めるのです。

昨今では、「出会い」のスタンダードとなりつつあるインターネットを利用したマッチングサービスにおいても、安定した職業の男性が有利な「買い手市場」になっています。結婚を前提としない出会いを目的としたマッチングアプリでは、男性が女性にコンタクトをとるのにお金を払うサービスが一般的です。

それに対して婚活目的の「優良な男性会員多数」を謳うサービスの多くは、男性会員は年収や大企業の正社員であるなどの条件を満たせば会費がかからず、逆に女性側がお金を払う仕組みになっているところもあります。

----------
山田 昌弘(やまだ・まさひろ)
中央大学文学部教授
1957年、東京生まれ。1981年、東京大学文学部卒。1986年、東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。専門は家族社会学。学卒後も両親宅に同居し独身生活を続ける若者を「パラサイト・シングル」と呼び、「格差社会」という言葉を世に浸透させたことでも知られる。「婚活」という言葉を世に出し、婚活ブームの火付け役ともなった。主著に『パラサイト・シングルの時代』『希望格差社会』(ともに筑摩書房)、『「家族」難民』『底辺への競争』『結婚不要社会』(朝日新聞出版)、『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』(光文社)など。
----------

山田 昌弘

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

  • このエントリーをはてなブックマークに追加