見捨てられたくない...「孤独への過度な恐怖」を生んでしまう“親のひと言” 〈加藤諦三(早稲田大学名誉教授、ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員)〉

見捨てられたくない...「孤独への過度な恐怖」を生んでしまう“親のひと言” 〈加藤諦三(早稲田大学名誉教授、ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員)〉

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  • 更新日:2023/01/25
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常に自分は見捨てられるのではないかという不安に悩んでいる人がいます。不安に苦しむ、几帳面な"執着性格"の人は、本当に味方になってくれる人を失い、搾取しようとする人ばかりに囲まれてしまうことも。早稲田大学名誉教授の加藤諦三氏が解説します。

※本稿は、加藤諦三著『だれとも打ち解けられない人』(PHP研究所)より一部抜粋・編集したものです。

一人では生きていけないと感じる

小さい頃、あなたは母親の言うことを聞かなかった。そのときに「あなたがそんなに悪い子なら、お母さん家を出て行っちゃう」というようなことを母親に言われなかっただろうか。これが「見捨てるという脅し」である。

親は、これらの恐れを利用して子どもを育てることがある。親が子どもに言うことを聞かせるために、この「見捨てるという脅し」を利用する。

その結果、子どもは生きること自体を恐れるようになる。うつ病者の考え方が悲観的な傾向にあるのは、これが1つの原因ではなかろうか。自分の人生に何かよくないことが起きるのではないかと、いつも恐れている。

彼らは、あまりにもいつも「見捨てるぞ」と脅されてきたのである。そしてこの恐れこそ、その人をいつまでも依存的にしてしまう原因の1つでもあるだろう。他人にしがみついていなければ生きていけない。見捨てられたら一人では生きていけないと、大人になってもそう思うようになる。

実は大人になれば、執着性格者は一人でも生きていけるだけの力はあるのだが、生きていけないと思ってしまう。そして、周囲の人から見捨てられるのが怖くて、周囲の人に迎合する。迎合することで、ますます一人では生きていけないように感じる。

そういう人の会話を考えてみる。

「黄色?」
「ハイ、黄色です」
「雨か?」
「雨です。晴れではありません」
「昨日晴れだったろう、えー? 晴れだよね」
「うかつでした、晴れでした」
「左ですか?」
「左です」

それが「おいしいか? まずいか?」は関係ない。すべては相手がどう言うか、で決まってしまう。

本当の味方に見捨てられてしまう

うつ病になるような人は、心理的に置き去りにされているときもある。ずるい人は、利用するときに限ってやってくるものだから、彼らは置き去りにされる。本人は淋しいからそれでも喜んでしまう。

「捨て子」と思われるといけないから、質のよい人にも質の悪い人にも、奉仕する。この八方美人が苦労の始まりである。

うつ病になるような人は、なぜ真面目に一生懸命生きているのに、これほど苦労をするのか、ということの原因がつかめていない。

「見捨てられる」という表現を使うと、自分とは関係のないことと多くの人は思うだろう。「見捨てられる」ということが自分と結びつかない。

やさしくいえば、その場で自分によくしてくれる人に感謝をし、そちらに気が引かれていくことである。ちょっとしたことでも、その人を「いい人」だと感じて、尽くそうとする。

それは決して愛情からではなく、恐怖感から尽くす。奉仕するのも対象無差別。本当に自分のことを考えてくれる人に奉仕するのではない。

むしろ、本当に自分のことを一生懸命やってくれている人には、やってもらえるのが当たり前という感覚になる。どんなに尽くしてもらっても、感謝をしないで、不満になる、怒る。

ずるい人には表現できない怒りを、誠実な人にぶつける。こうして誠実な人から限りなく愛を貪()る。

自分のことを一生懸命にしてくれている人を逆に恨む。誠実な人が、苦労して自分に「してくれること」を当たり前のことと受け取る。だから何かしてくれないと、してくれないからということで誠実な人を恨む。

そして何もしてくれない質の悪い人に怯えて、バカみたいに感謝する。そして質の悪い人に舐められて利用される。

ずるい人で、常に相手を利用しようとする人にとっては、うつ病になるような人はまさに鴨ネギである。そこで誠実な人も、「これはダメだ」と思い、嫌気がさして去ってしまう。

「いつ見捨てられるか」と恐れているから、人には強く出られない。そして「この人は見捨てない」と思った人には、態度を一変させて貪り出す。それが誠実な人から貪るということである。ある時点まで来ると、周りにいる人はみな質の悪い人になっている。

あのときに流せなかった涙を今流す

淋しい人は、ときにそれがわかっていても、ずるい人にいい顔をするのがやめられない。人間関係依存症である。全部取られても、いい顔をするのがやめられない。ときにはそうした状態にいることにすら気がつかない。

リスクを覚悟して毅然とした態度に出れば、相手は襟()を正してくれることもある。垢()が落ちることもある。

しかし、うつ病になるような人は、リスクをとれないから、そうした毅然とした態度ができない。うつ病になるような人は、どこへ行っても安住の場所がない。ないと思っている。本当はあるのである。

しかし、自らずるい人のところへ行ってしまう。だから安住の場所がない。見捨てられる恐怖は、幼児期のトラウマになる。とにかく一人が怖い。このトラウマになった出来事を意識に乗せて、乗り越えることである。

見捨てるという脅しに怯えて、必死になって迎合していたときの、心の底の苦しみ、悲しみ、怒りをしっかりと意識に乗せる。そのときに流せなかった涙を今流す。

それはものすごい事件のことばかりを言っているわけではない。執着性格者は、日常の小さな出来事でも悔しい思いをしている。

「あなたがケガしたのはしょうがないじゃない、あなたが悪いのよ」と言われると、もう何も言えなくなる。「このあいだ話したじゃない、そんな大きなことじゃないよ」と言われると黙ってしまう。

「話を聞いた」ということと「自分は納得した」ということは違う。

子どもは話そうと思ったけれど話せなかったのである。母親との関係なら「ぼくはあのときに納得しなかったんだよ」と言えばいい。しかし言えない。そういう子どもは、いつも母親にイライラする。

母親に「お母さんの話にイライラするのは、そのためなんだよ」と言えばいい。しかし言えない。

母親のほうはナルシスト。相手が納得したかどうかなど見ていない。子どもの自我の基盤が脆弱。子どもはナルシストの母親に圧倒されている。

今生きるのが苦しいなら人間関係を変える

従順であることだけを強いられた人は、相手に言われたことに反論できない。「あの人からそう言われた」ということで、そうしてしまう。迎合のときには「そうね」で終わる。しかし納得していない。

話し合いは意志を曲げたらダメ。自分の意志を曲げない。相手の話の疑問点を探していく。

「自分の意志を曲げない」ということと、相手の話を聞くということは別。相手の話は悔しくても聞く。

一つの出来事の見方はいくつもある。相手の話を「そういう見方もあったのか」と聞く。納得できれば「そうね」でいい。

相手側の価値観を理解しないと「話し合い」はとんでもないことになる。トラブルが起きたときの打つ手を間違える。だから相手の話はよく聞く。とにかく相手をしっかりと見る。

ライオンが襲うと思うから怖い。食べられるという意識があると、怖くて竦んでしまう。その恐怖感で「走る」という能力、逃げるという能力が奪われる。本来「できる」はずのことが、「できない」。

意志はしようとしている。しかし行動は心象にしたがう。アメリカの心理学者シーベリー(Seabury)は「心象は意志に優先する」と述べている。心の中の自己イメージが否定的なら、できることもできない。

ネズミが小金を貯めた。そして大人になって、あるときに逆境を経験する。すると、そこでダメと思ってしまう。霞が関のエリート官僚が自殺する。家のない人が借金を抱えて自殺するのではない。

つまり「オレはダメだ」と思っても、実際はダメではない。だから自分のイメージを変えること。

人を信じられるか、信じられないか。それは、自分一人で生きていける自信があるかどうかということである。見捨てられても一人で生きていけると思ったとき、人を信じることができる。

お金などいくらあっても不安。財産で小さい頃のトラウマは乗り越えられない。

人の意欲をそぐ人間がいる。一緒にいるだけでやる気をなくさせる人がいる。逆に一緒にいるだけで意欲が湧く人もいる。だれといるかで意欲が湧いたり、減退したりする。

とにかく、うつ病になりやすい人は、今生きるのが苦しいなら人間関係を変えること。今、生きるのが八方ふさがりと感じるなら、今の人間関係が悪い。今までの人間関係も悪い。

人間関係を変える。それが真の解決である。そして自分を信じること。

オオカミでも叩かれ続けたら弱くなる。うつ病になるような人は、歪んだ訓練で弱くなった。それでも、とにかく今まで生きてきた。それが決して弱い人ではない証拠。

ふとしたときにオオカミの本性は出るはずである。それを見逃さない。そのときに「自分は弱い」という自己イメージを、「自分は強い」という自己イメージに変えるのだ。

加藤諦三(早稲田大学名誉教授、ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員)

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