
がんばれ、新人添乗員
最初からやばい!
次の週、研修旅行と添乗予定の発表があった。
「今年度の研修旅行に参加する人が決まりましたので、発表します。三田さんは八月にグアムでのツアー研修、森さんは十一月にハワイでホテルの研修、安藤さんは十二月にタイの旅行社の招待です。まだ研修等に行っていない方も来年度に研修、または添乗に行っていただきます。
それぞれ目的や内容、期間は違いますが、出張扱いですので大いに勉強してきてください。行くまでに、主催者側から旅程や研修内容などの資料が来ますので、事前に準備して有意義な研修になるようにしていただきたいと思います」
呼ばれた社員はにこにこ顔である。
「それから、夏の添乗員が決まりましたので併せて発表します。アメリカ二週間は支店長と山田さん、谷山さんと石井さん。また、九月のハワイは昨年研修に行った江口さんです。今後も決まり次第発表しますので、よろしくお願いします」
「山田さん、初めての添乗おめでとう。がんばってね」と、三田さん。
数日前にはぶすっとして目も合わせてくれなかったのに、コロッと変身している。田中係長を見ると、ほらね、とばかりにウインクで返してきた。これで仕事もやりやすくなるだろう。実際、その後は誰に手続きのことを聞いても丁寧に教えてくれ、ほっとした。
しかし、同じツアーの別のバスに乗る二年先輩の谷山は
「大体、入社数か月で添乗に出すなんて会社も無謀なことするなあ。まあ、お手並み拝見と行きましょうかね」
と、ニヒルな笑いを浮かべた。
初めての添乗
八月中旬になった。いよいよ出発が迫ってきた。
真知子は、訪問先の都市の下調べに余念がない。前に訪れたところとはいえ、客の立場と添乗員では全く違う。年配の方のツアーではなく、英語が話せる学生たちが多いとはいうものの、こちらも現地ガイドがいなくても観光案内ができるくらいの知識は詰め込んでおかねばならない。市内地図もだいたい頭に入れてある。
学生時代から人前で話すことには慣れているので市内観光時に現地ガイドがつかなくても何とかこなす自信はあるが、他のことは初めての経験である。
ホテルとの交渉、空港での手続き、トラブルの解決方法など事細かに係長から教えてもらい知識としては頭に入っているものの、実際に現場で臨機応変に対応できるかどうか、不安が心をよぎる。
通常の添乗は、日本から顧客と一緒に出発し、帰国まで同行する。しかし今回は、七月からアメリカのカリフォルニア州とテキサス州で分散してホームステイをしている学生と現地で合流し、アメリカ国内数か所の都市を二週間旅行することになっている。集合場所のサンフランシスコには谷山と石井、ダラスには支店長と真知子が行く。
四人は東京から出発するが、それぞれ二人そろって同じ飛行機で行くわけではない。これは、万が一事故があったときでも一人は業務に就けるということも考慮してのことである。旅行社には、航空会社が用意する安いチケットが何枚かあるため、それを使って現地入りする。
真知子はロスの空港のホテルで一泊し、翌日ダラスへ入った。すでに支店長は到着し、真知子が来るのを待っていた。
「やあ、お疲れ様。今日の午後、遠隔地にホームステイしている学生が全員空港に到着したら、空港近くのホテルで一泊します。明日、空港でダラス近郊にホームステイしている学生と合流しシカゴに行く。いよいよ添乗開始だよ。よろしく頼みますよ」
「分かりました。こちらこそ、よろしくお願いいたします」
空港には、テキサス州で学生たちを受け入れたL団体の役員が集まり、テキサス州各地からダラスに集まってくる学生のチェックをしている。そろそろ最後の便が着く頃だ。
「さあ、オースチンからのフライトが着いたようだね。迎えに行こう」
「これが最後のフライトですね。全員そろったらバスに案内します」
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小倉 敬子