兄貴であり先生であり...“ジャパさん”ソフトバンク・髙田知季コーチがみんなから慕われる理由

兄貴であり先生であり...“ジャパさん”ソフトバンク・髙田知季コーチがみんなから慕われる理由

  • 文春オンライン
  • 更新日:2023/05/26

へぇぇ、0っていう背番号があるんだ……。苗字の漢字は『はしごだか』なんだ……! 「たかだ」じゃなくて『たかた』なんだ……!!

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私がプロ野球の取材を始めて、ホークスで最初に名前と顔を覚えたのが背番号0をつけていた『髙田知季』選手だった。

ちなみに、髙橋純平投手と髙谷二軍バッテリーコーチ、髙村二軍投手コーチも『はしごだか』、高橋礼投手と高波四軍外野守備走塁コーチは『くちだか』である。……テストには出ない。(笑)

その背番号0髙田知季選手は、昨年2022年シーズンをもって10年間の現役生活に幕を下ろし、現在は福岡ソフトバンクホークスの野手担当リハビリコーチをつとめている。

ファーム本拠地HAWKSベースボールパーク筑後の室内練習場で、怪我からの復帰を目指す選手たちに時折愛のあるゲキを飛ばしながらノックやボール出しをしている横顔がなんだか楽しそうで、生き生きしていて嬉しい。

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髙田知季リハビリ担当コーチ ©川崎優

クールで落ち着いていてスタイリッシュだが…

現在33歳。選手達とも年齢が近く、笑顔で声をかけ積極的にコミュニケーションをとる様子を見ていると、良き兄貴分という感じだ。

現役時代の愛称は、『ジャパネットたかた』の高田社長と同じ「たかた」ということで『ジャパ』。コーチとなってからはともかく、現役時代は後輩たちからも親しみを込めてジャパさんと呼ばれていた。

私はそんなジャパさんのスタイリッシュな守備を観るのがとても好きだった。

ホークスのショートといえば、今宮健太選手の「あなたは人間国宝ですか」と称えたくなるほどの、広い守備範囲と華やかでアクロバティックな姿が印象的。だけど、対するジャパさんは細胞に染み渡るような、静かで無駄がなく、流れるような力感のない動きがため息ものだった!

まるで淹れ立ての八女茶か熱めの梅昆布茶を正座ですすりながら、ウンウンと頷きながらしみじみ堪能したくなる守備。

感情を出さず淡々と打球処理する姿も魅力だったが、本人もそこは意識していたそう。それもまた職人っぽくて良かった。

そんなクールで落ち着いていてスタイリッシュなジャパさんだが……自身の29歳の誕生日だった2019年5月6日、目と耳を疑う出来事が起きた。

この日2安打と決勝ホームスチールの活躍でお立ち台に上がった川島慶三選手が、ヒーローインタビューの最後に「今日誕生日のヤツがいて。髙田知季が自分で歌いたいと言っていた」とマイクを持ってニヤリ。

この前日は当時の工藤公康監督の誕生日で、周東佑京選手がお立ち台でお祝いの歌を歌っていた。

「ジャパ~、ジャパ~」。川島選手が呼びかけるも、すでにロッカールームに引き揚げたと思われた髙田選手からすぐに反応はなく「心の中でみなさん、歌ってあげてください」と1度は締めに入った。

だがしかし、じつはベンチ脇でその様子をこっそり見ていた髙田選手。「終わりかな、と思っていたら目が合ってしまった」。川島選手に手招きされてお立ち台へ。そして「ぱんぱ、ぱーんぱーんぱーんぱーん」と川島選手が前奏を歌うと、マイクが髙田選手のもとへ。

「ハッピバースデートゥーユー♪ ハッピバースデートゥーミー♪ ハッピバースデー、ディアジャーパー♪ ハッピバースデー、トゥーミー♪」

……あのクールで落ち着いてスタイリッシュなジャパさんが(2回目)満面の笑みで歌っていたのである。しかもうまい。なんてこった! 私の胸の高鳴りはしばらく収まることがなかった。

自分の失敗を今の現役選手たちにはしてほしくない

グラウンドでの印象が強いため一見物静かに映るが、兵庫県出身で生粋の関西人だからか話がお上手で、テレビのインタビュー取材をした際も1つ質問をすれば10答えてくださり、ディレクターさんが「ほぼ編集が要らなかった」と驚いていたほどだ。

選手からコーチとなった今も、リハビリ組の守備練習で若鷹に「ボールに対して身体の角度がこうで……」と丁寧に説明しながら教えている様子をみていたら、こんな家庭教師の先生がいたら将来自分の息子をぜひ預けたいと思ってしまう(あ、まだ私独身だった……涙)。

ノックを打ちながら、『サイン、コサイン、タンジェント!』と叫んでいそうなので、科目は数学だろうか。

ジャパさんも「なんか数学っぽいですよね」と照れ笑い。というのも、論理的に物事を考えて、分析していく作業はもともと好きなのだという。

以前、奥様が何もないところでつまずいた際は、「今のはここの筋肉を使っていないから、足が上がらなくて躓くんだよ」と優しく説明してあげたそう。非常にありがたく、そして若干余計なお世話である。(笑)

そんなジャパさんは大学時代に教員免許を取得した。……しかし「数学」ではなく「現代社会」。暗記科目は苦手なんですけど……とまた笑うジャパさん。そんなオチまでつけてくださるのだから、やっぱり素敵だ。

そんなリハビリ組でのコーチ姿を「なんだか楽しそうに生き生きしていた」と先述したが、つとめて明るくのぞむようにしているからだという。自身も現役時代に2度手術を経験し、同じ立場にいる選手たちの気持ちが痛いほど分かる。

なかでも最初の手術の際には復帰まで6ヶ月を要した。しばらくの間何もできない……と「(気持ち的に)腐って、ぐうたらになっていた」と当時を振り返るが、その期間のトレーニング不足のせいで、身体がついて来ず後悔した。そんな自分の失敗を今の現役選手たちにはしてほしくないとの思いが強いのだという。

また、教えるのは技術のことだけではない。リハビリ組にはまだ高校を卒業したばかりのルーキーもいる。そのため、挨拶の大切さや生活態度など社会人の基礎から指導をしている。「人として基本的な当たり前のことをまずはしっかりと伝えていきたい」。普段の生活でのちょっとした気遣いや周りをみる能力が、野球にも繋がってくるはず……と穏やかに話す姿が、本当に先生みたいだな、と感じた。

ちなみに、そんなジャパさんにとっての『先生』は鳥越裕介さんだったという。守備については基礎の繰り返しとその練習量に「体力的にも精神的にもしんどかった」と言うが、やればやるほど上手くなり、自分自身の変化に衝撃を受けたとか。基礎がいかに大切か……それを身に沁みて痛感した。

「守備で10年間生活ができたのは、鳥越さんの指導のおかげ。一番の土台になっている」

その教えを今度は自分なりの言葉とやり方で試行錯誤しながら伝えていき、さらに不安や焦りから気持ちがナーバスになりがちな環境の中でも少しでも楽しく野球に携われるようにと選手に寄り添っていく。教え子たちが強くたくましくなって、再びグラウンドに羽ばたくために。

そして、ノックを打つ背中には新たな背番号の018。語呂合わせで『令和(れいわ)』だ……!とやっぱり覚えやすい数字を眺めながら、私はジャパさんの育てる若鷹たちの活躍が楽しみになった。

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(川崎 優)

川崎 優

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