『夜を走る』まさかの『ヘレディタリー/継承』『ミッドサマー』ラインの傑作!

『夜を走る』まさかの『ヘレディタリー/継承』『ミッドサマー』ラインの傑作!

  • 日刊サイゾー
  • 更新日:2022/05/14
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映画『夜を走る』が5月13日よりテアトル新宿と横須賀HUMAXシネマズで公開中、5月27日よりユーロスペースほか全国で順次公開される。

初めに申し上げておくと、本作は予備知識を入れずに観るのがいちばん良い。観る前は「邦画でよくある地味な人間ドラマかな」と失礼な印象を持っていたが、本編は先の読めない展開の連続、これほどまでにインパクトのある内容とは予想だにしていなかった。「こんな映画だとは思いもしなかった」驚きも含めて、とてつもなく面白い、年間ベスト候補の傑作だったのだから。

内容の完全なネタバレなしで言えることは、俳優がいずれもハマり役かつ持てる力を最大限に発揮しているということだろう。主演の足立智充と玉置玲央は人間味がありながらも底知れない恐ろしさを見せる、対照的な役柄をこれ以上ないほどに演じ切っている。なんとも「美味しい」役で登場する松重豊と宇野祥平もただただ最高だ。

「構想9年、オリジナル脚本で現代社会の相貌を描き切った怪物的傑作」という触れ込みは完全に正しい。(後述する理由で賛否両論も呼びそうではあるが)「いいから、とにかく観に行ってくれ」と言って終わりにしたいところだが、その面白さの理由を解説しないわけにはいかないので、3つの段階に分けて、内容に徐々に踏み込んでいくかたちで記していこう。いずれもネタバレには当たらないとは思うが、前述したように予備知識のない最良の状態で観たい方は、先に劇場へ足を運んでほしい。

1:『ヘレディタリー/継承』と『ミッドサマー』を連想させる理由

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『夜を走る』のジャンルはホラーとは呼べないかも知れないが、予想外の事態に翻弄され続ける様、日常に不意に現れた「落とし穴」にハマりこんでいく過程、さらなる「深淵」に連れていかれるような恐ろしさは、物語そのものは全く異なるものの『ヘレディタリー/継承』(18)を彷彿とさせる。加えて、後半には同じくアリ・アスター監督の話題作『ミッドサマー』(19)を強く連想させるシチュエーションが展開していくのだ。

試写で観た方からは絶賛に次ぐ絶賛が寄せられているが、おそらく賛否両論も呼ぶ内容でもある。ドス黒い笑い満ちたブラックコメディの要素が盛り込まれ、意図的に観客を「何この状況!?」と困惑させる不条理な演出や作劇もあり、気持ち悪さや不快さをあえて前面に押し出す場面もある。最後まで観ても「何が言いたいのかさっぱりわからない」という理由で、作品そのものに否定的なジャッジを下す方もいるのではないか。奇天烈とさえ言える物語であり、つかみどころのなさを覚える方もいるだろう。

だが、ラストのセリフと映し出される映像を鑑みれば、込められたメッセージは実は明確であるとも言える。賛否両論を呼びそうな「わけのわからなさ」「気持ち悪さ」があるものの、一方で「いったいどうなるんだ?」と興味を引かせる展開も連続する、わかりやすいエンターテインメント性があることも断言しておきたい。それも『ヘレディタリー/継承』『ミッドサマー』と共通する事項だ。

なお、『ヘレディタリー/継承』『ミッドサマー』とは違い、グロはほぼほぼ皆無ということも付け加えておく。ただし、直接的な残酷描写がなくても「想像をさせる」ことで良い意味でイヤな気分にもさせてくれるので、ある程度の覚悟を持って観たほうがいいだろう。

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ここでやっと、あらすじを紹介しよう。40歳を過ぎても実家暮らしを続ける冴えない男の秋本と、要領が良く目上の人間にも物怖じしない既婚者の後輩の谷口は、地方都市のスクラップ工場で淡々と日常を過ごしていた。ある日、秋本と谷口は、産廃業の営業に訪れた女性と夜に出会い、共に飲むことになるのだが、そこで起こった出来事から、2人の運命は大きく揺らぎ始める。

言ってしまえば、本作は罪を犯してしまった男2人が繰り広げる犯罪サスペンス映画だ。うだつの上がらない男が社会的に許されざる凶行に及んでしまう様から、『タクシードライバー』(76)や『ジョーカー』(19)を連想する方も多いだろう。

さらに「許されざる犯行を隠そうとするがバレそうになる」という、現実では絶対に体験したくないハラハラドキドキが提示されている時点で面白いわけだが、本作にはその秘密を共有する男2人の「バディもの」の魅力も付け加わっている。それでいて、彼らが固い絆や友情で結ばれているという訳もなく、「仕方がなく」一蓮托生で行動をしているということもミソ。彼らはなんとかして平和な日常を取り戻すべく(?)、成り行きで協力をしているのにすぎないのだ。

その危うい2人の関係が、どのように変化していくかにも注目してほしい。普通のバディものの映画のように「初めは反発しあっていた2人にやがて信頼が生まれてくる」展開にもできそうだが、本作ではちっともそうならない。「利害関係が一致したからとりあえず行動を共にする関係は所詮はそんなもの」というドライな批評にも思えるが、その一方で彼らにもお互いに少なからずの思い入れも生まれているようにも見える。その微妙な関係性もまた、面白いのだ。

3:前作『教誨師』を観てよりわかる精神性とテーマ

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この映画のテーマを第三者が勝手に言ってしまうのであれば、「誰もが日常的にギリギリのラインで平和を保とうとしているが、それはあっけなく瓦解してしまう」という恐怖だろう。劇中で起こる出来事は現実離れしているところもあるが、それは極端にデフォルメされているだけで、似たような落とし穴にハマりこみ、その後に深淵まで堕ちてしまうという恐ろしさは、誰にとっても他人事ではないはずだ。そのきっかけとなる「心の闇」も、誰もが持ち合わせているものだろう。

それでいて、「おぞましい出来事は、この変化の著しい現代社会のどこかで今も起こっている、そのような“一見平和な”世界で我々は生きている」という冷徹な視点もみて取れる。モチーフとして登場する「洗車場」の意図をよく鑑みれば、さらに作り手の意図を明確に感じられるだろう。

そして、その恐怖や心の闇について「ただ見つめる」ことにも意義がある作品だとも強く思えた。これは佐向大が本作の前に監督・脚本を手がけた『教誨師(きょうかいし)』(18)にも通じている。

『教誨師』は「6人の死刑囚と淡々と会話劇を繰り広げる」内容であり、犯した罪や生きることへの哲学的価値観の応酬が面白い作品だった。大杉漣の最後の主演作かつ初プロデュース作品であり、その名演をたっぷりと堪能できること、『夜を走る』の企画にも生前の大杉漣が関わっていることも感慨深い。後半で告げられる「穴」を見続ける意味への問答もまた、『夜を走る』に共通する精神性と言える。

『夜を走る』も『教誨師』も、総じて「人間」を鋭く深く描いている作品だ。それでいて、作品から受け取るものは人それぞれで異なるだろう。『ヘレディタリー/継承』『ミッドサマー』ラインの恐ろしさや面白さ、それでいて今までに観たことがない邦画の面白さを求める方には、改めて劇場で観てほしいと願う。

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『夜を走る』
5/13(金)よりテアトル新宿、5/27(金)よりユーロスペースほか全国順次公開
■配給:マーメイドフィルム、コピアポア・フィルム
▶︎CAST
足立智充 玉置玲央
菜葉菜 高橋努 / 玉井らん 坂巻有紗 山本ロザ
信太昌之 杉山ひこひこ あらい汎 潟山セイキ 松永拓野 澤 純子 磯村アメリ
川瀬陽太 宇野祥平 / 松重 豊
▶︎STAFF
脚本・監督:佐向 大
製作:大杉弘美 プロデューサー:村田信男、片山武志
撮影:渡邉寿岳 照明:水瀬貴寛 音響:弥栄裕樹 助監督:玉澤恭平 編集:脇本一美
撮影協力:武蔵野金属  制作協力:SS 工房
製作:TOEKICK★12、クイーンズカンパニー、Takano プロモーション、 プロジェクト ドーン、マーメイドフィルム、パロマイン

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