
今日、会計の知識は、あらゆるビジネスパーソンにとって重要です。税理士・民間企業の経理担当役員で人気簿記講師でもある石川和男氏が、著書『決算書は、「ここ」しか読まない 企業の伸びしろを1分で見抜く「読み方のルール」』(PHP研究所)から、決算書の「読むべき項目」や「順番」をわかりやすく解説します。今回は損益計算書の「経常利益」「当期純利益」の算出過程からその会社の収益力を見抜くポイントを説明します。
「経常利益」は、会社の正常な収益力であり会社の実力
本記事では、「損益計算書」に記載される5つの「利益」のうち、「経常利益」「当期純利益」について説明します([図表1]参照)。

[図表1]損益計算書
損益計算書では、営業利益に営業外収益を足して営業外費用を差し引くことで経常利益を求めます。④
【経常利益の計算式】
営業利益+営業外収益−営業外費用=経常利益
↓(【図表1】では…)
営業利益300億円+営業外収益800億円-営業外費用600億円=経常利益500億円
◆「営業外収益」には、どのようなものが該当するか
営業外収益は、会社が本業以外の通常の事業活動を行うなかで発生する収益です。
決算書を読むときは、金額が大きいもの以外は「本業以外での収益が、ここに集合しているんだ!」と一括りにして読んで構いません。
営業外収益の代表格が「受取利息」です。普通預金を開設していると目にしますよね。普通預金の金利が0.001%だとして、100万円預けていても年間で10円。
そこから約20%の税金が引かれて8円。100万円預金していたら8円、1,000万円で80円、そんな金額が通帳に記帳されています。
会社も一緒です。
受取利息は、預金によって発生する収益で本業とは関係のない収益です。本業外つまり営業外の収益として計上します。
株式投資によって得られる配当金である受取配当金、不動産の賃借料、外貨建取引による為替相場の変動で儲かった場合の為替差益も営業外収益に計上されます。
余談ですが、そもそも「会社の本業」とは何でしょうか? それは会社の事業目的のことで、会社の決まり事を示した「定款」に記載されたものです。
「定款」は、会社の憲法ともいわれ、会社を設立するときに作成し、公証人に認証してもらいます。株式会社では、目的(どのような事業を営むか=本業)、商号(会社名)、本店の所在地、設立に際して出資される財産、発起人の住所氏名、発行可能株式総数などが記載されます。
会社の事業目的が「スポーツ用品の販売」であれば、スポーツ用品を売ると「売上高」になります。会社の事業目的が「不動産の販売」であれば、建物や土地を売ると「売上高」になります。
たとえば、A社もB社も土地と建物を賃貸したとします。
会社の事業目的が、「不動産の賃貸」であるA社は、土地や建物を賃貸したことによる収入は本業である「売上高」になります。
一方、会社の事業目的が「スポーツ用品の販売」のB社が土地や建物を賃貸したことによる収入は「売上高」にはならず、本業以外の収益なので営業外収益になります。
◆「営業外費用」には、このようなものが該当する!
営業外費用は、営業収益と逆で会社が本業以外の事業活動を行うなかで発生する費用です。
代表的なものが、受取利息の反対で、借り入れたことでかかる支払利息です。
また、外貨建取引を行っている場合に為替相場の変動により、損した場合の為替差損も営業外費用に計上されます。
会社が成長を目指し、借金により調達したお金を設備投資に使うのであれば、借金自体は悪いことではありません。
しかし、借り入れには利息が発生します。支払利息は、費用なので経常利益を圧迫します。その面でも貸借対照表に計上される借入金の金額には注意が必要です。
営業外の項目の代表としてあげた利息ですが、利息は金融活動から生じます。会社は本業の営業活動以外にも、お金の貸し借りといった金融活動や、資金調達といった財務活動を行って事業を継続しています。
金融活動や財務活動は、本業ではありませんが毎期反復して継続的に行われます。
経常利益とは、毎期継続的・反復的に生じる収益と費用を対応させて求める利益であり、本業の成績だけではなく、金融活動、財務活動が上手に行えているかが反映されます。
経常利益は、会社が経常的日常的に稼げる力、すなわち会社の正常な利益、会社の実力ともいえます。
営業利益がプラス、つまり黒字であったのに、経常利益がマイナスを意味する経常損失、つまり赤字になっているケースもあります。これは、営業外費用が多額であることによって生じます。
利息などの支払いである営業外費用が多額であるということは、有利子負債、つまり利息を付けて返済しなければならない借入金が多いことが想定されます。
逆に、営業利益がマイナスを意味する営業損失なのに、経常利益がプラスになっているケースもあります。この場合、本業では上手くいかなかったものの、投資やリスク管理はしっかりできており、事業全体としてはまずまずの成績だったといえるのです。
近年の記録的な円安により海外への輸出を行う企業では、為替差益が多く計上されています。たとえば、為替相場が1ドル130円のときに商品10万ドルを売り上げた際の売掛金1,300万円が、1ドル140円のときに決済されると、入金された10万ドルを日本円に交換したら1,400万円になるため、100万円の為替差益(収益)が発生します。
一方、海外からの輸入を行う企業では、為替差損が多く計上されています。為替相場が1ドル130円のときに商品10万ドルを仕入れた際の買掛金1,300万円を、1ドル140円のときに決済したら、日本円で1,400万円必要になり、100万円の為替差損(費用)が発生します。
為替差益も為替差損も、営業外収益・費用となりますが為替相場の変動という会社の努力ではどうにもならない外的要因で生じるものだという点には、注意が必要です。
「当期純利益」は、1年間で稼いだ最終の利益額
経常利益に特別利益を足して特別損失を差し引くことで税引前当期純利益を求めます。
【税引前当期純利益の計算式】
経常利益+特別利益-特別損失=税引前当期純利益
↓(【図表1】では…)
経常利益500億円+特別利益200億円-特別損失100億円=税引前当期純利益600億円
さらに、税引前当期純利益から法人税、住民税及び事業税を差し引くことで当期純利益を求めます。⑤
【当期純利益の計算式】
税引前当期純利益-法人税、住民税及び事業税=当期純利益
↓(【図表1】では…)
税引前当期純利益600億円-法人税、住民税及び事業税200億円=当期純利益400億円
特別利益と特別損失は、特別というぐらいなので、滅多に生じない臨時的・偶発的な収益と費用です。特別利益は最後に利益とついていますが利益の名称ではなく収益に該当し特別損失も最後に損失とついていますが損失ではなく費用に該当します。
◆「特別利益」にはこのようなものが該当する!
「特別利益」には、たとえば、本来は事業活動に使っていて売却するつもりのなかった建物を本社移転のため、たまたま売却したことによって生じた建物売却益や、ほかの会社を支配するために保有していた関係会社株式を売却したことにより生じた関係会社株式売却益などが該当します。
1,000億円で購入した建物を1,200億円で売却したら、建物売却益は200億円(特別利益)になります(説明を簡単にするため減価償却を考慮していません)。
しかし、上記の建物や株式を売却して損失が出た場合には、一転して建物売却損、関係会社株式売却損になります。
仮に1,000億円で購入した建物を800億円で売却したなら、建物売却損は200億円(特別損失)になります。
もともとは、売る気のなかった建物を売るということは何かしらの理由があるはずです。
もちろん老朽化して新築に移転するなどプラスの原因もあります。しかし、資金不足で事業用の建物を売り、賃貸物件に移転するなどの原因なら注意が必要です。
関係会社株の売却も、その会社を支配するために持っていた株式なのに、売ってしまうと、その会社を支配することができなくなります。売却益(収益)が発生しているからよいのではなく、その理由を考える必要があります。
たとえば、営業利益が赤字の会社が最終的な利益を黒字にするために、本来売るつもりのない、売ってはいけない含み益のある関係会社株式を売却した可能性なども考えられます。
これらを調べるためには、後述するキャッシュ・フロー計算書が役立ちます。
「特別損失」に該当する費用の具体例
◆「特別損失」には、このようなものが該当する!
「特別損失」には、火事による火災損失、事務所に泥棒が入ったことによる盗難損失などが該当します。火事、盗難はあくまでも臨時的・偶発的に起こるものですので、特別損失になります。
特別損失には、このほかに取引先に損害を与えた場合などに、それを補てんするために生じた損害補償損失や、リストラした社員に退職金を支払うために生じた「事業整理損失」などがあります。
なお、本業が不動産販売の会社が、建物や土地を売れば売上高になりますが、本業以外の会社なら特別利益の「固定資産売却益」や特別損失の「固定資産売却損」になります。
また、「特別利益」と「特別損失」は臨時的・偶発的に発生した収益と費用であり、今期限りの一過性のものなので予測不能です。来期以降生じる収益・費用の予測には使いません、というより使えませんよね。
「税引前当期純利益」が確定すると、会社の儲けに対して課される「法人税、住民税及び事業税」が計算されます。「税引前当期純利益」から「法人税、住民税及び事業税」を差し引き、最終的な利益である「当期純利益」を求めます。
「当期純利益」は、会社が1年間に生み出した「最終的な利益額」を意味します。
最終的な利益額は、株主への配当の財源となる利益の増加額なので、「当期純利益」を一番気にする株主もいます。
また、当期純利益は貸借対照表の純資産である繰越利益剰余金を増加させます。損益計算書の最終値である当期純利益が、貸借対照表の純資産を増加させる点で、損益計算書と貸借対照表は当期純利益で繋がっているのです([図表2]参照)。

[図表2]当期純利益がつなげる損益計算書と貸借対照表
損益計算書の仕組みをまとめると[図表3]のようになります。

[図表3]損益計算書の仕組み
登場人物は、3つの収益、5つの費用、5つの利益。ですが、企業分析をする上で見るべきは、税引前当期純利益を除く「4つの利益」です。ここから、その会社の強みや実力が見えてきます。
■Point!
いわゆる「4つの利益」─売上総利益、営業利益、経常利益、当期純利益から、会社の強み・実力を分析する糸口をつかむ。
石川 和男
合格率No.1簿記講師・税理士・建設会社総務経理担当役員
石川 和男