イニエスタ 神戸での5年の足跡 初タイトル獲得に貢献 ACLでも献身 日本代表FWの覚醒促す

イニエスタ 神戸での5年の足跡 初タイトル獲得に貢献 ACLでも献身 日本代表FWの覚醒促す

  • ラジオ関西
  • 更新日:2023/05/26

サッカー元スペイン代表のMFアンドレス・イニエスタ選手が、25日、神戸市内で記者会見を行い、今夏でヴィッセル神戸を退団することを発表した。クリムゾンレッドの一員になり、“神戸市民”として歩んだ約5年、サッカー界のスーパースターは、港町のサッカークラブ、サポーター、そして神戸っ子に大きなものをもたらした。

【写真多数】イニエスタ退団会見ドキュメント チームメイトや家族との写真も

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ヴィッセル神戸を退団することを発表した、MFアンドレス・イニエスタ選手(写真:ラジオ関西)

会見の冒頭、「日本に、神戸に、そしてヴィッセル神戸に来たことは、自分の人生の中でとった最高の決断の1つであり、これからもそうあり続ける」と語ったイニエスタ選手は、数多の言葉をつむいで感謝の思いを語った。

「このクラブで、多くの素晴らしい仲間に囲まれながら、人としてもプロとしても大きく成長することができました。さらに、サッカーだけにとどまらず、この素晴らしい国の文化を体感し、味わうこともできました。自分の家族を温かく歓迎してくれたこの国に対して、今では特別な環境を抱いています」。

「いい時もあれば、苦しい時もありました。自分が神戸に来た時に目標としてかかげていたタイトル獲得の達成であったり、ACLへの2度の出場だったり、様々な歴史を刻んできました。しかし同時に、物事が思ったようにいかない昨シーズンのように、非常に苦しい時期もありました。ただ、そういった経験がチームと仲間たちをより強くしてくれたと思っています」

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三木谷浩史会長と握手をかわすイニエスタ選手(写真:ラジオ関西)

ヴィッセル神戸のトップ、三木谷浩史会長からの招へいを受け、2018年夏、ノエビアスタジアム神戸のピッチに降り立ったイニエスタ選手。その卓越したテクニックは、サポーターの度肝を抜いた。ルーカス・ポドルスキ選手のアシストを受けてJ初ゴールを決めたときの大歓声は、スタジアムを揺らした。

ダビド・ビジャ氏、トーマス・フェルマーレン氏、セルジ・サンペール選手といったFCバルセロナでともにプレーした仲間とともに挑んだ2019年シーズン後半は、まさに黄金期だった。

サガン鳥栖戦。スペイン代表の同僚だったFWフェルナンド・トーレス選手(当時サガン鳥栖)の引退試合で見せた超絶ダイレクトフィードは、歴史に残る1シーンだ。

スペクタクルな、いかにも「バルサらしい」サッカーで勝ち上がったその年の天皇杯では、新装された国立競技場のこけら落としとなった決勝でも躍動。チームを初タイトル獲得に導き、クラブが目標とするアジアでの戦いにも挑むことができた。さらに、現在はヨーロッパを舞台に活躍中の日本代表FW古橋亨梧選手(セルティックFC)の得点感覚のさらなる覚醒も、イニエスタ選手の存在あってこそだった。

2020年と2022年の2度、クラブとしてチャレンジできたAFCチャンピオンズリーグ(ACL)。ともにけがに悩まされた大会で、思うような活躍ができたわけではなかったが、特に2020年にベスト4に進めたのは、身を犠牲にしてもチームの勝利のために躍動したキャプテンの姿があったから……。

ヴィッセルでは6シーズンの間に7人の監督のもとでプレー。自身も述べるように、時には苦しい状況も経験したが、背番号8の背中が、ヴィッセルにかかわるすべての人を牽引してきた。

イニエスタ選手は、ヴィッセルでの思い出深いシーンを問われ、改めて次のように明かした。

「1つだけ選ぶのはすごく難しいですが、あえて言うのであれば、初めて掲げた天皇杯のタイトル。クラブにとって何を象徴するものなのかというところも考えてみると、自分にとってすごく特別な局面でした。それ以外でもヴィッセル神戸でデビューをした試合、デビューゴール、どれも特別な思い出として残っています。また、けがだったり、成績がふるわない時だったりというのは、もちろん苦い思い出としても残りつつ、自分をより良い人間に成長させてくれたと思います。このすべての過程、プロセスが自分にとって本当に特別だったと思います」

そして、イニエスタ選手を常に勇気づけてきたサポーターに対しては、「もう感謝の言葉しかない」とコメント。「いい時も悪い時も、彼らはチームに対して感じている愛情を無条件に示してくれましたし、彼らの力がなければ難しい局面を乗り越えられなかった。同時に、彼らが今まで経験してこられなかった、タイトルや何かを勝ち取る喜びをサポーターの皆さんに提供できたことは、自分にとって誇り。本当に感謝の気持ちでいっぱいです」と、率直な思いをつづった。

冒頭17分にわたるスピーチを含めた、約1時間の退団会見では、丁寧に思いを語り、チームメイトやスタッフ、家族と記念撮影におさまった。また、クラブに関わる人たちへの感謝の言葉を述べたときには目頭を押さえる様子も見受けられた。ともに仕事をしたスタッフへのリスペクトを欠かさない姿は、三木谷会長も言うように、「世界最高のプレーヤーというだけではなく、その人柄、謙虚な姿勢も含めて、すべての人に尊敬され、愛されるプレーヤー」であることを象徴していた。

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会見中に涙を浮かべたイニエスタ選手(写真:ラジオ関西)

また、街のそこかしこに彼のポスターなどが掲げられるなど、いまやすっかり神戸になじんだ “アンドレス”は、ホームタウン活動などにも協力的だった。コロナ禍のワクチン大規模接種会場でもイニエスタ選手の案内板が登場するなど、市民生活での存在感も計り知れないほど大きいものがあった。

神戸市の久元喜造市長も、「神戸が誇るヴィッセル神戸に加わっていただき、華麗で多彩なプレーにより天皇杯優勝というクラブ初タイトルをもたらされるなど、キャプテンとしてクラブを牽引され、神戸市民をはじめ日本国民を魅了し、勇気と感動を与え続けてくださいました」「ワクチン接種の啓発動画にも先陣を切ってご出演いただき、安心で安全な生活に戻るために、ワクチン接種がとても大切であることを、力強くPRしていただきました。神戸を第二の故郷としてこれからも応援していただければと心から願っています」と、市民を代表してイニエスタ選手に感謝のコメントを寄せている。

世界的スーパースター。メディアも、取材エリアのミックスゾーンで、その言葉を拾えるだけでも貴重と捉えていた。一挙手一投足を追おうと駆け寄った。チームや自身の状態が芳しくないときにはメディアから遠ざかってしまうこともあったが、自身の調子がいいときに「もう1問いいよ」などと、報道陣ににこやかに対応していた姿も忘れられない。今シーズンの開幕前を含め、キャプテンとして表舞台に立つときには、チームを代表して発信する様子も見られた。

残念ながら、彼がクラブ悲願のJ1優勝のシャーレをピッチで掲げる姿を見ることはかなわない。それでも、「自分とクラブとの関係はこれからも続きますし、今後は、違った形で違った角度から、このヴィッセル神戸をチームとしてもクラブとしてもサポートしていければと思います」と語った。これからもヴィッセルとの関係は続く。

そして、まだ彼の雄姿を直に観る機会は残されている。 “6・6”の東京・国立競技場でのFCバルセロナ戦で、そして、“7・1”のJ1第19節北海道コンサドーレ札幌戦までのノエビアスタジアム神戸でのホームゲームで、神戸を世界に示した8番のワールドクラスのプレーを今こそ目に焼き付けておきたいものだ。イニエスタ選手がいたヴィッセルでの約6シーズンの集大成が、そこにあるのだから。

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選手、スタッフにとともに記念撮影に臨んだイニエスタ選手(写真:ラジオ関西)

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