自衛隊のためにも原油安の今こそ大量に石油を買い付けるべき

自衛隊のためにも原油安の今こそ大量に石油を買い付けるべき

  • 日刊SPA!
  • 更新日:2020/08/01

―[自衛隊ができない100のこと/小笠原理恵]―

その94 新型コロナと石油産業

◆石油は国の生命線と先人は知っていた

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※写真はイメージです

百田尚樹氏の名著『海賊と呼ばれた男』のなかに、敗戦後に石油を扱う商売を認めてもらうために「旧海軍のタンクの底にある油をさらう」というシーンがあります。GHQはタンクの底の油をさらえない限り、日本が新たに石油を輸入することを認めないと言っていたのです。

石油タンクには水と汚泥のなかにわずかに油が残るのみで、作業は困難を極めました。全身泥と油まみれになり、呼吸もままならないなか、手作業のくみ上げを完遂した「国岡商店」の店員たちの気概に心を揺さぶられた場面です。

先人が石油を扱うためにどれほどの苦労をし、その仕事に命を懸けてきたかを気づかせてくれるシーンですが、この「石油は国家の生命線」という考え方を今の私たちはどれほど理解しているでしょうか。

かつて、民主党政権の時代に安住淳衆院議員(現・立憲民主党国対委員長)が「学校のプールにガソリンを貯めておけないか」と発言したことがありましたが、原油やガソリンは危険物であり、所定のルールに従い事故が起こらないような施設で安全に管理・備蓄することが不可欠です。

石油を長期備蓄する施設はオイルショックの後に増えましたが、当時とは経済規模も変わりました。石油価格が安い今が備蓄量を増やすチャンスです。安いときに買い付けておけば、それは資産価値にもなります。繰り返しますが、「石油は国家の生命線」なのです。

◆コロナ禍がもたらす石油産業の崩壊

日本はあの福島原発の事故以来、ほとんどの原発を停止したままです。そのため、毎日のように大量の石油を買って燃やして発電しています。あの事故で日本は原発をストップさせましたが、逆に外国では原発の安全性が確認できたとして原発建設ラッシュがありました。先進国で原発を止め、火力発電に大きく依存している国は日本だけです。そして、日本は海外からの石油に依存しています。

尖閣諸島沖や南沙諸島での中国の動きは、日本の石油を輸入する航路「オイルシーレーン」の自由航行への大きな脅威です。尖閣諸島沖で連続して100日、中国公船がワガモノ顔で活動していますが、これはすなわち、私たちの生活からある日突然に、電気と燃料がなくなる恐怖と直結するのです。

石油や天然ガスを運ぶ巨大オイルタンカーが安全に航海できる航路は限られています。尖閣諸島や南沙諸島沖の航路の安全が脅かされれば、最短距離のルートが使えなくなります。「遠い海の話なんて関係ないわ」と言う人がいますが、電気代が大きく値上げされたり、電気の供給が停止したりすると困りますよね。これは私たちの生活に深く関係する問題なのです。

◆原油の長期保存は維持コストがかかる

新型コロナウイルスの感染抑止のため、これまでは「外出の自粛」や「興行の中止」が要請され経済活動が犠牲となってきました。新型コロナウイルスは飛沫感染と接触感染により拡大します。ウイルスに足はついていないので、人の移動を抑制すればウイルスの感染拡大は防げます。休業要請、リモートワーク推奨、移動の自粛で見事に感染を抑え込みましたが、経済面へのダメージは計り知れません。

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全世界で「人」と「モノ」の移動が激減しました。このことで未曾有の「石油産業」の崩壊が始まりました。エネルギー消費が落ち込み、船や航空機を動かす燃料やガソリンの消費も減りました。「人」と「モノ」の移動制限は全世界の「化石燃料」の消費をも激減させたのです。

今回の新型コロナショックにより、世界一だった中国の石油消費が激減し、世界の石油需要は令和2年1~3月で日産600万バレル減という記録的な需要減となりました。これまで世界中で常に回り続けていた石油や化石燃料の循環が止まりました。原油は長期保存すると攪拌や温度管理などの維持コストがかかります。

従来ならどんどん油井(ゆせい)から産出しても次々とタンカーが引き取りにきたため、生産者は大量には備蓄システムを持っていません。しかし、肝心の石油が売れなければたちまちその置き場に困ることになります。

しかし、需要が減っても石油の産出はすぐには止められず、備蓄タンクはすぐに満杯になります。生産コストや備蓄コストは産出すればするだけかかってきますから、油井の一時閉鎖は仕方がないことかと思います。石油産業は今、限りなく縮小しています。

◆アフターコロナに必要な石油は手にはいるのか?

需要が見込めない今、備蓄と生産コストがかかる油井の維持が難しいのは前述のとおりです。しかし、このコロナ禍が終われば、石油需要は回復します。生産能力が落ちて供給量が縮小したアフターコロナで、世界は熾烈な石油の奪い合いになる可能性が大です。出遅れてしまうと困ったことになりそうです。

火力発電に頼る日本が石油燃料を安定して手に入れられるのかも心配です。原発が維持できていればまだ原子力発電が可能でしょうが、東電はすでに多くの原発を廃炉にしてしまっています。

石油の生産量が減り続け、石油価格が下落している今こそ、日本にとって備蓄を始める絶好の機会ではないでしょうか。

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陸上自衛隊公式Facebookより

国を守る自衛隊の航空機も護衛艦も戦車も、石油がなければ動きません。このまま油井の閉鎖が続けば、アフターコロナ時代の石油の価格はこれまでとは比較できないくらいに値上がりしそうです。日本が前の世界大戦で米国に宣戦布告した最も大きな理由は「石油の枯渇」でした。石油は経済の要です。石油が国の生死を決める重要な物資であることは昭和の頃と変わりありません。今こそ、石油の大量備蓄施設や自衛隊用の燃料備蓄施設を計画してほしいものです。もちろん、自衛隊の使う燃料については最優先です。石油崩壊に予防策を考えておかないと大変なことになりそうです。

石油を運ぶ航路を守るためにも、自衛隊の艦艇基地がみな佐世保や呉、横須賀といった遠い場所にあるのでは不安です。石油を運ぶオイルシーレーンは日本の生命線です。艦艇や航空機の燃料補給ができる施設や燃料の備蓄タンクも一番ホットな場所、沖縄や奄美大島に作ってほしいものです。

ひとたび尖閣諸島沖で紛争が起これば、今ある自衛隊の燃料だけではまったく足りません。この国家の命運を決める投資は、自衛隊だけでなく日本の産業を救うことになるかもしれません。今も昔も、日本の安全保障は石油の安定供給にかかっているのです。

―[自衛隊ができない100のこと/小笠原理恵]―

【小笠原理恵】

国防ジャーナリスト。関西外語大卒業後、広告代理店勤務を経て、フリーライターとして活動を開始。2009年、ブログ「キラキラ星のブログ(【月夜のぴよこ】)」を開設し注目を集める。2014年からは自衛隊の待遇問題を考える「自衛官守る会」を主宰。自衛隊が抱えるさまざまな問題を国会に上げる地道な活動を行っている。月刊正論や月刊WiLL等のオピニオン誌にも寄稿。日刊SPA!の本連載で問題提起した基地内のトイレットペーパーの「自費負担問題」は国会でも取り上げられた。『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』(扶桑社新書)を上梓

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