“ボーリックナイト”以来、岡大海の逆転サヨナラ弾......“ヒロミナイト”を振り返る

“ボーリックナイト”以来、岡大海の逆転サヨナラ弾......“ヒロミナイト”を振り返る

  • 文春オンライン
  • 更新日:2021/05/03

強烈なインパクト音を残し打球はバックスクリーン奥に吸い込まれていった。4月21日、本拠地ZOZOマリンスタジアムのファイターズ戦。岡大海外野手がファイターズのクローザー 杉浦稔大投手が投じた149キロストレートをフルスイングし、逆転サヨナラ本塁打を放った。マリーンズが逆転サヨナラ本塁打で勝利するのは01年のフランク・ボーリック内野手の逆転サヨナラ満塁本塁打以来、実に20年ぶり。日本人選手では97年の初芝清内野手以来、24年ぶりの快挙となった。1点ビハインドの最終回二死一塁。土俵際からの起死回生の一発はその瞬間、伝説となった。

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熱烈なマリーンズファンは3点ビハインドの場面で逆転サヨナラ満塁本塁打を放った01年の奇跡を「ボーリックナイト」と呼び、長い間、語り継いできた。そして今、「ヒロミ(大海)ナイト」が誕生した。14勝8敗と大きく勝ち越した2021年4月においてこの試合は月間ベストゲームの一つとなった。

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逆転サヨナラ本塁打を放った岡大海

「どちらかがホームランを打って欲しいと思っていた」

不思議な縁だ。01年のボーリックナイトの対戦相手は福岡ダイエーホークス。相手陣営には井口資仁監督が3番セカンドでスタメン出場していた。

「あの日のことは覚えているよ。ホークス時代は外国人選手によく打たれた記憶があるなあ。ボーリックもそうだけど、D・メイとかね」と当時を懐かしそうに振り返る。

ちなみに松中信彦臨時打撃コーチは5番ファーストでスタメン出場。鳥越裕介二軍監督は9番遊撃でスタメン出場している。森脇浩司野手総合兼内野守備コーチも当時は内野守備走塁コーチ。「覚えているね!」と振り返る。スタメン捕手は城島健司氏だったがベンチには控え捕手として的場直樹戦略兼バッテリーコーチもいた。的場コーチはボーリックの印象について「得意なゾーンや苦手なゾーンを見極めるのが難しい選手だった。身長のある選手ではなかったけど長打力もあった。意外性のある選手」と評する。

井口監督は岡を信頼して打席に送り出した。前打者の吉田裕太捕手(結果はセンターフライ)と岡。今年、調子がよく長打のある2人のどちらかにホームランでこのゲームを決めて欲しいとの読みをもってベンチで試合を見守った。

「吉田と岡。2人のうち、どちらかがホームランを打って欲しいと思っていたら、その通りになった。つなぐ野球も、もちろん大事だけど、相手が信頼する抑え投手を出してきてのあの場面はなかなか繋いで逆転は厳しい。ここで勝つには一発だと思っていた。だから2人には『ホームランを打ってこい!』と言って送り出した。吉田もアウトにはなったけど、いいスイングでいい当たりだった」と思い通りの結果に表情を緩めた。

この逆転サヨナラホームランで忘れてはいけないのは一死走者ナシからしぶとく四球で出塁した藤岡裕大内野手の存在だ。

「ストレートのキレがある投手。手元でビュンと伸びる感覚でなかなか難しい打席。とにかく高めに手を出さないように低めを意識していた。ボールが散ってくれたことで四球を選ぶことが出来た。自分はとにかく後ろにつなぐ意識だった。(岡)ヒロミさんは長打力があるので期待をしていた」と言う。岡が打った瞬間は「ちょっと詰まったと思った」と同点のホームを踏むべく全力疾走。二塁ベースに到達したときに打球が消えていったことを確認した。「すごい。あれでホームランになるのだと驚いた」と驚きながら歓喜のホームインをした。

「今日はオマエがヒーローになる」と一発を予言していた男

ホームランを期待していた指揮官と共にもう一人、この一発を予言していた選手もいる。フランク・ハーマン投手だ。最終回の攻撃が始まった時、ベンチでバットを握り出番に備えていた岡に話しかけた。「今日はオマエがヒーローになる」。そう言うとバーバード大学卒の助っ人はウィンクをした。

岡はその一言で落ち着くことができた。「あの一言があったから冷静に少し肩の力を抜いて打席に入れました」と振り返る。強烈なインパクト音を残し打球は幕張の夜空に舞い上がった。その瞬間、予言者ハーマンは誰よりも先にベンチを飛び出し、ヒーローがホームを踏むのを待った。そして戻ってきた岡に「オレの言ったとおりだろ?」とニコリとほほ笑むと二人で笑った。

ハーマンは直感的に予想したのではない。「相手のピッチャーはストレートが持ち味の選手。そして岡はストレートを打つのがとにかくうまい。ストレート勝負で岡なら打ち返すと思っていたんだ」と解説した。岡も打席ではストレートを狙っていた。「ストレートが強い投手。それに負けずに差し込まれないようにという意識。目付けは真ん中付近。しっかり振り切って押し込めた」と、してやったりだ。人生でサヨナラヒットすら打った記憶がないという男が劇的サヨナラ本塁打を振り返った。

劇的ヒーロー誕生を誰よりも喜んだのは、もちろん井口監督だ。春季キャンプから好調な姿をしっかりと見ていた。「キャンプから今までにないようないい感覚で打っていた。間の取り方もよくなっていたし、なによりも前の打席の結果を引きずらなくなった。凡打をしてもリセットして取り組めるようになったのは大きい。誰もが認める力を持っている選手。これまで自分でも歯がゆい部分はあったと思うが、このまま一年間やってくれたら間違いなくシーズン最高の結果を出すことが出来る」と目を細め、さらなる活躍に太鼓判を押す。

この本塁打にはもう一つ、語らなくてはいけないことがある。打ったバットにヒビが入り割れていたことである。「知らなかった。後から気が付いた。折れてホームランを打ったことはボクもビックリ」と岡が言えば、藤岡も「バットを折りながらホームランなんてエグイ」と目を丸くした。驚異のパワーが生み出した一発でもあった。

ファイターズからトレードで入団し移籍4年目のシーズン。これまではなかなか満足いく結果を出すことはできなかったが昨年から取り組むフォーム改造が実を結びつつある。手首の使い方とボールをひきつけて体の近くで回転しながら打つ意識。身体の状態が良いこともありフィットしている。

「これまで沢山、チャンスをいただいたのに結果を出せずに、もどかしかった。今年は活躍をしたい。現状に満足せずにもっともっとチームに貢献しないといけない」と岡。もう「ヒロミナイト」は過去の事とばかりに話をする。伝説の折れたバットも家宝にと大切にするのかと思いきや「ファンの皆様にプレゼントしたい」と球団公式Twitter上で募集しファンにプレゼントした。そしてこうも言った。「えてしてよくあることですけど、20年ぶりの後はすぐに出たりするものですよ。フフフ」と不敵な笑みを浮かべた。4月21日、劇的な形で幕を閉じた試合の中には様々なドラマが織り込まれていた。そして2021年シーズンのマリーンズはこれからもっともっとたくさんの劇的ドラマを生む一年となりそうだ。岡スマイルを見て、そう確信した。

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(梶原 紀章)

梶原 紀章

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