
スピッツ『美しい鰭』
スピッツが今年4月にリリースした「美しい鰭」で自身初のストリーミング累計再生2億回を突破したことが話題になっている。1991年にメジャーデビューしてから30年以上経ったスピッツが、今でもヒット曲を生み出していることにただただ驚くばかりだ。2000年以前にデビューしてストリーミング累計再生数2億回以上の記録を達成した楽曲を持つアーティストは数えるほどしかいない。
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ところで、こうしたストリーミング再生数の“億超え”は、現代のヒットの一指標として定着しつつある。ビルボードジャパンによれば、これまでにストリーミングの総再生回数が1億回を突破した楽曲は、今年5月3日の時点で200曲を超えたという(※1)。ストリーミングサービスの普及によって、この数は今後もどんどん増えていくだろう。
CDの売り上げ枚数が100万枚を超えると「ミリオンセラー」や「ミリオンヒット」などと呼んだように、この“億超え”という指標はストリーミング時代の新たなヒットの目安となるかもしれない。そこで本稿では、2023年に発表された楽曲でストリーミング累計再生回数が1億回を超えた作品をピックアップし、今年の“ヒットソング”をまとめたい。
■「アイドル」が牽引した2023年
2023年発表の楽曲でストリーミング1億回に一番乗りしたのはYOASOBIの「アイドル」であった。4月12日に配信スタートしたこの曲は、リリースされるや否や破竹の勢いで再生され、約1カ月で“億超え”を達成。ビルボードジャパンによれば、チャートイン5週目での1億回突破は史上最速での到達であったという。加えて同曲は11月に累計再生数5億回も史上最速で突破した(※2)。この結果からしても「アイドル」は今年を象徴する1曲と言えるだろう。
6月には、NewJeans「OMG」、百足&韻マン「君のまま」、優里「ビリミリオン」といった1月~2月にリリースされた楽曲が次々に“億超え”に乗り出していく。
そして7月になると、「アイドル」と同日のリリースであったスピッツ「美しい鰭」がリリースから約3カ月で自身初となる1億回再生を達成。YOASOBIほどではないが、かなりハイスピードな記録達成であった。ちなみにこの達成日から程なくして1996年に発表した「チェリー」もストリーミングの累計再生回数が1億回を突破している。この時点で90年代の楽曲で“億超え”したのは椎名林檎「丸の内サディスティック」、宇多田ヒカル「First Love」に次いで3例目であった。
8月には、「アイドル」や「美しい鰭」とほぼ同じ時期にリリースされた楽曲が続々と大台を突破していった。まずはMAN WITH A MISSION×milet「絆ノ奇跡」が達成。続いてMrs. GREEN APPLE「ケセラセラ」が突破した。
ミセスは「青と夏」や「インフェルノ」など、“億超え”曲をすでに多数持つバンドとして知られている。下半期は、こうした“億超え”を何曲も持つアーティストの記録達成が続いた。Official髭男dismは「TATTOO」にて自身14曲目、マカロニえんぴつは「リンジュー・ラヴ」が自身5曲目、Vaundyは「そんなbitterな話」で自身11曲目の“億超え”達成であった。さらにOfficial髭男dismは「ホワイトノイズ」でも自身15曲目の記録達成を果たし、ミセスは「Magic」にて自身12曲目の突破となった。
そんななか、トピックと言えるのがキタニタツヤだ。7月にリリースした「青のすみか」が約3カ月で自身初となるストリーミング累計再生数1億回を突破。これでキタニは“億超え”アーティストの仲間入りを果たした。彼は近頃、人に伝わりやすい曲作りを意識して制作に取り組んでおり、インタビューでも「ちゃんと伝わるように考えることからは一生逃げられないと思うんです。そこに対する覚悟は、最近やっとでき始めた感じですかね」と語っている(※3)。この曲のヒットは、まさにその意識が実を結んだと言えるだろう。
こうしたなかで、11月にインパクトのあるニュースが流れた。9月6日にリリースされたAdoの「唱」が、早くも11月に“億超え”を達成したというのだ。昨年の「新時代 (ウタ from ONE PIECE FILM RED)」を上回る自身最速での1億回再生で、Adoの“億超え”は「うっせぇわ」や「私は最強 (ウタ from ONE PIECE FILM RED)」などに続き、自身9曲目だという。2024年には世界ツアーを開催すると発表したAdo。その勢いはまだまだ止まらなさそうだ。
また、9月にリリースされたKing Gnu「SPECIALZ」が自身最速で1億回を達成。これもハイスピードな記録であった。King Gnuも来年は全国5大ドームツアーを開催予定。2024年もこうしたストリーミングサービスで覇権を握るアーティストたちが、音楽シーンを賑わせるだろう。
※1:https://www.billboard-japan.com/d_news/detail/124774/
※2:https://www.billboard-japan.com/d_news/detail/131403/2
※3:https://realsound.jp/2023/07/post-1378644.html
(文=荻原梓)
荻原梓