【舛添直言】プーチンの真意は「米国一極体制への挑戦」、じわり広がる賛同国

【舛添直言】プーチンの真意は「米国一極体制への挑戦」、じわり広がる賛同国

  • JBpress
  • 更新日:2023/03/19
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3月16日、黒海上空の国際空域で米国の無人偵察機MQ9リーパーに接近するロシアのSu-27。ロシア機は燃料を投下し、MQ9の進路を妨害。この後、MQ9とロシア機は接触し、MQ9は墜落した(提供:US European Command/ZUMA Press/アフロ)

(舛添 要一:国際政治学者)

アメリカ政府は、3月14日、黒海の上空で、米軍の無人機MQ9とロシア軍の戦闘機の妨害行為を受け、衝突したため、墜落させたと発表した。ロシア政府は、戦闘機は無人機と接触していないと反論している。

この無人機はミサイルの搭載も可能であるため、ロシア側も神経質になっており、緊急発進したようだ。

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「ロシアの基盤は彼らが考えているより強固だ」

その後、米露両国の国防大臣が電話で会談し、この件を抑制的に取り扱うこと、また対話を継続することを確認している。

そのため、重大な結果をもたらすようなことにはならないであろうが、ウクライナ周辺では、ロシアとNATOとの間でいつでも直接的な軍事衝突が起こる可能性があることを再認識させられたのである。

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3月14日、ロシアのブリヤート共和国にある航空工場を訪れ、ヘリコプターのシミュレーターのキャビンに乗り込み操縦桿を握るプーチン大統領(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

同じ14日、プーチン大統領は、極東のブリヤート共和国を訪問し、ヘリコプター製造工場を視察した。

その際に、ウクライナ侵攻を正当化し、「これは単なる地政学的な戦いではなく、国家の存続をかけた戦いだ。敵は、われわれを侮辱し、分裂させようとしてきた。国の発展や子どもたちの将来をかけた戦いとなっている」と述べた。

さらに、「敵はわれわれの経済が崩壊することを期待したが、そうはならなかった。ロシアの安定の基盤は彼らが考えているより強固だったということだ」と付言している。

これは、2月21日に行った大統領年次教書で述べた以下の内容とほぼ同じである。

<ロシアの経済と統治システムは、西側が考えていたよりもはるかに強固であることが明らかとなった。ロシアの経済と行政は西側諸国の予想を遥かに超えて強固なものだった。2022年の国内総生産(GDP)は減少した。予想は20~25%減、10%減だった。しかし、2022年のGDPは2.1%減だった。これは最新データだ。また言及しておくが、昨年2~3月には、すでに述べたように、ロシアの経済は崩壊すると予想されていた>

この教書で、プーチンは、「1930年代ドイツでナチスが権力を握るための道を開いたのは、事実上西側諸国だった。そして今の時代、西側はウクライナを『反ロシア』に仕立て始めた。……1930年代の当時も今も、東方へ攻撃を仕掛け、欧州において戦争を煽り、他人の手で競争相手を排除しようという、その企みは変わらない」と断言し、西側諸国を厳しく批判した。

自信の裏で兵器不足に悩むロシア

ゼレンスキー政権に対しても「ウクライナ紛争を煽り、拡大させ、犠牲者を増やした責任は、すべて西側エリート、そしてもちろん、キエフの現政権にある。この政権にとってはウクライナ国民は本質的に他人だ。ウクライナの現政権は自国の国益のためではなく、第三国の利益のために奉仕している」と痛烈に批判した。

そして、自らが尊敬するストルイピンを引用して、「強いロシア」の必要性を強調した。

<愛国者で政治家だったピョートル・アルカディエヴィチ・ストルイピンの言葉を思いおこしたい。その言葉とは100年以上も前にストルイピンが国会(ドゥーマ)で語ったものだが、今の時代にまさにぴったり即している。ストルイピンはこう言った。『ロシアを守るためには、我々は歴史的な最高の権利を守るために、皆が力を合わせ、自らの尽力、自らの義務、自らの権利とを調整しなければならない。その権利とはすなわち、ロシアが強国である権利である』>

さらに、プーチンは、「ソ連崩壊後、第二次世界大戦の結果を修正し、わずか1人しか主が存在しない米国型の世界を築こうとしたのは、まさに彼ら(アメリカ)である。そのために、第二次世界大戦後に作られた世界秩序の土台をすべてあからさまに破壊しはじめた。ヤルタとポツダムの遺産を否定するために。既成の世界秩序を徐々に修正し始め、安全保障と軍備管理のシステムを解体し、世界中で一連の戦争を計画し、実行に移したのだ」とアメリカを厳しく批判した。

しかし、このような強気の発言にもかかわらず、ロシアが戦車、精密誘導ミサイル、弾薬などに不足を来しており、ショイグ国防省も同じ日に、モスクワ州のミサイル工場を訪ね、生産の加速化を指示している。

KGB時代から共産主義を信じていなかったプーチン

以上で引用したようなプーチンの世界観、西側観は一貫している。

政権に就いた直後には、プーチンは、前任者のエリツィン政権下で進んだ緊張緩和(デタント)の雰囲気を引き継ぎ、G7に加わり、G8の一員として西側との協調路線を推進してきた。

しかし、NATOが約束を違えて東方に拡大したため、西側への幻想から次第に覚醒していったのである。2008年頃には、コソボやグルジアを巡って、西側を明確に敵と位置づけるようになった。

第二次世界大戦後の東西冷戦、つまり米ソの対立の基盤にはイデオロギーの対立があった。資本主義と共産主義の対立であり、西側諸国はアジアやアフリカの発展途上国が「赤く」染まるのを警戒した。朝鮮戦争やベトナム戦争はそのような対立が「熱い戦争」にまで発展した例である。

しかし、1989年のベルリンの壁崩壊、1991年のソ連邦の崩壊で、資本主義の勝利という結果になったのである。プーチンはソ連邦の秘密警察KGBの職員であったが、共産主義を信奉していたわけではない。

したがって、ソ連邦が解体する過程においても、体制を護持しようとする「保守」のソ連共産党を支持せず、「革新」のエリツィン側を支援したのである。経済についても、社会主義の計画経済を拒否し、資本主義を採用する。

一極構造と多極構造

プーチンは、イデオロギーには拘泥しないプラグマチストなのである。自分の目的に役に立つ考え方、流儀、システムは何でも貪欲に取り入れる。一つのイデオロギーに固執することはない。

ボリシェヴィキのレーニンやスターリンが無神論で、正教会を弾圧したことを、プーチンは厳しく批判するのである。自らは、敬虔な正教徒として振る舞い、国民との連帯を演出する。

ロシア正教がロシア民族主義の高揚に貢献し、ロシアの統一の大きな原動力となることを確信しているからである。モスクワ総主教キリル1世は、ウクライナへの軍事侵攻を支持している。

キリル1世は、「NATOが約束を守らず、ロシアとの国境に近づき、軍備を増強してきた。さらに、西側はウクライナの人たちを再教育してロシアの敵に作り変えようとした」と述べて、プーチンのウクライナ侵攻を正当化している。プーチンにとっては、ロシア正教は円滑な統治に大いに役立つ道具なのである。

プーチンにとっては、イデオロギーではなく、アメリカが傍若無人に世界の支配者として振る舞っていることが問題なのである。このような一極構造こそが世界の多様性を窒息させているという認識である。軍事的にはNATOが席巻し、経済的には米英やEUが世界のルールを決める主導権を握っていることが不満なのである。

したがって、この一極構造を多極構造に変える必要があるというのが、プーチンの問題意識である。

新しい同盟網の構築へ

それでは、プーチンはどのような多極構造の世界を念頭に置いているのであろうか。

イデオロギーには関係なく、アメリカ1強の世界を好ましく思っていない国々を結集することである。

まずは中国である。中華人民共和国を樹立した毛沢東を支援してきたのはスターリンである。伝統的な関係を基礎に、同じ権威主義体制として経済的にも協力している。

ウクライナ戦争でも、経済制裁逃れに当たっては中国の役割が大きい。それだけに、アメリカは中国に対して、ロシアに武器支援を行わないように釘を刺している。

3月20日〜22日には、習近平がプーチンの招きでロシアを訪問し、首脳会談に臨む。どういう対話になるか注目したい。

イランは、反米という点でロシアと共通しており、ロシアにドローンなどの兵器を供給している。中東における大国であるイランとの協力関係の深化は、この地域でアメリカを牽制するのに役立つ。

また3月10日には、サウジアラビアとイランが、中国の仲介で外交関係を正常化している。

これは、中東におけるアメリカのプレゼンスの低下と中国の影響力の増大を物語っており、アメリカ外交の失敗である。もちろんプーチンにとっては好ましい変化である。

対露経済制裁の効果を高めるために、先にアメリカはOPECに原油増産を期待したが、サウジアラビアは応じなかった。これが、したたかなアラブ商人の流儀である。

バイデン政権はウクライナ戦争と台湾有事に集中するあまり、中東への関与を低下させてきた。中国は、その間隙を突いたのであり、それはプーチンが追求する多極構造にも適合する。

プーチンは、アメリカが撤退したシリアに2015年に軍事介入して成功している。シリアのアサド大統領は、15日、モスクワでプーチンと首脳会談を行い、ロシアのウクライナ侵攻を支持した。プーチンは、シリアとトルコの関係修復も画策している。

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3月15日、モスクワでプーチン大統領と会談したシリアのアサド大統領(写真:代表撮影/AP/アフロ)

インドに対する最大の武器輸出国はロシアである。インドは、経済でも安全保障でも西側と良好な関係にあるが、ロシアに対しては経済制裁を科していない。そこには、したたかな国益の計算がある。

南アフリカの立場もまたインドに似ている。ロシアと共同軍事演習も行っている。

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『スターリンの正体―ヒトラーより残虐な男』(舛添要一著、小学館新書)

アジアやアフリカの発展途上国は、「グローバルサウス(Global South)」と呼ばれるが、今や目覚ましい経済発展を遂げている。この地域がG7のような先進民主主義国に仲間入りするのか、それとも中露のような権威主義体制に取り込まれていくのかは、今後の世界の行方に大きな影響を及ぼす。残念ながら、前者の旗色が悪い。

ベルリンの壁崩壊・ソ連邦の解体後には、民主主義陣営が拡大したが、今は逆になっている。それだけに、プーチンの主導する多極構造は説得力を持つ。ウクライナ戦争の帰趨は、今後の世界秩序の形成を左右する。

舛添 要一

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