部下を「自分のコピー」に育ててはいけない理由

部下を「自分のコピー」に育ててはいけない理由

  • 東洋経済オンライン
  • 更新日:2021/09/15
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経営者自身の感情を変えると、望む結果が最速で手に入る? それくらい、経営上のほぼすべての問題は、経営者の感情のなかにあると言っても過言ではないそうで……(写真:mits/PIXTA)

一見、順風満帆に見えている経営者でも、資金繰り、取引先や社員との人間関係、後継者問題などなど悩みは尽きないもの。そんな経営者や社長を対象にコンサルティングを行う押野満里子さんは、「経営上のほぼすべての問題は、経営者の感情のなかにあると言っても過言ではない」といいます。

そんな押野さんの著書『社長はメンタルが9割』より、実際に社長の「感情」にフォーカスしたことで成功への道が開けた事例を紹介します。

「感情」を変えることで「行動」を変える

これまでお会いしてきた500人以上の経営者・社長さんたちの経験から、「経営者自身の感情を変えると、望む結果が最速で手に入る」ことを強く実感しています。

そもそも「感情」とは、ある「出来事」に対して、その人がどう「解釈」するか(思い込むか)によって生まれるものです。

そして、感情はそのまま、次の行動を決める「原動力」になるのです。

プラス感情に属する原動力としては、安心、自己肯定、やりがいが代表例で、「行動できる」要因になります。いっぽうで、マイナス感情に属する原動力としては、不安や劣等感、自己否定などが代表例で、「行動できない」要因になります。

今回は、実際に感情を整えることでご自身の悩みを解決するヒントをつかんだ、50代のアルバム作成会社社長・遠井周一郎さん(仮名)の事例をお伝えしましょう。

※なお、事例は実例をベースにしていますが、個人を特定できないように脚色を加えています。

学生時代の卒業式や結婚式で、分厚い記念アルバムをもらったことがあると思います。

感情コンサルに相談にこられた遠井社長は、そういう特別なアルバムを作る会社の社長さん。社員は約50名、創業から100年以上の歴史がある老舗です。

遠井社長は、自分で営業から商品開発まで全部できてしまう方で、ずっと社員に頼ることなく、突っ走ってこられたそうです。社員教育については、「自分のコピーを作ればうまくいく」という考えで、社員には、自分で決めたルールを守らせていました。

「どんなルールを、決めていらしたのですか?」

「『始業の3分前には席について、仕事をはじめる準備をする』とか、『仕事は締め切りの1週間前には一度、報告ができるレベルにまで仕上げる』などですね」

「それを、社員のみなさんに守らせていたのですね」

「そうです。すべてマニュアル化して徹底していました」

「そうやって、社長さんのコピーを育てようとされていた」

「はい。それが一番、効率がよくて、会社がうまくいくと思っていました」

時代の流れで売り上げは低迷

かつて、業績は順調でしたが、世の中のデジタル化の流れのなかで、だんだんと売上が低迷してきます。

「分厚いアルバムが、時代に合わなくなってきたんです。それで、私ももう歳で頭が固くなってきたし、それなら、社員から会社の今後について、何か新しい意見を聞こうと思って話をしてみたんです。そうしたら、誰も何も考えていなかった(苦笑)」

「分身の術を使ったつもりだったのに、誰ひとり育っていなかったのですね」

「そうです。考えてみれば、全部、自分でやってきて、周りにイエスマンを育ててきたのですから当然の結果です。社員にしてみたら、『会社の将来について、今さら聞かれても、今までどおり、社長のお好きにやれば』という気持ちだったと思います」

そんなとき、息子さんから会社を継ぐ気持ちがないことを告げられたそうです。

遠井社長は、いよいよ、自分が辞めたあと、会社をどうするかで悩みました。

「息子が継がないなら、会社は売却するか、社員の誰かに継がせるかのどちらかです。そのことで悩んでいたら、なんだか、無性に社員たちに対して腹が立ってきてしまって……。『自分がこれだけ頑張っているのに、なんだよ、お前ら!』って」

感情コンサルをやっているとよくわかるのですが、人というものは、自分が悪いと頭ではわかっていても、感情では被害者になってしまうことがあります。

被害者になった時点で、「あいつのせいだ!」と自動的に加害者が生まれて、遠井社長のように無性に腹が立ってきます。この感情は理屈ではないので、抑えようがありません。

そして、ここで感情コンサルが効きます。自分の感情を認めて、ねぎらってあげる。そういうプロセスを踏んでフラットな気持ちになってから、現状を俯瞰するのです。

感情コンサルでは、感情を癒すところからスタートします。人は、まず、自分を認めて、安心しないと、フラットな気持ちで、自分を変えることができません。

遠井社長の場合は、「ここまで頑張ってきた自分を認め、自身でほめてあげる」ことが必要でした。

そして、自身の中の怒りをため込まずに吐き出してもらう。よく「ネガティブなことは口にしないでください」なんて言われますが、怒りは溜め込まずに吐き出すほうが、ずっと、ボジティブだと思います。口から外に出すことで、心の中を軽くすることができるからです。

勘違いに気づいたら

そうしてフラットな状態になっていただき、問題を俯瞰すると、元凶は、遠井社長がバックミラーを見ずに、つまり、社員たちのことを見ずに、突っ走ってきたことでした。そして、マイルールを押しつけて、「自分のコピーを作れば安心」だと勘違いしてしまったツケが、今、まわってきたのです。

そこまでは納得した遠井社長は、自分の歳では新しい事業のアイデア出しは無理だと判断して、改めて、社員たちに新規事業のアイデアを募りました。

すると、カメラ部門や印刷部門などで新たな事業アイデアが出てきたのです。遠井社長は腹をくくって、5つの新規事業を同時に立ち上げることにしました。

もちろん、自分がやるのではなく、それぞれに責任者を任命して。不安はありましたが、もう、会社が生き残るにはこれしかないという判断です。

任命した責任者からアドバイスを求められると、遠井社長はこう答えたそうです。

「自分もやったことがないから、一緒に考えよう」

社長の変化に応えるように、責任者となった社員たちは、みな、実力を発揮しました。感情コンサルを受けてから約2年。新規事業は、どれも順調だとか。

かつては、自分だけでやっていた採用などの人事業務も、今では担当社員に任せて、精神的にすごく楽になったそうです。遠井社長は、こうおっしゃいました。

「やっぱり、任せてみて、それまで抑えつけていた社員たちが、ちゃんと力があったんだということが見えたのが、自分にとって一番大きかった」

伸びる会社の社長がしていること

「最高の指導者ほど、何も言わない」という言葉を聞いたことがあります。

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スーパーマン社長ほど、つい、何でも自分でやってしまったり、的確すぎるアドバイスをしてしまったりして、社員の自主性を奪ってしまうようです。アドバイスが悪いのではありません。アドバイスは、あくまで相手が主体になるようにしないと、ただの命令や指示になってしまうということです。

社員の自主性を重視して、良いところを伸ばして、やる気に火をつける。感情コンサルをしていると、それが伸びる会社の社長さんのあり方だとわかります。

そして、自分の感覚が市場とズレてきたなどの理由で、会社を引き継ぐべきときがきたら、思い切って任せてみる。

会社の理念とか、DNAだけは引き継いでもらって、新規事業は次の世代に任せてみることが、会社を存続させるコツなのではないかと思います。

(押野 満里子:一般社団法人感情セラピー協会代表理事・二光光学株式会社取締役)

押野 満里子

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