EU分裂をもはらむポーランド司法の在り方

EU分裂をもはらむポーランド司法の在り方

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  • 更新日:2021/11/25
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ポーランドの法の支配と司法の独立の問題は10月21日の欧州連合(EU)首脳会議の議題ではなかったが(ドイツは対決の場になるとの理由で討議にすら反対だったらしい)、討議の機会は設けられた。

メルケルはEUの東西分裂、およびそれがEUを麻痺させる事態を怖れていると言われる。彼女は、「底流にある問題は加盟国それぞれがEUの姿をどのように描いているかにある――『絶えず緊密化する連合』なのか、もっと国家主体のものなのか。これはポーランドとEUの間だけの問題ではなく、他の加盟国の問題でもある」と主張した。そして、問題は裁判所では解決しないとして、対話による妥協の道を探るべきことを主張した。

guirong hao / iStock / Getty Images Plus

しかし、EUの首脳達は、必ずしもメルケルの説く宥和的な立場に戻ったとは思われない。オランダを筆頭に多くの加盟国がポーランドの司法のあり方が是正されるまでは復興基金の資金供与を見合わせるよう欧州委員会に要求したようである。

オランダのルッテは「(司法の独立の)問題が解決されるまでは新たな資金がポーランドに提供され得るとは考え難い」と述べた。この間にあってマクロンは慎重に構えている様子である。それは来年に大統領選挙を控え、エリック・ゼムールやマリーヌ・ルペン(後述のバルニエもそのようである)などの主要候補と目される人たちがポーランド問題に刺激され、フランスがその主権をより強く主張すべきことを述べている状況があり、問題が拡大して大統領選挙に波及することを警戒している故だとの憶測が行われている。

加盟国が互いに対立する状況であるので、欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長は難しい立場にある。10月28日の記者会見で、彼女は復興基金による資金供与の前提としてポーランドが裁判官の「懲戒法廷」(7月にEU裁判所が違法と判断したもの)の解体にコミットすることを要求するとともに、懲戒の仕組みの廃止ないし改革、および罷免された裁判官の復帰プロセスの開始にも言及した。

一方、ポーランドのモラウィエツキ首相は、年末までに「懲戒法廷」を解体すると約束したが、それは司法の全面的見直しの一環である(ブリュッセルの圧力に屈した結果ではない)というのがポーランドの立場である。11月3日のポーランド紙の報ずるところによれば、その全面的見直しには「懲戒法廷」の解体だけでなく、最高裁判所の5つの法廷を2つに整理すること――最高裁判所にとどまることを希望する裁判官は国家司法評議会(その独立性をEU裁判所は疑問視している)の審査を受ける必要がある――その他の改変が含まれる由である。司法の独立が疑問視される改変が繰り返される可能性は排除されない。

EUが加盟国の異なるアイデンティティ、伝統、制度に配慮して不必要な容喙を避け、加盟国とEUの権能の境界がどこにあるかに注意することがEUの円滑な運営に必須であることは論を俟たない。最高裁判所の規模を縮小するが如きは本来的にはEUで問題となるべきものではない。柔軟であり得る処は柔軟であるべきである。

しかし、Brexit交渉の首席交渉官だったミシェル・バルニエの次のような発言は、EUを知悉する人物の発言としては異常である。すなわち、11月4日のニームにおける共和党の集会で、彼は移民の問題について、EU裁判所や欧州人権裁判所の判決に脅かされている状況では対処出来ず、フランスは法的主権を取り戻す必要があると述べた。

ドイツとオランダ率いる北部諸国の対立の様相

欧州委員会の報道官は、EU法のある処EU法が優越すること、難民・移民の問題はEUと加盟国の共有権限に属し、EU裁判所の管轄権に服する分野であることを指摘している。これは、ポーランドが裁判所について行っている議論と同じことである。問題は一人が切り取ると、もう一人にとっては穴を意味することである。かくして、ほどなくして、EUの法秩序は穴だらけとなりかねない。

問題はポーランドとEUの対立にとどまらず、メルケルのドイツとオランダが率いる北部の諸国の対立を軸とする加盟国間の対立の様相を帯びているように見える。もし、いい加減な妥協でお茶を濁し、復興基金による資金供与を認める解決となるのであれば、オランダなどの反撥は激しく、復興基金の成否あるいはコロナウイルス危機後の財政のあり方の論議に深刻な影響が及ぶことすらあり得よう。

法の支配と司法の独立のような基本的な問題について、メルケルが落し処の見えないまま妥協を説くことは宥和政策であり、増長を招く。甚だしく危険なことではないかと思われる。

岡崎研究所

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