ソウル・釜山市長選で劣勢の与党、文在寅離れが加速

ソウル・釜山市長選で劣勢の与党、文在寅離れが加速

  • JBpress
  • 更新日:2021/04/08
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4月2日、ソウル市長選の期日前投票を行う文在寅大統領と金正淑夫人(写真:YONHAP NEWS/アフロ)

韓国の政権与党「共に民主党」が連日、国民に向けた謝罪文を発表している。目前に迫った選挙のために、いわゆる「泣き落とし戦略」に突入したのだ。

3月31日、選挙対策委員長を務める李洛淵(イ・ナギョン)元首相が緊急記者会見を自ら要望し、「無限の責任を感じており、国民の皆さんにお詫び申し上げします」と国民へ謝罪したが、翌日にも党代表職務代行の金太年(キム・テニョン)議員が再び国民への謝罪文を発表し、「原因がどうであれ、我々が至らなかった」「もう一度チャンスを与えてほしい」と、腰を90度に折り曲げて頭を下げてみせた。

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「失政は朴槿恵前政権のせい」

文在寅(ムン・ジェイン)政権と与党は最近まで、政権への批判が起こるたびに、「李明博(イ・ミョンバク)政権、朴槿恵(パク・クネ)政権のせいだ」「保守メディアのせいだ」と、一貫して責任転嫁の姿勢をとってきた。特に日々高騰する住宅価格に関して、文政権の不動産“失政”が指摘されると、必ずと言っていいほど朴槿恵政権の政策のせいにしてきた。つまり、朴槿恵政権が景気てこ入れのために「借金をしてでも住宅を」とばかりに、住宅売買関連税金を緩和し、銀行融資の上限線を大幅に増やしたために現在の不動産バブルが起きた、と主張してきたのだ。さらに朴政権時代には、ソウルをはじめとする首都圏の再建築などの住宅供給事業が少なかったことも指摘した。

確かにそれらは不動産価格高騰の一因かもしれないが、文政権や与党の人々は、朴政権当時、野党だった民主党や朴元淳(パク・ウォンスン)ソウル市長が再建築マンション事業やグリーンベルト(開発制限地域)解除に強く反対した事実はきれいさっぱり忘れてしまっているようだ。そのため彼らは、臆面もなく「文政権の不動産政策は決して失敗していない。現在の状況は朴槿恵政権の経済政策の副作用のせいだ」という論理を展開してくることができたのだろう。

文政権や与党の人々による責任転嫁はこれだけではない。

韓国国民を激しく怒らせているLH(韓国土地住宅公社)の職員たちの土地不正投機疑惑については、李明博政権時の対応を嘆いてみせた。住宅供給のための宅地買入を専担しているLHの職員らが内部情報を利用しニュータウン予定地となっている農地を購入していたこの事件で、LH職員らは耕作者のみが購入できる農地の購入のため虚偽の営農計画書を提出する詐欺の手法まで使っていた。公務員のモラルハザードがこの事件の核心だが、文政権と与党はこの事件を「LHを作った李明博政権のせい」にした。設立当初からLHにあまりにも多くの権力を付与した李明博政権が原因を作ったのだという主張だ。

そこから与党は、LHの職員たちの投機疑惑に対する捜査を李明博時代や朴槿恵時代まで拡大することを強力に推し進めている。

セクハラの被害者女性に二次被害与える与党

ソウル、釜山両市の市長選挙戦の序盤、与党陣営は極めて傲慢な態度で臨んでいた。

今回の選挙は、ソウルや釜山という韓国第一と第二の大都市の首長が、女性秘書にセクハラしているとの告訴を受け、1人は自殺し、1人は辞任したために、838億ウォンという国民の税金を投じて任期1年の市長を選ぶことになったものだ。それなのに与党は、この事実を想起させる「今回の選挙はなぜ行われたのですか」という、女性団体が用意した垂れ幕を選挙違反として告発し、禁止させた。

さらに朴元淳・前ソウル市長の強制わいせつ被害者に対しては、執拗に2次被害を与え続けてきた。朴元市長の自殺で事件捜査が終結したことをいいことに、まずは朴元市長のわいせつ行為を告訴した元秘書を「被害者」ではなく「被害を訴える女性」と呼ぶ戦略を取った。そして国民が強く反対する中、朴元市長の葬儀をソウル市葬として大々的に行い、与党の大物議員を次々に弔問させた。ソウル市内のあちこちには、共に民主党が作った「あなた(朴元市長)を永遠に記憶します」というプラカードが掲げられた。

(参考記事)朴市長のセクハラ疑惑不問にし被害者貶める韓国与党
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/61267

「被害を訴える女性」という言葉を作り出した南仁順(ナム・インスン)、陳善美(チン・ソンミ)、高旼廷(コ・ミンジョン)の3人の女性議員は、与党の朴映宣ソウル市長候補の選挙陣営に合流し、「女性の人権保護のために女性候補を選んでください」と訴えた。朴元市長の元秘書が記者会見を自ら要望し、「3人の女性議員を選挙キャンプから外してほしい」と朴候補に要請したほどだった。

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共に民主党からソウル市長選挙に立候補している朴映宣候補(写真:Lee Jae-Won/アフロ)

野党候補に大差つけられる与党・朴映宣候補

このように選挙序盤まで傍若無人な態度を貫いた与党が、突然国民の前で頭を下げはじめたのは、文在寅政権に対する国民の世論が日増しに悪化しているからに外ならない。

LH事件が暴露された3月初めから、政権の支持率は急激な下り坂を転げ出し、4月2日のギャラップ世論調査では32%まで下がった。文政権に対する国民の評価は、ソウル市長候補に対する支持率にそのまま反映されている。選挙1週間前に発表された複数の世論調査では、野党の呉世勲(オ・セフン)候補が与党の朴映宣(パク・ヨンソン)候補を20~25%の差で大きくリードしている。

この与党劣勢の中、政権の不動産政策の立案者たちの「偽善」が国民の憤りにさらに火をつけた。

昨年7月、韓国国会では野党の反対にもかかわらず、与党単独で「賃貸借三法」が通過した。「家主は、賃借人が希望すれば契約期間を4年間維持しなければならず、家賃の引き上げは年5%以内に制限しなければならない」という法案だ。

ところが、同法が成立するわずか数日前、金尚祚(キム・サンジョ)大統領府政策室長は、自身が保有する江南マンションの家賃を14%も引き上げた。法案を設計して国会に発議した「市民派人権弁護士」として知られる朴柱民(パク・ジュミン)議員(共に民主党)は、同法案が通過する約1カ月前に自分のマンションの家賃を9%引き上げていた。

この2人が家賃を引き上げたのは法案が成立される前であり、法的には問題ない。しかし、一般国民の権利を強制的に規制する法案を作っておいた張本人たちが、法案成立直前に家賃を大幅に引き上げた「偽善」に対して世論の批判が殺到した。結局、大統領府はスキャンダルが発覚した当日に、金尚祚室長から辞職届を受け取り、朴映宣候補の選挙キャンプのメディア本部長だった朴柱民議員は、選挙キャンプから去った。

朴映宣陣営で急速に進む「文在寅離れ」

政策失敗とともに、政権核心層の偽善行動が国民の怒りをさらに高めると、選挙運動の終盤に入った朴映宣候補は文在寅大統領の存在を消すことに努めている。

2021年1月、与党の公認候補となった朴映宣氏は、自分が文大統領の「大学の後輩」だと強調し、「韓国は(誇らしい)文在寅保有国」という発言をした。しかし、現在の選挙遊説場では文在寅大統領の名前には一切言及せず、選挙遊説用のジャンパーからは共に民主党の党名を消している。文政権の不動産政策についても、「よくやったとは思わない」「今とは確かに違う不動産政策を展開する」とし、政府に批判的な態度を見せている。選挙に勝つためには政権や与党とは距離を置くのが望ましいという戦略だ。

また共に民主党も文在寅政権の不動産政策を批判し始めた。「政府や与党が現実をまともに把握できず、政策を細密に作ることができなかった」(李洛淵元代表)、「ネロナンブル(ダブルスタンダード)の姿勢を打破する」「不動産政策の中で補完すべきものは速やかに対策を講じる」(金太年代表代行)などの発言が首脳部から出ている。

同党の洪翼杓(ホン・イクピョ)政策委議長は「われわれがさまざまな不動産政策を発表したにもかかわらず、価格が急騰したことについては申し訳なく思う」と述べ、融資規制緩和を推進することを発表し、公示地価の引き上げ制限などの税金緩和策についても言及した。

この動きに対して大統領府側は、「政策失敗というより、複合的な原因がある」「政策の一貫性が大事だ」と不快感を示した。選挙後には与党と政権の本格的な対立が始まる可能性がある。

支持率は完全に危険水域に

通常、韓国の歴代政権は、大統領の支持率が35%を割り、否定的な評価が55%を超えれば、例外なくレームダックに陥ってきた。レームダックになると、与党は大統領府と対立し、政権の各種政策が漂流することになる。主要人事でも大統領が望む人を任命することが難しくなり、官僚集団は言うことを聞かなくなる。まさに文在寅政権はその状態に入りつつある。

次期大統領選挙まで1年もない状況で、与党内の次期大統領候補たちは、文政権の失政を攻撃し、政権と距離を置こうとするだろう。党内では、大統領よりも有力な次期大統領選候補の発言が威力を持つし、政権維持のために文在寅大統領の離党を勧める可能性もある。

政権によって検察を追い出されたも同然の尹錫悦(ユン・ソクヨル)元検察総長が「反文在寅世論」の求心力となり、すべての世論調査で次期大統領候補として圧倒的な支持率1位を記録している点も文政権としては大きなプレッシャーだろう。もし、ソウル市長や釜山市長の2カ所で野党候補が当選すれば、政権支持率が30%を下回ることは火を見るより明らかだ。選挙直後には来年の大統領選挙に向けた本格的なレースが繰り広げられるからだ。

わずか1年しか任期がないソウル市長を選ぶ今回の選挙。実は文在寅政権の没落の序章となる可能性が急速に高まってきた。

李 正宣

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