岸田首相vs.習近平主席、2度目の「日中首脳会談」で“これでもか”と見せつけられた中国の「上から目線外交」

岸田首相vs.習近平主席、2度目の「日中首脳会談」で“これでもか”と見せつけられた中国の「上から目線外交」

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2023/11/21
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日中首脳会談のニュースが出てこない!

毎朝、起きたら『人民日報』のインターネット版を読むのを、もう長いことの日課にしている。言わずと知れた世界最大の政党・中国共産党(党員数は昨年末時点で9804万人)の中央委員会機関紙だ。いまや私の中国人の友人知人の中で、『人民日報』を熟読している人など皆無で、変人扱いされている。

だが、外国人の中国ウォッチャーとしては、ブラックボックスの共産党政権を理解するには、やはり昔も今も『人民日報』である。特に、「習近平日報」とも揶揄(やゆ)される昨今、同紙には習近平総書記の「イイタイコト」や「オモッテイルコト」が、日々満載なのである。

そんな中、先週末11月18日土曜日の『人民日報』を開いて、ぶったまげてしまった。当然、一面に大きく載っていると思っていた岸田文雄首相と習近平主席の日中首脳会談のニュースが、出ていなかったのだ。

一面トップの見出しは、「習近平は主催者の賓客とともにAPEC首脳の非公式対話会及びワーキングランチに出席した」というものだった。確かに、11月15日から17日までアメリカ西海岸のサンフランシスコで開かれたAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会合の話題ではあった。

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水色のネクタイをビシッとつけて着席している凛々しい習近平主席の大判写真がついている。習主席の後ろには、まるで憑依霊のようにピンボケの王毅党中央政治局委員兼党中央外交工作委員会弁公室主任兼外相の姿が写っている。

その他の一面のニュースの見出しは、順に以下の通りだった。

「習近平がAPECビジネスCEOサミットで書面の講演文を発表した」
「習近平がメキシコのロペス大統領と会見した」
「習近平がペルーのボルアルテ大統領と会見した」
「習近平がブルネイのハサナル・スルタン(国王)と会見した」

このように、3ヵ国のGDPを加えても日本の足元にも及ばないような国々との首脳会談の記事が並んでいた。いずれの記事にも、習近平主席とそれぞれの首脳がにこやかに握手を交わしている写真がついていた。

心にモヤモヤ感を抱きながら、2面をめくってみる。上部の半分近くを割いて、以下のタイトルの長文記事が掲載されていた。

「心を同じくして協力し、チャレンジをともに迎え、アジア太平洋の新たなページを記す――APECビジネスCEOサミットでの書面での講演文(2023年11月16日、サンフランシスコ) 中華人民共和国主席 習近平」

それは、一面で要旨が書かれた講演文の全文だった。

1面から数えて「8番目の記事」にようやく

続いて、2番目の記事のタイトルは、「習近平がフィジーのランブカ首相と会見した」。やはり、両首脳ががっちり握手する写真つきである。

そしてその右脇に、つまり2面の3番手の記事として、ようやくわが岸田首相との日中首脳会談の記事が現れたのだった。

「習近平が日本の岸田文雄首相と会見した」

日中両首脳が両国の国旗をバックに握手をして、正面を向いた写真が使われていた。

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お目当ての記事に辿り着くまでに、ずいぶんとかかってしまった。1面から数えれば、実に「8番目の記事」である。

習近平主席との首脳会談としても、メキシコ、ペルー、ブルネイ、フィジーに次いで4番目。記事を読みながら、脳裏には『思えば遠くへ来たもんだ』という海援隊のヒット曲が響いてくる。

岸田首相と習近平主席が対面で首脳会談を行うのは、昨年の11月17日に続いて、2度目だった。私の記憶によれば、昨年の日中首脳会談の時は、1面で扱われていた。つまり今年は「格落ち」とも言える。

CCTV(中国中央広播電視総台)の映像でも、日中首脳会談のニュースを見たが、やはり驚きを隠せなかった。

まず両首脳の対面時。皇帝然として中央で待ち構える習近平主席のもとへ、岸田首相がそそくさと速足で寄っていく。もうこの時点で、「皇帝様に面会する外国使節」のように映ってしまう。

会談の映像を見ていても、画面向かって右手の習近平主席が、説教するようにしきりに何かをまくし立てている。習主席の肉声は消されていて、アナウンサーがその要点を「代読」した。

その間、向かって左手の岸田首相は、時にペコペコと肯いたり、熱心にメモを取ったりしているのだ。これではまるで、学校の教室の教師と生徒ではないか。

ちなみに中国では、習近平主席が会議の席などで何を話そうが、それらは「重要講話」と呼ばれる。そして、部下の幹部たちが「重要講話」を聞く時は、必ずメモを取りながら聞く習慣がある。

それにならうと、日中首脳会談は上司と部下の構図である。岸田首相の隣席の秋葉剛男国家安全保障局長が、終始険しい表情を崩さなかったので、映像では何とか均衡が保たれていた。

「習近平新時代」の中国にとっての日本

実は、一年前の初対面の日中首脳会談でも、「見苦しい光景」が、中国側の映像で映し出された。

この時は、11月15日~16日にインドネシアのバリ島で、G20(主要国・地域)首脳会合が開かれ、続いて18日~19日にタイの首都バンコクで、APEC首脳会議が開かれた。そのため、16日のうちにバリ島からバンコクへ向かう組と、17日に向かう組に分かれた。

やはり習近平主席が皇帝然として中央で待ち構える中、岸田首相が入ってきた。この時の習主席は妙に上機嫌で、握手するなり、「あなたは今日来たのか、それとも昨日来たのか?」と、中国語で岸田首相に語りかけた。「あなた」も、敬称の「您」(ニン)ではなく、親しい友人同士で用いる「你」(ニー)だった。

それに対し、岸田首相は緊張した様子で、「はい、本日来ました」と日本語で答えた。こうした態度も、まるで教師の質問に答える生徒のようだ。

両首脳が着席し、習主席が口火を切った。「今日はとても嬉しい」。だがその後が、続かない。習主席はモゾモゾと手元の紙をまさぐって、「岸田先生と会えて」と続けたのだ。

この不自然な動作から想像できることは、習主席が岸田首相の名前を知らなかったか、もしくは忘れていたかだ。「習近平新時代」の中国にとって、日本などそのような存在なのかもしれないと感じたものだ。

もっともこの時の岸田首相の方も、統一教会との接点問題で辞任した山際大志郎経済再生担当大臣に続き、「死刑はんこ」発言の葉梨康弘法務大臣の辞任問題に揺れて、半日遅れの外遊スタートとなった。また、この時の一連の外交日程終了後の記者会見でも、日本で一番大きく報道されたのは、G20でもAPECでもなく、政治資金の問題が指摘された寺田稔総務大臣を辞任させるのかどうかという問題だった。

今回も、「辞任ラッシュの秋」ということでは、一年前とそっくりだった。売春疑惑が報じられた山田太郎文部科学政務官、公職選挙法違反の可能性がある柿沢未途法務副大臣、税金滞納が明らかになった神田憲次財務副大臣がドミノ辞任。いままた、三宅伸吾防衛政務官がセクハラ疑惑に揺れる中での外遊となった。

11月16日に時事通信が発表した岸田内閣の支持率は、21.3%。過去2年で最低だった先月を、さらに5.0ポイントも下回ってしまった。20%を切ればレイムダック内閣というのが、永田町の常識だが、もはや時間の問題に思えてくる。

国内がそのような体たらくでは、当然ながら中国は、足元を見てくる。いつ崩壊するか知れない内閣に、何らかの譲歩や妥協をすることはない。

実際、日本側が言うところの「3大問題」に関して、習近平主席は譲歩も妥協もしなかった。岸田首相が、習主席に強く改善を迫ったにもかかわらずだ。

「3大問題」とは、8月24日に始まった福島第一原子力発電所のALPS処理水の海洋放出の報復として、中国が日本産の水産物及び加工品の輸入を禁止している問題。3月のアステラス製薬幹部の拘束を始め、日本人が中国国内で次々に拘束されている問題。及び沖縄県尖閣諸島周辺の日本の排他的接続海域(EEZ)に、中国が勝手にブイを設置していることが7月に発覚した問題である。

以下、具体的に見ていこう。

1)日本産水産物・加工品の禁止問題

前述の11月18日付『人民日報』によれば、日中首脳会談の席で、習近平主席は次のように述べた。

「日本が福島の核汚染水を海洋に流していることは、全人類の健康と、地球全体の海洋の環境、国際的な公共の利益に関わる問題だ。日本はこうした国内外の合理的な懸念を厳粛に受けとめ、責任ある建設的な態度できちんと処理していかねばならない」

このように、はっきりと「核汚染水」と呼んで、日本側の改善を求めているのだ。「核汚染水」という言葉は、前述のCCTVのニュースでも、習近平主席の「肉声」として伝えていた。

中国はなぜここまで、「核汚染水」と呼んでこの問題に固執するのか。私はこの3ヵ月ほど、何人もの中国人に訊ねているが、これまで一番しっくりきたのは、次のような回答だった。

「要はこの問題は、昨年までわが国で3年続いた『ゼロコロナ政策』と同じ構図だ。つまり、潔癖症のトップ(習近平主席)がどうしても許さないから、われわれ部下たちは変えようがない。そのため、この問題の解決は長引くだろう。つまりトップが別の決断を下すまで、継続するということだ」

中国は7月17日と18日、習近平主席の強いリーダーシップにより、北京で全国生態環境保護大会を開催。「習近平新時代の中国の特色ある社会主義生態文明思想」なるものを掲げた。

これは簡単に言えば、今後中国で、「藍天」(澄み切った空気)、「碧水」(碧い海洋や河川)、「浄土」(きれいな土地)という「三大保衛戦」を展開していくということだ。

この方針に則って、10月24日にはわざわざ海洋環境保護法を改正し、来年1月1日から施行されることになった。その第31条では、次のように明記されている。

〈 中華人民共和国の管轄海域以外で、中華人民共和国が管轄する海域の環境を汚染したり、生態を破壊した場合、もしくはその可能性がある場合、関係部門及び機関は必要な措置を取る権利を有する 〉

まるで福島のALPS処理水の問題のために作ったような条項なのだ。

習近平政権はかくも「戦闘モード」なのに、岸田首相が1回会って、日本産の水産物とその加工品の輸入禁止を解除するよう迫ったところで、「はい、それなら解除しましょう」と答えるとは、到底思えない。

ちなみに中国が、2001年のBSE(狂牛病)問題で輸入禁止にした日本産牛肉の輸入を再開したのは2019年のことで、解決までに18年もかかった。

2)日本人のスパイ容疑での拘束問題

今年3月、帰国時に拘束されたアステラス製薬の幹部は、中国滞在歴約20年。ついこの間まで、中国に進出している日系企業の親睦団体である中国日本商会の副会長まで務めていた。

それだけに、日系企業関係者に大きな衝撃を与えた。私自身、10年ほど前まで北京で駐在員をしていて、毎月の中国日本商会の会合に参加していたが、自分たちが「スパイ容疑」で捕まるなど考えてもいなかった。それだけ、3月に3期目に入った習近平政権は「異次元」である。

実際、このアステラス製薬の幹部は、先月になって正式に逮捕された。即時釈放どころか、拘束が長期化する可能性が高い。

今月3日には、湖南省高級人民法院で、50代の日本人の上訴が棄却され、12年の刑が確定したと、日本メディアが報じた。この人物は、2019年に反スパイ法違反容疑で捕まっていた。

湖南省高級人民法院のホームページで確かめたが、この判決は記載されていなかった。だが、今月13日の外交部定例会見でこの問題を問われた毛寧報道官は、否定しなかったので、おそらく報道の通りなのだろう。

2014年に反スパイ法が施行されて以降、これまでに少なくとも17人の日本人が拘束されている。他に、日系企業に勤めていた中国人らも拘束されているので、日系企業関係者まで含めれば、それ以上だ。

だが、3期目に入った習近平政権は、「安全強化」を政策の一丁目一番地に掲げており、さらに取り締まりを強めている。いまや学校でスパイ防止を教育したり、市民に通報を呼びかけたりする時代になった。

7月1日には、反スパイ法が改正された。第4条には、何をもってスパイ行為とみなすかが具体的に列挙されている。それらは、国家機密を盗むとか破壊行動を行うといったことだが、第6項に「その他のスパイ活動を行うこと」とある。

つまり、中国当局が恣意的に「スパイ活動」を認定できる余地を残しているのだ。

3)尖閣諸島のEEZでのブイ設置問題

この問題は、将来を考えると大変深刻である。すなわち、3期目の習近平政権が「尖閣諸島を取りにくる」という明確な意思表示とも受け取れるからだ。

尖閣諸島に近い台湾に関しては、15日に行われた米中首脳会談で、習近平主席はバイデン大統領に、こう強弁している。

「台湾問題は常に、中米関係の中で最も重要で、最も敏感な問題だ。中国はアメリカがバリ島での会談(2022年11月14日)で出してきた積極的な態度表現を重視している。

アメリカは、「台湾独立」を支持しないという態度表明を、具体的な行動の上で体現しなければならない。台湾の武装を停止し、中国の平和的統一を支持しなければならない。中国は最終的に統一される、必然的にも統一されるのだ」

さらに日中首脳会談でも、前述の『人民日報』によれば、習主席は岸田首相に、こう告げている。

「歴史や台湾などの重要な原則問題は、両国関係の政治的基礎に関わる。日本側は必ずや、信義を恪守(かくしゅ)し、中日関係の基礎が損害、動揺することのないよう確保していかねばならない」

恪守というのは、「まじめに守り従う」という意味だ。1月13日に台湾で総統選挙が行われるが、中国としてはあくまでも「内政に属する問題」と主張している。そして中国にとっては、尖閣諸島も「台湾の一部」だ。

前述の『人民日報』では、「新時代の要求に合致した中日関係の構築に力を尽くす」という習近平主席の発言が、冒頭に紹介されていた。これは最近の中国側の決まり文句と化しているが、私には中国の「上から目線外交」を象徴する言葉に思えてならない。

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