ソフトウェアは悪意のある道具か? Git HubのYouTube動画DLソフト削除騒動から考える

ソフトウェアは悪意のある道具か? Git HubのYouTube動画DLソフト削除騒動から考える

  • ハーバービジネスオンライン
  • 更新日:2020/11/20
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M. H. via Pixabay

◆GitHubが、YouTube動画のダウンロードツールを削除

10月末のことだが、全米レコード協会(RIAA)から要請があり、GitHub がyoutube-dlというソフトウェアを削除したということが、プログラマーの間で話題になった(TechCrunch Japan)。

youtube-dl は、Youtube などのサイトから、動画をダウンロードするためのコマンドラインプログラム(ウィンドウの表示なしで利用するプログラム)だ。プログラムは Python で書かれており、UNIXユーザー(Linux、macOSなど)はソースコードから利用でき、WindowsユーザーはEXEファイルをダウンロードして利用できる。対応サイトは1000以上あり、ニコニコ動画などもある(youtube-dl)。

パブリックドメインのコンテンツのダウンロードに便利なツールだが、著作権で保護されているコンテンツもダウンロードできる。つまり、問題のない使い方もできるが、問題のある使い方もできるプログラムというわけだ。

youtube-dl の正当な利用方法としては、「ファイルをダウンロードしたあと、アクセシビリティのために再生速度を変更する」「人権闘争における証拠の保存」「ジャーナリストのファクトチェックの支援」「クリエイティブコモンズライセンスまたはパブリックドメインの動画のダウンロード」などがある。

全米レコード協会は、この youtube-dl を、技術的保護手段を回避し、使用の許可なく録音物を複製および配布するソフトウェアとして削除要請をした(GitHub)。

youtube-dl のFAQには、著作権の侵害に特化したサービスのサポートは含まれないと書いてある(ytdl-org)。

11月の下旬になり GitHub は、削除した youtube-dl は、著作権を侵害していなかったとして復活させた(GitHub、ITmedia NEWS)。理由は、プロジェクトが技術的保護手段を回避していないためだという。

また GitHub は、開発者の負担を軽減する措置も講じると発表した。デジタルミレニアム著作権法(DMCA)の第1201条に基づく削除要請のプロセスを見直して、専門家によりレビューをして、不当な申し立ては拒否する。また、開発者防衛基金として100万ドルを寄付して、不当なDMCAセクション1201の削除請求から保護する。こうした措置を講じるとした。

◆デジタルミレニアム著作権法(DMCA)

さて、今回の騒動の元になったデジタルミレニアム著作権法(DMCA)と、その第1201条について話をしよう。

デジタルミレニアム著作権法は、1998年に成立して、2000年に施行された米国の改正著作権法だ。DMCAは、音楽や映画といったコンテンツを保護するためのものだ(コトバンクe-Words)。インターネット時代に対応して、ネットに不正に公開されたコンテンツの配布を停止したり、拡散を防止したりする。

成立当時、海賊版コンテンツが横行していたために、こうした法律が作られた。大まかな把握としては、著作権が侵害されていると申告すれば、速やかに削除されるという流れになる。この流れは、以下のルールによって成立している。

著作権侵害コンテンツがウェブサイトなどに投稿された場合、通報後すみやかに削除すれば、サイトなどの運営者は免責される。また、侵害の通知を受けて削除したことを発信者に通知し、その反論を取り次げば、発信者の被った損害について、サイトなどの運営者は免責される。

そのため、通報があれば、まず削除して、反論があれば受け付けるというインセンティブが働く。

また、今回の争点となった第1201条は、コピーガードをはじめとする技術的保護手段の回避禁止についてのものだ(Legal Information Institute)。この場合の技術的保護手段の回避とは、スクランブルされた作品のスクランブルを解除する、暗号化された作品を復号化する、またはその他の方法で技術的手段を回避、バイパス、削除、非アクティブ化、または損なうことを意味する。

GitHub が問題ないと判断したのは、youtube-dl は、特にこうしたことをおこなっていなかったからだ。

◆デジタルミレニアム著作権法の悪用

デジタルミレニアム著作権法(DMCA)は、著作物を守るという崇高な目的があるが、その権限が強いために、よく悪用される。一定の手続きで申請すれば、対象のコンテンツを取り敢えず削除させることができるために、他者への攻撃に使われる。

個人や企業が、自身の悪評などを消すため、あるいは、単純に嫌がらせのために利用される。通知の真偽を確かめることなく、取り敢えず削除されるので、削除された側が、問題のないコンテンツであることを、その都度証明しなければならない。

多くの場合、申請された側が泣き寝入りするのだが、余力がある人が訴訟をするケースも増えている。

また、会社でこうした虚偽の申請をした場合は、ニュースになるなどして会社の評判を著しく落とすことになる。DMCA の悪用は、多くの人の反感を買う。そのため悪評を消そうとして、より大きな悪評をネットに刻むことになる(web > SEOP2Pとかその辺のお話R)。

◆ソフトウェアの用途の難しさ

さて、youtube-dl の話から始めて、DMCA の悪用について話を進めた。最後に、私自身が経験した、ソフトウェアの用途の難しさについて書く。

大昔、ネットに、お絵かき掲示板というものがあった。Webブラウザに表示されるキャンバスにお絵かきをして、掲示板に投稿するというものだ。その頃はSNSもまだなく、色々なお絵かき掲示板サイトがあり、テーマ毎のスレッドがあった。そうした場所に絵を描いて投稿して、みんなで感想を書くといったことがおこなわれていた。

私自身、絵を描く人間なので、そうしたお絵かき掲示板サイトに出入りしていた。ただ、社会人なので、毎日の自由時間は少なかった。1枚の絵を描くのに、それなりの時間が掛かるので、セーブをしたかった。しかし、当時出入りしていたお絵かき掲示板サイトには、セーブ機能がなかった。

そこで、Webページのスクリーンショットを保存して、その画像を元に、前日のキャンバスの状態を再現するためのプログラムを書いた。非常に単純なツールで、お絵かき掲示板のペンの色を選んだあと、保存した画像の同じ色の場所を探して、同じようにドットを打つというものだった。

ドットトレーサーと名付けたそのツールは、思ったよりも便利だったので、一般にも公開した。

するとしばらくして、ドットトレーサーが原因で、お絵かき掲示板サイトで喧嘩が起きているのを目撃するようになった。ドットトレーサーを使えば、減色した写真を、そのままお絵かき掲示板に転写できる。そうした用途で使う人が出てきて、絵を手書きで書いたのか、ドットレを使ったのかという論争が起きていた。その結果、絵が上手い人ほど、難癖を付けられるという状況になってしまった。

便利だと思って公開したソフトウェアに対して、他の人が違う使い方を発明したわけだ。そして、意図しない論争が起きて、トラブルに発展した。私自身、過去に100本ぐらいのオンラインソフトを公開していたのだが、こうしたことは、たまに起きる。

ソフトウェアの公開は、なかなか難しい。こうした過去の経験を、youtube-dl のトラブルを見て思い出した。

プログラムは、処理の手順を書いて、それを自動実行するものだ。そのため、ある意味、手作業でできることを自動化して、コマンド一発でおこなえるようにしているだけである。本来できることを簡単にできるようにしたら、それは違法なのかという問題がある。

<文/柳井政和>

【柳井政和】

やない まさかず。クロノス・クラウン合同会社の代表社員。ゲームやアプリの開発、プログラミング系技術書や記事、マンガの執筆をおこなう。2001年オンラインソフト大賞に入賞した『めもりーくりーなー』は、累計500万ダウンロード以上。2016年、第23回松本清張賞応募作『バックドア』が最終候補となり、改題した『裏切りのプログラム ハッカー探偵 鹿敷堂桂馬』にて文藝春秋から小説家デビュー。近著は新潮社『レトロゲームファクトリー』。2019年12月に Nintendo Switch で、個人で開発した『Little Bit War(リトルビットウォー)』を出した。

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