
『自費出版の漫画を”1000冊”刷って売り歩く男の末路』より
SNSや各種投稿サイトなどが普及したことにより、イラストレーターや漫画家、小説家を目指すクリエイターがチャンスを掴みやすい環境になった。しかし、同時に「売れる」ことはいつの時代も容易ではなく、多くの人々が自分の作品を世の中に届けるために頭を悩ませている。
(参考:『自費出版の漫画を”1000冊”刷って売り歩く男の末路』を読む)
現在、連載に向けて準備を進めている漫画家の水上あきらさん(@hsnkzdk33761)がSNSで公開した漫画『自費出版の漫画を”1000冊”刷って売り歩く男の末路』を読むと、その困難さと創作に傾ける情熱が伝わってくる。道ゆく人たちに声をかけ、自身の作品を直接売り歩く「行商」を実行した水上さん自身の体験を描いた内容で、多くの出会いを重ねながら「なぜ創作活動を続けるのか」というクリエイターの本質と向き合っていく姿がリアルに表現されている。
そんな水上さんに、本作を描き上げた経緯から、なぜ行商を実行したのか、そのなかで特に印象的なエピソードはどんなものだったのかなど、話を聞いた。(望月悠木)
■「本当にやりたいことやってるの?」
――漫画『自費出版の漫画を”1000冊”刷って売り歩く男の末路』誕生の経緯を教えてください。
水上:当時は時間を持て余していて、よく外を歩いていました。その際、街中で様々な人とすれ違う時に「この人達に漫画を売ったらどうなるんだろう?」とふと思って実行して、その経験を漫画にもしようと思って制作しました。
――なかなか大胆な発想ですね。
水上:そうかもしれません。当時はネームが通らず、煮詰まっている状況だったのですが、編集さんから“反社会的勢力の人がアキバで働く”という話を提案してもらいました。正直乗り気ではなかったのですが、「反社会的勢力の人が登場する漫画は売れる」ということで描きました。
――その話は上手く進んだのですか?
水上:全然でした。「それも面白くない」とのことでした。そこで嫌になって、「どうせダメなら自分のやりたいことやろう」と思って行動に移した、という流れです。
――作中に描かれていることはすべて実話ですか?
水上:実話です。ただ、切り取ったり時系列を変えています。
――行商中に特に印象に残ったエピソードは?
水上:両国国技館周辺で知り合ったおじさんが、相撲の昔話を嬉々と話してくれたのが一番印象に残ってます。僕は相撲が好きなので、若貴ブーム時の両国は異常な騒ぎで、前日から行列が両国国技館一周してたとか、駅のホームに出待ちが溢れてたとか、知らない世界を見せてもらえたのが嬉しかったです。
――買ってくれた人の笑顔が多く描かれているのが印象的でした。その一方で、中には心無い言葉を向ける人のことも思い出しながら描くのは辛くありませんでしたか?
水上:「ネガティブな反応は当然」と思っていたので受け止められましたが、“的を射た意見”はグサッと胸に刺さりました。「お金になることして下さい」とか「本当にやりたいことやってるの?」とか。どれも僕自身に思うところがあったので、非常に心にきました。
――そういった体験を経て、水上さんの中で何か変化はありましたか?
水上:これまでは部屋で制作するだけだったので、“漫画を売る”という目的があったことでいろいろな人達と話せたことが大きな変化です。今後は今回培った“取材力”をより活かしていこうと思っています。
――本作を読んで、漫画家をはじめクリエーターが行商体験に興味を持つかもしれません。行商をするうえでのアドバイスなどはありますか?
水上:モチベーション維持が本当に大切です。収入を得たいのであれば、それ相応の価格設定をするなど。僕はバズることを目的にしていたのですが、全然バズらず、モチベーションがなくなりました。
――最後に今後の意気込みなどあれば!
水上:売れるように頑張ります。
(取材・文=望月悠木)
望月悠木