アマゾンが本気で開発している...「自動配送ロボット」の現実味

アマゾンが本気で開発している...「自動配送ロボット」の現実味

  • 幻冬舎ゴールドオンライン
  • 更新日:2021/10/14
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コロナ禍は巨大化するアマゾンの弱点をあぶり出しました。巨大企業は尋常ではない規模とペースで拡大を続けていかねばなりません。その妨げとなるのが、人間の脆さや弱さだといいます。※本連載は、ダグ・スティーブンス氏の著書『小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」』(プレジデント社)より一部を抜粋・再編集したものです。

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巨大化するアマゾンにも弱点があった

進化は諸刃の剣だ。食物連鎖の頂点からの眺めの良さを考えれば、そこをめざす価値はあるが、頂点捕食者の地位を維持するためには、絶えず栄養価の高い新たな餌を探し続けなければならない。

かたや利益の源泉を止めさせまいと迫ってくる投資家、かたや急速に力を伸ばしている競合他社。小売業界の頂点に立つ巨大な怪物たちは、両方のプレッシャーの板挟みになりながらも、業界での支配体制を維持しつつ、投資家が求める利益も上げていく新たな手段が必要になる。

各社とも既存のビジネスモデルの範囲内で、新たなプラットフォームやプログラム、市場参入を通じて成長する余地があるものの、怪物がさらなる成長に必要な栄養源を確保するには、既存のビジネスモデルでは間に合わない。

こうした食物連鎖の頂点に立つ怪物ブランドにも、やがてはそのイノベーションや成長がかすんでしまうような強敵が現れる。

■使い捨て労働力からロボティクスへのシフトが始まった

2020年5月、アマゾン創業者のジェフ・ベゾスの発表に、人々は度肝を抜かれた。パンデミック中に、同社サプライチェーンの安全確保に約40億ドル相当を振り向けると発表したのである。ベゾスは、赤外線カメラによる従業員の発熱チェック、マスクなどの個人用安全装備、幅広い関係者を対象とした検査まで含めた感染対策構想を打ち出したのだ。先見性があり、大きく踏み込んだ画期的な計画だと賞賛する声も一部から上がった。

ただ、何でもそうだが、物事は見た目ほど単純なわけではなく、この話こそ、まさしくそういうケースではないかと私は考えている。

わずか1カ月前まで、アマゾンはクリスチャン・スモールズという人物との間でゴタゴタを抱えていたからだ。スモールズは、ニューヨークのスタテン島にあるアマゾンの物流倉庫で働いていた。物流倉庫で重大な健康リスクや安全上の問題に不安を抱いたスモールズは、会社に抗議し、安全対策の強化を求めて職場でボイコットを呼びかけた。それが原因でスモールズは解雇されてしまったのである。

同社の顧問弁護士やベゾス自身を含む経営幹部が、スモールズの知性や話し方に難癖をつけ、信用できない人物として片付けようと画策していたことが明らかになるや、他の物流倉庫や本社スタッフも懸念を表明し始めた。この結果、さらに物流倉庫の従業員1人と本社スタッフ2人の計3人が解雇される事態に発展した。

私はすぐにこの件について書面で問い合わせた。すると、アマゾンの担当者から回答があり、スモールズが解雇されたのは、「ソーシャルディスタンスの指針に違反して、他の従業員を危険にさらしたため」だという。

スモールズ解雇に正当性があるのかどうかは読者の判断を仰ぎたい。

だが、知ってのとおり、アマゾンの物流倉庫の労働環境に疑問を投げかけたのは、クリスチャン・スモールズが初めてではない。実際、同社の過酷な労働環境という悪評はすっかり定着している。たとえば、2019年には、毎年恒例のセールイベント「プライムデー」の期間中に、ミネソタ州ミネアポリスの物流倉庫従業員が過酷な労働条件に抗議してストを決行している。一方、アマゾンは長年にわたって、同社事業拠点での組合活動を徹底的に阻止してきた。

このため、ジェフ・ベゾスが「サプライチェーンの安全確保」などと語っているのを見ると、真意はどこにあるのか勘繰ってしまう。つまり、安全装備の支給や赤外線カメラによる体温チェックが目的ではなく、サプライチェーンを揺るがして効率低下や操業停止を招きかねない最大の原因を排除しようとしているのではないか。

小売業者の従業員の処遇改善は待ったなし

その原因とは「人間」である。人間は病気になる。人間は過ちを犯す。人間には、一緒に過ごしたい家族がいる。そして何よりも、人間は人間らしく扱ってもらいたいという期待を抱く。巨大企業は尋常ではない規模とペースで拡大を続けていかねばならない。その妨げとなるのが、人間の脆さや弱さなのだ。

2017年の映画『ブレードランナー 2049』で、ジャレッド・レト扮する科学者ニアンダー・ウォレスが「文明が飛躍するときはいつでもその陰に使い捨ての労働力があった」と語るシーンがある。

はるか遠い昔から、人類の進歩は、消耗品のように使われる大量の労働者の血と汗と涙で実現されてきた。エジプトの巨大なピラミッドは、膨大な数の貧しき農民の手で築かれた。ニューヨークシティの摩天楼は、ヨーロッパから絶えず流れ込む移民の手で築かれた。しかも、エンパイアステートビルディングだけでも建設中に十数人の命が奪われている。

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(※写真はイメージです/PIXTA)

現在、バングラデシュの縫製工場では、労働者(ほとんどが女性)が時給33セント(約35円)という低賃金で働いている。資本主義が誕生したときから、決して日の当たることのない礎を担ってきたのが、使い捨て労働力なのだ。

小売業界とて例外ではない。過去40年間、世界の小売りの現場は使い捨て労働力に依存してきた。その多くが高卒で、ひどく低賃金なうえに、何かあればすぐにしわ寄せがいくのが彼らだ。しかも割に合わない危険な仕事を任されることも多い。特に女性は、小売りの低賃金労働者に不自然なほど多い一方、管理職・役員のポジションには不自然なほど少ない。

その40年間というもの、小売りの現場で働く人々が置かれた窮状に、顧客も見て見ぬふりを決め込んできたが、新型コロナウイルス感染拡大で態度が変わった。小売りの現場の労働者は社会でも最低賃金と言われる。

ぎりぎりの生活を強いられているというのに、自身や家族の命を危険にさらしてまで、パンデミックの最中にオンライン注文の食品の箱詰め作業にせっせと取り組み、消費者の安全な買い物を支えていた。ようやく世の人々はこの気まずい現実を直視するようになり、現場の労働者が置かれている状況が浮き彫りになった。

これを受け、一部の小売業者は現場の労働者を「英雄」として称え、賃金の引き上げに動いた。また、毎日現場に出勤してくれるスタッフなしにはビジネスが成立しない事実に感謝の念を示すようになった。だが、消費者や労働組合の厳しい目があまり向けられなくなると、こうした小売業者の多くが何ごともなかったかのように上乗せ賃金を廃止し始めた。そして、会社は空前の増収増益を享受したのである。危険手当の撤廃という仕打ちは、「倒産せずに済んだよ、お疲れさん」と言っているようなものだ。

この状況を憂慮した全米食品商業労組(UFCW)の代表が、次のようにコメントした。

「手袋とマスクを着用し、安全な対人距離を保って働いていること自体、危険な環境で働いている証拠ではないか。(中略)この時点で危険手当を廃止するのは、明らかに不公平である」

賛同した消費者や政府もただちに激しい非難の声を上げ、悪質な企業は世論という名の法廷で裁かれることになった。2020年4月にモーニングコンサルトが実施した調査で、その理由が浮かび上がった。パンデミックを背景に消費者の90%が「ブランド各社の従業員の処遇が適切かどうかを重視する」と答えており、驚くことに品揃えの良さと並ぶ重要な条件に掲げている。さらに、購入を左右する条件の上位5項目に「従業員の処遇」を挙げた回答は50%近くに上った。

つまり、コロナ禍で、小売業者は従業員の処遇に関して待ったなしの状況に追い詰められたと言える。従業員にまともな最低賃金を払うか、それとも、どこかから別の「使い捨て労働力」を探してくるかのどちらかだ。

ウォルマートはAIロボットを導入している

そんな都合のいい労働力があるとすれば、ロボット集団だろう。実のところ、小売業者とロボットは、くっついたり離れたりの浮気相手のような関係を続けてきた。その理由の1つは、純粋にコストの問題だ。つい最近まで小売りの現場へのロボット導入について、費用対効果に疑問符がついていた。ロボットは、昔からテクノロジーの粋を集めた高価な品で、機能の範囲が限られているというのが相場だ。

もっと直接的なハードルは、世の中の受け止め方だ。ロボットは人間の雇用に明らかな脅威となるからだ。たとえば、2017年にピュー研究所が実施した調査によれば、人間の仕事がロボットやコンピュータに奪われかねないことについて、「ある程度心配している」または「非常に心配している」と回答したアメリカ人は73%に上った。

さらに、人間の労働者がロボットに取って代わられることになれば、「経済的不平等などの望ましくない状況がますます悪化する」との回答は、過半数以上に及んだ。このため、小売業者は、従業員と顧客の双方からの反発を恐れ、大っぴらにロボット導入実験を実施することに尻込みしているのだ。

そのような課題はあったにせよ、小売業界向けロボット市場はパンデミック前から急成長していた。市場規模の見通しは右肩上がりだ。たとえば、コンサルティング会社のローランド・ベルガーは、小売り向けロボットのグローバル市場が2025年に520億ドルに拡大すると予測している。これは年平均成長率約11%に相当する。

パンデミック後、一気にギアが上がって過熱気味の市場になっている。2020年の世界経済フォーラムによる調査では、経営幹部の5人に4人が「仕事のデジタル化と新技術の導入計画を加速する」と回答している。2008~2009年の世界金融危機以降に見られた雇用拡大が白紙に戻る勢いだ。さらに同レポートによれば、2025年までに中小規模の企業で8500万もの雇用が消滅し、その分が技術で置き換えられるという。

その背景には、AI(人工知能)の進歩、コンピュータの能力向上、コストの低減が挙げられる。たとえば、2019年、ウォルマートは、ニューハンプシャー州セーラムにあるスーパーセンター店舗で、注文のあった食品をロボットがピッキングするシステムの試験運用に乗り出した。このシステムは「アルファボット」と呼ばれ、1時間に800点の商品のピッキング・箱詰めが可能だ。人間の10倍の生産性を誇る。

しかも、すべての作業は店のバックヤード(倉庫エリア)で完結するため、売り場で陣取ったり、客の邪魔になったりすることもない。

ウォルマートでは、すでに大型店舗に1500台以上を導入している。現在、フロア洗浄機がけから、バーコードリーダーを使った在庫管理まで、日常の単純作業の多くはロボットが徐々に肩代わりするようになっている。昇給も病欠も不要で仕事を辞めることもない労働力である。

倉庫にはカメラが随所に設置され、納入商品の荷受け・仕分けのためのAIと高速荷下ろし機が標準になりつつある。こうした新種の労働力と一緒に働くスタッフにしてみれば、いったい誰が誰のために働いているのか混乱することもある。ワシントンポストは次のように報じる。

<そのため、仕事に違和感が生まれ、屈辱感を覚える従業員も現れ始めた。辞めてもクビになっても「どのみち、お客様に昇進できるからね」と自嘲気味に語る従業員もいる。自分から仕事を奪うかもしれないロボットに仕事を教え込み、何か問題を起こすたびに面倒を見なければならない。そんな気が気ではない立場にいることを自覚せざるを得ない。>

また、アマゾンが業務面で2つの大きな課題を抱えていることは周知の事実だ。第1に、物流センターを通過する商品の処理のスピードアップ。そして客への配送だ。特に配送はアマゾンの収益性を圧迫する最大の原因でもある。

『フォーチュン』誌の編集者・記者のブライアン・デュメインは次のように指摘する。

<ベゾスは、自動運転のバンや地域を走り回る小型ロボット、空を飛び交うドローンが荷物を配送する未来を見据えている。しかもロボットはインフルエンザにもかからないので不眠不休で働く。そんな日が来れば、いやベゾスは100%来ると思っているのだが、自宅にこもる膨大な数の人々にロボットたちが商品を届けるようになる。そのころには、ひょっとしたら代替肉や代替ミルクなども運ばれているかもしれない。

それはともかく、困っている人々に救いの手を差し伸べるのは崇高な大義ではあるが、ベゾスがこのテクノロジーの導入に積極的なのには、別の理由がある。アマゾンをはじめ、食料品を扱う小売業者にとっての課題は、商品配送に莫大なコストがかかることだ。>

商品配送の4割が配送ドライバー人件費

「莫大」というのは決して誇張ではない。たとえば、2018年、アマゾンの商品配送にかかったコストは約270億ドルだった。その40%ほどが配送ドライバーの人件費である。だからドライバーが標的になるのだ。

2020年、アマゾンはこの課題に切り込む姿勢をはっきりと示した。自動運転技術開発のズークスを13億ドルで買収し、無人のロボットタクシーの構想もぶち上げた。その新規事業に自動運転の配送車両の開発が含まれていることは疑いない。となれば、アマゾンの配送部分のコストは激減するはずだ。

結局、パンデミックは、こうした企業にとって、ロボットなど自律システム技術に突き進む絶好の口実になったのである。たとえば、2020年2月、武漢でウイルスが猛威を振るっていたころ、京東商城(JDドットコム)は、いわゆる自動運転レベル4に相当する自律走行ロボットで医療機関への配送に乗り出した。レベル4という水準は、高度運転を意味し、ジオフェンス(位置情報を使った仮想的境界線)で囲まれた特定エリア内であれば、まったく人が介在することなく走行できる状態を指す。

京東が自動運転車導入の野望を覗かせたのは、これが初めてではない。あるレポートによれば、中国の自動運転車メーカー、新石器慧通科技(ネオリックス・テクノロジーズ)は、ちょうどウイルスで自宅待機命令が出てガラ空きとなった公道を利用して、無人配送車を開発した。

同レポートは、「有力ネット通販のアリババや京東が(中略)同社の小型配送ロボット約200台を発注した」と伝えている。そうした無人配送のイノベーションが見られるのは、中国に限った話ではない。グーグルを傘下に持つアルファベットの子会社の1つ、ウェイモでは、13台の自動運転トラックを保有し、現在、テキサス州の州間高速道路で公道走行試験を実施している。

今後、ロボットの普及が進むのは食料品販売をおいて他にはないだろう。パンデミック前のアメリカでは、食料品支出全体のうち、オンライン取引はわずか3%にとどまっていた。

だが、パンデミックになってこの数字が15%に上昇している。パンデミック前の予想では、オンラインの食品売上高は2025年までに20%に増加すると見られていた。食品のオンライン購入が急増している今となっては、この見通しは少々的はずれの感がある。アメリカの場合、オンラインの食品購入がすでに6月にはパンデミック前の水準の6倍に跳ね上がっている。

したがって、急増する売り上げや配送量にアマゾンが対応するためには、物流・配送の面で、それなりの対策やイノベーションが必要になるのは当然だ。

とはいえ、小売業界という食物連鎖の頂点に立ち、人間の労働力を使っているがゆえの弱みや無駄を少しでも排除したいと考えているのは、アマゾンだけではない。こうした業者がコストを抑えつつ生産性を高めるには、できる限り「人間」という要素を排除する方法を探す必要がある。

食物連鎖の頂点に立つ怪物企業にとって、たとえ世間で後ろ指をさされようが、経済的メリットは大きい。2018年のマッキンゼー・アンド・カンパニーによる調査によれば、玄関先まで商品を届ける自動配送ロボットを導入するだけでも、都市部の配送コストは10~40%の削減が見込めるという。アマゾンだけで、年に100億ドル以上の削減が可能ということだ。

ロボット労働力は、もはやサイエンスフィクション(SF)ではなく、サイエンスファクト(科学的事実)になっているのである。使い捨て労働力が人間ではなくなるという、過去に例のない時代に突入しているのだ。それがいいことなのかどうかを語るのは時期尚早である。

ダグ・スティーブンス
小売コンサルタント

ダグ・スティーブンス

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