直木賞作家・今村翔吾が泣きそうになった教え子ギャルの言葉

直木賞作家・今村翔吾が泣きそうになった教え子ギャルの言葉

  • AERA dot.
  • 更新日:2022/05/14
No image

いまむら・しょうご 1984年、京都府生まれ。ダンスインストラクター、作曲家、守山市埋蔵文化財調査員を経て2017年、『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』で作家デビュー。20年、『八本目の槍(やり)』で吉川英治文学新人賞、『じんかん』で山田風太郎賞、21年「羽州ぼろ鳶組」シリーズで吉川英治文庫賞など受賞多数。18年と20年に直木賞候補になり、22年『塞王の楯』で第166回直木賞を受賞。現在、報道番組「Nスタ」(TBS系)にレギュラーコメンテーターとして出演中。 撮影:高野楓菜(写真映像部)

今年『塞王の楯』で直木賞を受賞した今村翔吾さん。作家・林真理子さんとの対談では、受賞作品のこと、文芸誌を愛読した子ども時代、夢を追いかけると決めたきっかけのひと言など、たっぷり語ってくれました。

【写真】林真理子さんと今村翔吾さんのツーショットはこちら*  *  *

林:直木賞受賞おめでとうございます。

今村:ありがとうございます。いやー、緊張するなあ。直木賞のときよりメッチャ緊張する(笑)。

林:今回は話題作が並んで、今村さんの『塞王の楯』とか『同志少女よ、敵を撃て』(逢坂冬馬)とか『黒牢城』(米澤穂信)とか、どれが賞をとってもおかしくないような接戦で、非常にレベルが高かったですが、同じ歴史ものの『黒牢城』がノミネートされたとき、正直「あちゃ!」と思いました?

今村:思いました。同じ歴史小説でダブル受賞はあり得ないから、どっちかだろうと思ってたんですけど、実際はダブル受賞だったのでうれしかったです。歴史小説のダブル受賞は、1972年以来50年ぶりらしいですね。

林:そうなの? 知らなかった。

今村:僕、林先生の選評、読みましたけど……。

林:「先生」なんてやめてください。「さん」でいいです。

今村:林さんは最初から二つに○をつけられたみたいで。

林:「年代が似てるけど、アプローチが違うんだから、2作にしませんか」と最初に言ったのは、たしかに私だったかな。今村さんはいままで山田風太郎賞とか吉川英治文学新人賞や文庫賞とか、いろいろ賞をおとりになってるけど、やっぱり直木賞は違いました?

今村:僕自身はどの賞もうれしかったですけど、直木賞をもらったときの周りの変わり方って、やっぱりちょっと違いますよね。テレビ局に行ったら、楽屋の名札の上にも「直木賞作家」って書いてましたから(笑)。

林:私たち選考委員としては、直木賞をとった本が売れてるかどうかがすごく心配なんですけど、今回はバンバン売れてるから、ほんとにうれしいなと思ってますよ。

今村:米澤さんもすごく売れてますよね。

林:今村さんのこの前候補になった『じんかん』も分厚かったですけど、『塞王の楯』も500ページを超える長編ですよね。私は一気に読めたから、全く長いとは思わなかったけど、若い人って厚みのある本に慣れてないのに、これ、若い人も読んでるんでしょう? ネットの時代と言われても、こういういい本はちゃんと若い人も読むってことがわかって、すごくうれしかった。

今村:それはほんとにうれしいですね。小中高校生ぐらいの子も、講演会とかに来て応援してくれるから、読みやすいことがとっかかりかなと。若者たちがそこからいろんなところに派生していってくれたらうれしいなと思いますね。

林:私、『塞王の楯』を読んで、穴太衆(あのうしゅう)というお城の石垣づくりのプロ集団がいるって初めて知りましたよ。戦の最中に石を切り出す人がいて、運ぶ人がいて、積み上げる人がいるって本当かなと思うんですけど。

今村:ウソではないんですけど、本当とも言えないラインで、史料の中にも2、3回しか出てこないんです。ただ、「大坂夏の陣」とか、けっこう重要な戦にも出てくる描写なので、それで大津のほうにも穴太衆がこもっていたという作品にしたんです。

林:お城の石垣って、きれいにきちんと積んであるものがよくて、ぐちゃぐちゃに積まれて、あいだに小さい石が詰まってるのは手を抜いてるんだと思ってましたが、この本を読んで初めてわかりました。一見手抜きと思うものは、実は非常に高度な技術なんですね。

今村:実はそっちのほうが難しいらしくて、外国の石積みの家は、きれいにカットされてるじゃないですか。外国の石は加工しやすいから加工技術が発達したんですけど、日本の石は硬すぎて、自然石をいかにそのまま組み上げるかという技術が発達したみたいなんですね。いまでも外国から習いに来る人がいるぐらいで、日本だけの技術らしいです。

林:私は、歴史小説を書くときは大学の先生方からレクチャーを受けるんですけど、それはやってるんですか。

今村:やってないですね。ただ、皆さんに読んでもらう機会が増えれば増えるほど下手は打てないなと思うから、自分でできる自信があっても、いろんな人の力を借りたいなと思っています。

林:作家って、きちんと計算しながら書いていく人と、どんどんのめり込んで、手が勝手に動いていく人がいるけど、今村さんはどっちのほうですか。

今村:僕はプロットを立てるのが苦手で、たとえば『塞王の楯』やったら、「人はなぜ戦うのか」というテーマをザクッと決めて書き進めていったんです。でも、そうしていたら最近は長くなる傾向があったので、直木賞をいただいてからは自分で戒めて、決めた枚数にきちっとできるように意識して書いてますね。

林:私は中世とか幕末・明治は好きで書きますけど、戦国時代がわかりづらくて苦手なんです。今村さんはなんで戦国を好んでお書きになるんですか。

今村:僕、決して戦国と決めて書いてるわけではないんですけど、こういうのを書きたいと思ったときに、表現しやすいのは戦国時代が多いですね。それと、資料が幕末になると残りすぎていて、フィクションをはさみづらくなったりしますけど、中世になると逆にわからないことだらけだし、戦国ぐらいが僕にとってはちょうどいいあんばいなんでしょうね。

林:すごい戦国オタクという感じがしますけど、子どものころから本をいろいろ読んでたんですか。

今村:読んでましたね。小学校2、3年ぐらいから、事典が好きで文字が読めなくても絵だけ見てましたし、小説としては小学校5年生のときに池波正太郎先生の『真田太平記』を読んで、そこから司馬遼太郎先生とか、歴史小説をメインに読んできました。あと、芥川賞、直木賞受賞作だけは買うみたいな、一般的な読者という感じでしたね。

林:「オール讀物」と「小説新潮」を定期購読してたそうですけど、それは何歳のときからですか。

今村:小学校5年ぐらいから。

林:えっ、そんな子ども見たことない(笑)。

今村:だから、地元の小さい本屋さんも、僕のことを覚えてるみたいなんです。「変わった子どもや」いうことで。

林:その書店まだあるんですか。

今村:あるんですよ。たまたまこのあいだ、僕の同級生からメールが送られてきて知ったんですけど、その書店の店主さんが「かわいらしい姿を覚えています。直木賞おめでとうございます」みたいなことを書いて、書店に貼ってくれているらしいです。

林:ほんとですか! 感動的じゃないですか。

今村:そうですね。子どものとき、「オール讀物」に載っている直木賞の過去の選評も、好きで好きで読んでました。

林:そんなものも? 直木賞、ほんとに好きだったんですね。

今村:好きでしたね。前に候補になった『じんかん』も『童の神』も、ダメはダメやったですけど、「ここが足りない」とか選評で言われると、メッチャうれしかったです。「俺も直木賞に参加してる」っていう感じがして。

林:へーえ、そうなんですか。

今村:あかんかったときにメッチャ号泣する作家さんもいると聞いてますけど、僕は平気というか、そこはそことして切り替えてやれるほうなんで。

林:今村さん、受賞が決まったときは号泣してましたよね。

今村:ダメやったときこそ笑顔でいて、受賞が決まったときは泣けてきました。

林:あれを見て、本当にいい人だなと思っちゃった。

今村:僕も泣くつもりなかったんですけど、走馬灯のように、あ、それはちゃうな。走馬灯は死んだときやから(笑)。いろんなことがよみがえってきてうれしかったですね。憧れてた賞にたどり着いたというのは、ほんとにうれしかったです。正直、無理かもしれんと思ってたので、夢みたいでした。

林:ところで今村さん、ダンスインストラクターされてたって本当?

今村:やってました。

林:ソーシャルダンスですか。

今村:社交ダンスまでいかないですけど、いろいろです。ヒップホップ、ブレークダンス、主婦層に向けてのジャズダンスとかも教えてました。

林:失礼ですけど、そのときはもっとやせてた?(笑)

今村:やせてましたね。けど、ブレークダンスとかするために鍛えないといけないので、ベンチプレス120キロとかあげれましたよ。いまでも100キロぐらいならあがるかなという感じで、作家の中では物理的なパワーはあるほうやと思います。

林:夢を持つことの大切さをダンスの生徒に語っていたら、生徒に「先生こそ、夢あきらめてる」って言われたんでしょう?

今村:僕、泣きそうになりましたね。ダンスやってる子って、ヤンキーっぽい子が多くて、その子もギャルっぽい感じの子だったんですが、バンッて言われたんですね。

林:今回、その子たちから「先生おめでとう!」って感じですか。

今村:直木賞の日にはメチャクチャいっぱいSNSとかメールとかをいただいて、ほんとにうれしかったです。

(構成/本誌・直木詩帆 編集協力/一木俊雄)

※週刊朝日  2022年5月20日号より抜粋

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

  • このエントリーをはてなブックマークに追加