どんなに多忙でも森に散歩に出かけるドイツ人上司の合理的理由

どんなに多忙でも森に散歩に出かけるドイツ人上司の合理的理由

  • JBpress
  • 更新日:2021/06/11
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(写真はイメージです/Pixabay)

日本より年間労働時間が日本より300時間短く、時間当たり生産性が1.4倍高いドイツ。ドイツ人の日々の働き方は日本人とどう違うのか? 隅田貫氏は1985年からドイツで暮らし、2005年にはドイツの老舗プライベートバンク、メッツラー社フランクフルト本社に日本人として初めて入社した。隅田氏が目の当たりにした、生産性の高いドイツの働き方のリアルを、著書『ドイツではそんなに働かない』(角川新書)から一部抜粋・再編集してお届けする。(JBpress)

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ヘッドフォンをつけて仕事をする合理的理由

メッツラー社では、フロアにパーティションがありませんでした。フロア中を見渡すことができるので、コミュニケーションが取りやすくなるというメリットはあるのですが、仕事をするときに集中しづらいというデメリットもありました。

まず、あちこちで同時に電話をしていると、やはり気になります。

私は元々地声が大きいということもあるのですが、電話で日本と話していると、「悪いんだけど、ちょっと声を落としてもらえないか」とよく周りの人から言われました。日本語だと何を話しているのかがわからないから、余計に雑音に聞こえたのでしょう。

ファンドマネージャーたちはとにかく相場に集中して考えなければいけないので、デスクに備え付けられているヘッドフォンをつけて仕事をしていました。最初、その姿を見た時は「音楽を聞きながら仕事をしているのかな? 優雅だなあ」と思ったものですが、周りの音をシャットダウンするためにつけているのだと知り、「なんて合理的なんだろう」と感心しました。

静かに仕事をするためのスペースをつくるという方法もあるでしょうが、それよりも社員にヘッドフォンを配るほうがコストは抑えられます。しかも、どこでも集中できる。

日本の会社ではヘッドフォンをつけていたら、「仕事中に音楽を聞くんじゃない!」と叱られるかもしれません。どんなに周りの音をシャットダウンするためなのだと説明しても、「もしお客様が来た時にそんな姿を見たら、『この会社は音楽を聞きながら仕事をしているのか』と不愉快に思うかもしれないだろ?」と上司に拒絶されるだろうことは想像に難くありません。私も日本の銀行に長年勤めていたので、日本企業の同調圧力のかけ方は身に染みてわかっています。

また、日本ではコミュニケーションをよくするために大部屋にトップの取締役や本部長クラスの人が座り、その前に部長、次長の席があるのは一般的ですが、ドイツでは役職についている人には大体個室が与えられ、管理職は個室で集中して仕事をします。

私の上司は、重要な仕事や機密性の高い仕事をしているときは、ぴったりと部屋のドアを閉めていました。だから、ドアが閉まっているときは絶対にノックしません。要するに「私は今、真剣に集中している」というメッセージなので、ドアが閉まっているときは“ドント・ディスターブ”です。

逆に、ドアが開いていると「いつでもどうぞ」というメッセージなので、そういうときを狙って、ノックをして「いいですか?」と入っていくようにしていました。

そういうわかりやすいメッセージを送ってもらえると、部下としては「今、声をかけないほうがいいかもしれない」などと忖度しないで済むので助かります。

スマホを置いて、散歩をしよう

皆さんは、「散歩」をしたことがありますか?

ウォーキングでもなく、移動のために歩くのでもなく、何の目的もなくブラブラ歩くのが散歩です。犬を連れて歩くのも犬を散歩させているのであり、自分の散歩とは違います。今の日本で純粋な意味での散歩をしている人は、かなり少ないかもしれません。

私の上司のヴィースホイ氏は、気持ちの切り替え方が上手でした。

彼ぐらいのレベルになると夜に会合も多く、家に帰ってからも仕事をしています。

「こんなに仕事をしていて、いつ休んでいるんだろうか?」と疑問に思い、ある日彼に尋ねてみました。すると、「気分転換のためにできる限り小1時間ほど森を散歩しているんだ」と教えてくれたのです。

忙しいと散歩のために1時間近くも費やしている暇がないと思うのが普通ですが、彼はどんなに多忙でも散歩の時間を捻出しようと努めているというのです。つまり、強制的にオフの時間をつくっているということでしょう。上手にストレスを発散させているからこそ、逆に多忙なスケジュールをこなせるのかもしれません。

ドイツ人は日本人から見ると異常なぐらいに散歩好きです。

平日も休日も、とにかく時間さえあれば散歩をする。老若男女、春夏秋冬、雨の日も風の日も雪の日も散歩をする人々をいたるところで見かけます。知人の家を訪ねたら、「それじゃあ、散歩に行こうか」と誘われたりもするのです。

若いカップルがデートで散歩するのも珍しくはありません。ドイツ人は自然を愛し、健康に気を配っているというのもあるのでしょうが、このように日常生活をリセットする時間があるから、生産性が高くなるのかもしれません。

ドイツのプロサッカーチームの中には、遠征試合の早朝、チームで集まって一緒に散歩をすることを習慣にしているチームが複数あります。チームが集うのは何もピッチの上、練習場、ロッカールームだけとは限らないのです。

いつもの仕事関係の場所とは違ったところで、メンバー同士がちょっとした時間を過ごすことは、気分転換とチームワークの強化を限られた時間で同時にできるという点でとても興味深いと思います。

仕事をしているとどうしてもトラブルやミスは起きます。仕事を離れていても、そのトラブルにどう対処するか悶々と悩んでしまいがちですが、一流の人はビジネス、スポーツを問わず、何事においても気持ちの切り替えが上手いのでしょう。

仕事から離れて自然を散策していたら、気分をリフレッシュでき、スッキリした頭になります。そうすればトラブルとも冷静に向き合えるので、スムーズに解決できたりするのです。

トレーニングや健康法としてではなく、スマホも携帯も持たず、音楽も聞かずにぶらぶら歩く時間を楽しむのも時としては良いのではないでしょうか。その何もしない時間こそが、何かを生み出す第一歩だと私は確信しています。

新鮮な空気を吸うことの大きな効果

ドイツ人は「frische Luft (新鮮な空気)」という言葉が大好きで、頻繁に使います。散歩に行くのも新鮮な空気を吸うためですし、真冬でも家の窓を開け放って新鮮な空気を入れます。

米ローレンス・バークレー国立研究所とニューヨーク州立大学の研究によると、二酸化炭素濃度が2500ppmに達すると仕事の効率が著しく低下するそうです。二酸化炭素の濃度を600ppm、1000ppm、2500ppmの3段階に調節した部屋で2時間半過ごし、意思決定能力テストを受けさせたところ、2500ppmの部屋にいた人はひじょうに低いスコアになったといいます(「Elevated Indoor Carbon Dioxide Impairs Decision-Making Performance」2012.10.17)。

仕事中に襲われる睡魔の原因は、部屋の二酸化炭素の濃度が上がっていることかもしれません。外の空気を吸うと頭がシャキッとするのは気のせいではないようです。

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ドイツではそんなに働かない』(隅田 貫著、角川新書)

メッツラー社では、仕事で行き詰まって厳しい決断をしなければならないとき、オフィスを出て散歩に出かける同僚もいました。近くの公園に行ってリフレッシュしたり、教会に行って沈思黙考していたのです。

ドイツ人はそういう気持ちの切り替え方が上手でしたし、まわりも「仕事中にどこに行くんだ」と見とがめないような環境なのです。

日本ではオフィスで突然立ち上がって肩を回したりしたら眉をひそめられるかもしれませんが、多忙なときやストレスがたまったときは新鮮な空気を吸うと、効率的に仕事を進められるのではないでしょうか。

隅田 貫

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