銭湯は癒しではない? 〜湯を語ろう〜

銭湯は癒しではない? 〜湯を語ろう〜

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  • 更新日:2023/09/19

あなたは“湯“と言って、何を連想しますか?
温泉?それとも銭湯?
私はどちらも好きですが、一概に“湯“と言っても、「温泉好き」「銭湯好き」「スーパー銭湯好き」とそれぞれ楽しみ方が全く違っているのに、最近気づきました。

1  銭湯

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梅の湯(足立区北千住)

湯はどれもみな疲れをとる空間と思いきや、
「銭湯」に限っていえば癒しという言葉は当てはまりません。

私の知る東京の銭湯は、42〜45度という熱めの湯にザパッと入り短時間でザッと上がります。
まさに江戸っ子気質ですが、実は医学的にいえば軽い火傷に当たるそうで肉体的ストレスを負い、むしろ疲れが生じるものだといいます。
たしかに温泉のハシゴはできても、銭湯のハシゴはかなりきつい。

だからこそ上がった後の清々しさは何かというと、困難をかいくぐったあとの精神的・肉体的な達成感から来るものに違いないと思われるのです。
もっとも最近の銭湯ブームは、昭和レトロという異空間が身近なところにあると気がついたからでしょう。

私も旅先で銭湯に入ることがよくありますが、そこでは地元の人と同じハダカで、傍に地元の人たちの会話を聞き、たまには会話に加わったり。
脱衣場の壁には手書きのお知らせやローカルなポスターが不規則に貼られ、通り一遍の観光地に行くより、よっぽどその土地の香りを感じることができるようです。

2  スーパー銭湯

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幕張温泉 湯楽の里(千葉市)

「スーパー銭湯」は銭湯とは全く違って、客が不満を感じぬよう計算され尽くした施設。
湯温はややぬる目、いくつもの異なる泉質の浴槽、ジェットバス、岩盤浴、サウナ、露天風呂、TV完備の仮眠室、マッサージ、食事ができ、何時間でも滞在できるまさに至れり尽くせりの非日常空間を演出します。

私のお気に入りのスーパー銭湯は、すぐ下が海なので、露天風呂にゆっくり浸かりつつ、風に吹かれ東京湾に沈む夕陽を刻々と眺めていられます。この身近で極上な時間がたまらない。

ただ、精神的肉体的に癒しの空間であるには間違いないのですが、それゆえに私の知る限りいつも混んでいます。家族づれや運動サークルの団体などが利用するため、ひどい日はどうしても芋洗い状態となってしまいます。
スーパー銭湯を上手に楽しめる人は、空いた時間帯を狙った比較的自由な時間を作れる人なのかもしれませんね。

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3  温泉

「温泉」は、ほとんどの人は“旅行“という手段がともないます。
なので決して身近ではないし旅費もかかるのですが、それでも温泉の魅力に取り憑かれたら、日本中の温泉という温泉に入りまくりたい衝動に駆られます。
何を隠そう私もその一人。
北海道から沖縄まで100ヶ所以上は入らせてもらっています。
温泉といっても、有名な観光ホテルの大浴場ではなく。人の手がかかりすぎない自然を大事にした湯が好きで、そのため、時にはありえないシチュエーションの中で素っ裸になることもあります。

たとえば屋久島の平内海中温泉(鹿児島県)。
脱衣場らしい脱衣場もなく水着も禁止。干潮時に入る波しぶきの中の温泉で、時より大波が入り込むと湯温が一気に下がる。
男女も関係ない混浴のため、女性はもとより男性にとっても多少勇気が必要ですが、いったん入浴すると真っ青な海と自分しかいない、感動の体験を満喫できました。

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また、全国でも貴重な別府・明礬温泉保養センターの泥湯も大変印象に残りました(大分県)。
とにかく全身ドロがまとわりつくのです。まず内湯では手すりにつかまりぐるぐると歩行コースを歩き、それからドーンと広い露天風呂へ。露天はほぼ混浴ですがみんな泥だらけなので、特に恥ずかしいことはありません。
硫黄の匂いのなか自分もマグマから湧き出た物体のようでめちゃくちゃ面白かった。

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崖を少し登って滝の中腹まで来ると、その脇に岩で小さな浴槽がこしらえてあり、手を伸ばせば滝に触れることもできそうな奥鬼怒温泉八丁の湯(栃木県)。
ここは、尾瀬沼の南の山深い谷に、ひっそりと湧いている秘湯。
バス終点から森の中を1時間ハイキングして着くのですが、起伏はなく平地の森なので心地よく、運動不足の私でも全く疲れを感じませんでした。滝見の温泉は全国数々あれど、ここはもっとも身近に自然の滝を感じます。稀有な温泉であります。

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そしてつい最近訪れてよかったところは、乳白色の乳頭温泉・鶴の湯(秋田県)。
藁葺き長屋が続く湯の里は、100年前にタイムスリップしたようで、露天風呂は整備されてとにかく落ち着けました。硫黄の匂いはキツくもなく、私にはちょうどいい。
乳頭温泉郷には7つの温泉がありますが、その中でもここ鶴の湯温泉と、黒湯温泉、休暇村が特にオススメ。

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こんなふうに露天の温泉は、自然のなか無抵抗なハダカでくつろぎ、日頃の憂さを忘れられるパワーがありますね。
温泉が持つ効能やさまざまな泉質を楽しむことももちろんですが、何より地底から湧き出た恩恵を享受することが、まるで大自然と一体化したような錯覚を覚え、日常の時間が消されていく。その開放感がここにはあります。

湯に浸かる、という欧米にない独特の方法を見つけた日本人。
その楽しみ方もさまざまですが、日本人の偉大さに感銘しつつ、私はこれからも地図をむさぼり、気になる銭湯や温泉に浸かり続けたいと思っています。

「銭湯」「スーパー銭湯」「温泉」
みんな違ってみんないい。

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マンガ家です。「緋が走る(集英社)」「島根の弁護士(同)」「ショパンの事件譜(小学館)」などを連載。また邪馬台国の真相に迫る「邪馬台国は隠された」(三冬社)、学習マンガ「日本の歴史・古代編(集英社)平安時代編(小学館)」。日本大学芸術学部講師もしてます。

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yukiota(https://note.com/lazy_planet)

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