「ふしぎ遊戯」を大人になって読んだら、設定の元ネタがスゴかった。【マンガでひらく歴史の扉 2】

「ふしぎ遊戯」を大人になって読んだら、設定の元ネタがスゴかった。【マンガでひらく歴史の扉 2】

  • J-CAST BOOKウォッチ
  • 更新日:2022/09/23
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ふしぎ遊戯 1(小学館)

東京都駒込にある、世界最大級の東洋学研究図書館「東洋文庫」のマンガ大好き学芸員・篠木由喜さんが、イチオシ作品の学芸員的読み方を紹介してくれるシリーズ「マンガでひらく歴史の扉」。第2回は「天文の歴史」をテーマにお送りする。

2020年6月~9月に東洋文庫ミュージアムで開かれた「大宇宙展 ―星と人の歴史」で、中国の天文の展示を任された篠木さん。中国の歴史は好きだけど、中国の宇宙観なんて踏み込んで考えたことがなかった......! そんなとき、ヒントになった作品とは?

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「夏の終わりに劇場版キングダムを観に行って、大興奮で叫びを抑えるのに苦労しました。特に戦車がでてくるところ」

宇宙とは......「暦」だ!

篠木さんの頭の中で「中国の歴史」と「宇宙」をつないだ作品とは、冲方丁さんの小説『天地明察』(KADOKAWA)。江戸時代前期の実在の天文暦学者・渋川春海の生涯を描いた作品だ。講談社からコミカライズ作品も出ているが、篠木さんは原作小説を読んでいた。

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『天地明察』上(KADOKAWA)

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コミック版『天地明察』1巻(講談社)

篠木さん:『天地明察』は、それまで使っていた中国の「授時暦」がズレてきたので、日本で新しく暦を作ろうという話なんですよね。暦を作るためには、天体を観測して、計算するんです。それを読んでいたので、中国の歴史上の「宇宙」とは「暦」のことなんだろうなと見当がつき、そこから調べていきました。

渋川は大の天体観測・算術好きで、その能力を買われて暦の作成役に任じられる。天体を観測し、計算して、天の動きにぴったり合う暦を作る――歴史上、「宇宙」は「暦」や「数学」と密接に結びついてきたのだ。

中学時代の"バイブル"との思わぬ再会

篠木さんが中国の天文を調べていてたどり着いたのが、中国の星座「二十八宿」。現代になじみのある黄道12星座は太陽の軌道をもとにつくられているのに対して、二十八宿は月の軌道をもとにつくられた、中国オリジナルの28の星座だ。渋川春海が作った貞享暦でも、この二十八宿が取り入れられた。

28の星座の名前は、かに座中央部の「鬼宿(たまほめぼし)」、うみへび座頭部の「柳宿(ぬりこぼし)」、ふたご座南西部の「井宿(ちちりぼし)」など、日本語の訓読みが難しいものばかり。しかし篠木さんは......。

篠木さん:私、初見で「読める......読めるぞ......!」ってなったんですよ。「『ふしぎ遊戯』で見たやつや~!!」って(笑)

そう、90年代を代表する中華ファンタジー少女マンガ『ふしぎ遊戯』(小学館)は、二十八宿をモチーフとした作品なのだ。受験を控えた中学3年生のヒロイン・美朱(みあか)が、ひょんなことから「四神天地書」という古い本の中の世界に入ってしまい、"朱雀七星士"の鬼宿(たまほめ)らと出会い、国同士の争いに巻き込まれていく......というストーリー。今年連載開始30周年を迎え、8月には特別編として新作よみきりが発表されて話題を呼んでいる。

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『ふしぎ遊戯』1巻(小学館)。篠木さんいわく、「アニメも秀逸なのでおススメ。OPとEDは名曲です!」

篠木さん:私はリアルタイムの読者ではなくて、中学のときに、部活の友達のお姉さんが貸してくれたんです。作品の中に二十八宿の説明もちゃんと出てくるんですけど......これは作者が作ったものなんだと思っていました。「大宇宙展」で調べるまでは、二十八宿が本当の中国の星座だと知らなかったんです。

「えっ、本当の星座だったの!?」と今初めて知ったという読者も中にはいるかもしれない。中国に残っている、二十八宿が刻まれた資料がこちら。東洋文庫に所蔵されている、二十八宿を含む約280の星座を描いた宋代の石碑『淳祐天文図』の拓本だ。

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『淳祐天文図』

本物の石碑は、なんと高さが約2メートルもある。もしこの天文図を目の前にしたら、壮大なファンタジーの世界も考えたくなるかもしれない。この拓本は、事前予約すれば東洋文庫で閲覧が可能だ。

篠木さん:私は中国の天文を初めインターネットで調べましたが、『ふしぎ遊戯』の連載が始まった30年前は、まだインターネットが普及していない時代です。作者の渡瀬悠宇さんは二十八宿などの知識をどうやって調べたんだろう? と思ったら、『仏教哲学大辞典』を読んだり、漢和辞典の後ろの付録から着想を得たりしていたそうなんです。そこからこんなに壮大な物語を作るなんて、すごいですよね......! 他にも、西のほうへ旅をする場面ではチベットのポタラ宮にそっくりな建物が出てきたり、第二部の始まりでは、奈良県にある高松塚古墳の四神の壁画がキーになっていたり......大人になっていろいろ知ってから読むと、さらに面白くなります。少女時代に読んでいた人には、ぜひもう一度読んでみてほしいです。

こちらは「大宇宙展」のために篠木さんが作った二十八宿の図。朱雀に鬼宿、星宿......「ふし遊」ファンならテンションが上がるはず! イラストで表されている「四神」のうち、『ふしぎ遊戯』初期シリーズは青龍と朱雀が中心の物語で、その後「玄武編」が発表され、現在は「白虎編」が連載中(2018年9月から休載中)だ。

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ちなみに、インターネットで「二十八宿 計算」などと検索すれば、黄道12星座と同じように、自分の生年月日の二十八宿を調べることができる。

篠木:私は「井宿」でした。作中の「井宿(ちちり)」は大人なイケメンで大好きなキャラなので嬉しかったです!(笑)

陰陽師のイメージがくつがえる!?

もう一つ、天文にまつわる篠木さんおすすめのマンガがある。夢枕獏さんの小説を原作とした、岡野玲子さんの『陰陽師』(白泉社)だ。主人公は伝説の陰陽師、安倍晴明。晴明や陰陽師といえば、不思議な力を持っていたり、怨霊と戦ったりと何かと浮世離れしたイメージがあり、憧れを抱いている方もいるのでは。本作も途中までは原作の通り、晴明と親友・源博雅がバディとなって、術を使ってさまざまな困難を解決していくのだが......。

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『陰陽師』1巻(白泉社)

篠木さん:後半、岡野さん独自の展開が始まって、どんどん難解になっていくんです。(笑)京の内裏が焼け落ちてしまって、陰陽師たちが新しい内裏造営のために必要な儀式をするのですが、このあたりから晴明が何かの数字を唱えて計算しているところや、図形の描写が多くなって、脱落してしまう読者が多いらしく......。 大事なことを進めるときには良き日、良き土地を選ぶ必要があります。今でも大安、赤口などの「六曜」が大切にされていますよね。それを暦の計算で導き出すわけです。 だから晴明が数字を唱えているところは、「天体の運行を計算しているんだ」ということがわからないと、彼が何を考えて、何をやっているのかさっぱりわからなくなってしまうんですよ。

陰陽師は、実は「天文学者」だったのだ。国立天文台水沢VLBI観測所所長の本間希樹さんも、日刊SPA!の記事で「実は安倍晴明は公務員の"天文博士"だった」と語っている。陰陽師の仕事内容は、「暦をつくったり、時刻を決めたり、はたまた天体観測にもとづいて吉凶を占ったり」。占いという要素はあるにしろ、私たちが抱いているイメージよりもかなり実務的だったようだ。

篠木さん:私が『陰陽師』を初めて読んだ高校生の頃は、やっぱり何を言っているのかわからなくて。「大宇宙展」で多少勉強したあとに読んだら、「そういうことだったのか!」とわかりました。もちろん、細かく何を言っているのかは全然わかりませんが。(笑)

本作9巻には、晴明の「博雅 おれは陰陽師だ 幻術師ではないぞ」というセリフがある。現代抱かれがちな幻術師のようなイメージとは違う、「天文学者」としての、歴史上の陰陽師の姿を調べてみると面白そうだ。

「大宇宙展」の展示のために調べた歴史のおかげで、中学・高校の頃に一度読んだマンガの新たな面に出会った篠木さん。あなたも、あの頃好きだったあのマンガを今読んでみたら新しい発見があるかも。思い出のマンガをきっかけに、新たな歴史の旅に出てみよう。

〈東洋文庫〉 1924年に三菱第3代当主岩崎久彌氏が設立した、東洋学分野での日本最古・最大の研究図書館。国宝5点、重要文化財7点を含む約100万冊を収蔵している。専任研究員は約120名(職員含む)で、歴史・文化研究および資料研究をおこなっている。

BOOKウォッチ編集部

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