
「アメリカン・フィクション」の1シーン(MGM-Orion Releasing via AP)
アカデミー賞の前哨戦として近年注目されるトロント国際映画祭が7日から17日の日程で開催され、コード・ジェファーソン監督の「アメリカン・フィクション」が最高賞にあたる観客賞に輝きました。
ピープルズ・チョイス・アワードの名で知られる観客賞は、その名のとおり映画祭に来場した一般のファンによる投票で決まる賞で、審査員がいるカンヌやベネチアなどの国際映画祭とは一線を画していることが特徴です。映画ファンが選ぶ賞であるため、批評家ウケが良いマニアックな作品よりも一般ウケする娯楽作品が受賞しやすい傾向にあります。一方で、近年は「ノマドランド」(20年)や「グリーンブック」(18年)、「それでも朝は明ける」(13年)など観客賞に輝いた作品がアカデミー賞作品賞を受賞するケースも多く、翌年のアカデミー賞を占う上でも重要な賞の一つとされています。
昨年の観客賞を受賞したスティーブン・スピルバーグ監督の「フェイブルマンズ」をはじめ「ベルファスト」(21年)「ラ・ラ・ランド」(16年)など16年以降、観客賞に輝いた作品は全て翌年のアカデミー賞作品賞にノミネートされており、テレビドラマシリーズ「ウオッチメン」などで知られる脚本家ジェファーソン氏の監督デビュー作となった「アメリカン・フィクション」も今後の賞レースで注目されることになりそうです。
観客賞を競うスペシャル・プレゼンテーション部門には、日本から是枝裕和監督の「怪物」や濱口竜介監督の「悪は存在しない」も出品され、宮崎駿監督の最新作「君たちはどう生きるか」は邦画並びにアニメ作品として同映画祭史上初めてオープニング作品に選ばれ、海外初お披露目されました。残念ながら最高賞は逃したものの「君たちは~」は、次点のアレクサンダー・ペイン監督の「ザ・ホールドオーバーズ」に次いで、3位に選出されています。日本ではすでに公開されていますが、アメリカでは12月に公開を予定しており、来年のアカデミー賞ノミネートにも期待が持たれています。
ハリウッドで全米脚本家組合と全米映画俳優組合によるWストライキが行われている影響で、今年はほとんどの俳優が欠席する寂しい映画祭となりましたが、今後は29日にニューヨーク・フィルム・フェスティバルの開幕も控えており、これから冬にかけて賞レースが本格スタートします。
現時点で、観客賞に輝いた俳優ジェフリー・ライト演じる黒人作家が「黒人に対する白人の固定観念」に憤慨しながらやけくそで書いた典型的な黒人小説が爆発ヒットする風刺コメディドラマ「アメリカン・フィクション」のほか、次点だった「サイドウェイ」(04年)「ファミリー・ツリー」(11年)で2度のアカデミー賞脚色賞を受賞しているペイン監督が6年ぶりにメガホンを取ったポール・ジアマッティ主演の「ザ・ホールドオーバーズ」をはじめ、クリストファー・ノーラン監督の最新作「オッペンハイマー」やマーティン・スコセッシ監督とレオナルド・ディカプリオ、ロバート・デニーロがタッグを組んだ「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」、今夏世界中で大ヒットした着せ替え人形を実写化した「バービー」などが有力候補に挙がっています。
【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)