数学力のある方が事実を捻じ曲げる...心理学が明かす「バイアスにかかる人の特徴」 〈ターリ・シャーロット(聞き手:大野和基)〉

数学力のある方が事実を捻じ曲げる...心理学が明かす「バイアスにかかる人の特徴」 〈ターリ・シャーロット(聞き手:大野和基)〉

  • PHPオンライン 衆知|PHP研究所
  • 更新日:2021/10/14
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人の心を動かすのは簡単ではない。事実やデータを示しても一筋縄ではいかない。ではどうしたらいいのか。それをわかりやすく説いているのが、ターリ・シャーロット氏だ。「確証バイアス」から逃れられる人はほとんどいないが、その存在を知っておくだけでも、きっと大きな意味があるだろう――。

※本稿は、大野和基インタビュー・編『自由の奪還』(PHP新書)を一部抜粋・編集したものです。

人の心を動かすのはストーリーと個人的な経験

――前著"The Optimism Bias"(邦訳『脳は楽観的に考える』柏書房)は世界的に話題を呼びました。そこから"The Influential Mind"(邦訳『事実はなぜ人の意見を変えられないのか』白揚社)を上梓しましたが、二冊の共通点は何ですか?

【シャーロット】どちらの本も、私の研究分野である認知神経科学と心理学、そして行動経済学を組み合わせた研究について述べています。いずれも人間がもつバイアスに焦点を当てています。

The Optimism Biasでは「楽観的な思い違い」という一種類のバイアスに特化し、それが人間の意思決定にどのように影響するか述べています。The Influential Mindでは「確証バイアス(仮説や信念を検証する際、それを支持する情報ばかりを集め、反証する情報を集めようとしない傾向のこと)」や「社会的バイアス」など、数多くのバイアスについて説明しています。

それらのバイアスを理解できれば、より円滑なコミュニケーションを図り、他人の行動を変え、ともすれば自分自身の行動すら変えるなど、バイアスといい関係を築くことができるという内容です。

――"The Influential Mind"を執筆した理由は、あなた個人が事実や証拠をもって人を説得しようとして、失敗したことがあるからでしょうか。

【シャーロット】前著の"The Optimism Bias"を出版したとき、本の内容について話す機会がたくさんありました。そのとき、すぐに私の説明を信じてくれた人もいれば、それほど信じてくれない人もいた。両者の違いは、彼ら自身の経験にあったのです。

私の調査したデータや結果を自分事として捉えられる人はすぐに信じ、捉えられない人は信じてくれませんでした。以前から同じような確証があった人や、調査結果に一致する人物に心当たりがあるという人は信じてくれましたし、その反対――たとえば、自分の叔母は大変な悲観主義者だから、私は「楽観性バイアス」の存在は信じない、という人もいましたね。

人の心を動かすのはストーリーと個人的な経験です。どれほどリサーチをしたのかとか、どれだけの人数をリサーチしたのかはさほど重要ではなく、その人が前から信じていたことや実際に経験したことに関係しているかどうかが鍵です。グラフやデータで示しても、人の行動にはあまり影響がありません。

エビデンスを提示されても初めの考えを変えるのは難しい

――まさしく"The Influential Mind"は、邦題のとおり「事実はなぜ人の意見を変えられないのか」ということが趣旨ですね。なぜ、そうなのか。昨今は、データ分析や統計学の手法が一般にも浸透しているように思えるのですが。

【シャーロット】一つ理由として挙げられるのは、人間は自分がもっている知識を基にしてエビデンスを評価するからです。これは実は、望ましい方法なんです。自らの考えに合わないエビデンスが出てくるたびに考えを変えていると、めちゃくちゃなことになりますからね。

だから自分の意見に沿わない事実を突きつけられても、考えを変えないほうが合理的かつ効率的なのです。脳の働きからみても筋が通ります。エビデンスを与えられた際、事前にもっている意見や考えと比較して真偽を評価する「ベイズ推定」的な考えとも関連します。

それは同時に、もともと抱いていた考えが間違っていたとき、何らかのエビデンスを提示されたとしても初めの考えを変えるのは難しいということでもあります。まず人が確信をもってその考えを抱いているとき、そして頑なに何かを信じたいと思っているときには、とくにそうなります。

――自分で正しいと確信していれば、なおさらそうですね。

【シャーロット】もう一つ重要なのは、人は自分が信じたい事象を裏付ける証拠のほうをより信じる傾向があることです。たとえば、2016年の米大統領選の前に行なわれた調査があります。その調査では「大統領選挙で誰に勝ってほしいか」という質問と「誰が勝つと思うか」という二種類の質問をしました。

調査に参加した人の半数が「ドナルド・トランプに勝ってほしい」と思い、残りの半数が「ヒラリー・クリントンに勝ってほしい」と思っていました。しかし二番目の質問には、参加者のほとんどが「ヒラリーが勝つと思う」と回答しました。

次にリサーチャーは、あるエビデンスを調査参加者に提供しました。トランプ勝利を示唆する世論調査です。その後「誰が勝つと思うか」と再び聞くと、「トランプに勝ってほしい」と思っていた人は「トランプが勝つだろう」と考えを変えました。彼らには世論調査を信じる動機があったので、考えを変えるのは簡単だったのです。

一方、ヒラリーの支持者は世論調査を信じようとせず、考えを変えることもほぼありませんでした。つまり何か信じたい事柄がある場合、それを示唆するエビデンスを受け入れる可能性は高まり、信じたくない理由があればエビデンスを提示されても無視する可能性がより高くなるということです。

これまでの議論をまとめると、重要になるのは次の二点です。一つは、人がすでにもっている考えです。何事にも先立つ考えであり、人はこの既存の考えに照らし合わせてエビデンスを見極めます。

もう一つは、何かを信じたいという動機です。動機があるときにその信じたいことを示唆する何らかのエビデンスがあれば、そのエビデンスを考慮に入れる確率が高くなります。だからトランプが勝つと思わなかった人でも、勝ってほしいと思っていれば、世論調査でトランプの勝利が示唆されたときに「トランプが勝つだろう」と考えを変えるのです。

数学力がある人のほうがバイアスにかかりやすい?

――そもそも、よりバイアスにかかりやすい人の特徴はあるのでしょうか。

【シャーロット】それについては確かな調査はなされていませんが、論争にはなっています。分析力・数学の能力がある人のほうが、自分に都合のいい情報しか見ない「確証バイアス」がかかりやすく、勝手にデータを捻じ曲げる傾向があるのではないかという論争です。

イエール大学のダン・カハン氏が行なった素晴らしい研究があります。その研究では、数学の能力がある人のほうが「確証バイアス」にかかりやすいことがわかっています。彼はまず1000人のアメリカ人に数学のテストを行ない、その結果に基づいて、被験者を数学の能力・分析力があるグループとそうではないグループに分けました。

次に、彼らにある資料を二揃い渡しました。一つは、肌の手入れをすることで吹き出物が改善するかどうかをみる資料です。すなわち、データを分析して効果の程度を見極めるテストです。大方の予想通り、そのテストでは数学の能力・分析力がある人のほうが、成績が良かった。

ところが、その次に銃規制法が犯罪を減らしているかどうかを見極めるテストをしたところ、数学の能力・分析力がある人のほうが、逆に成績が悪かったのです。なぜなら、銃規制法については皆あらかじめ強い信念を――賛否を問わず――もっていたからです。

一方で、MIT(マサチューセッツ工科大学)のデイヴィッド・ランド氏が行なった研究では、分析能力が優れた人のほうがフェイクニュースを見極めることができると示されています。ただしこの結果は、「確証バイアス」と関連性があるかはわかりません。個人的には、ダン・カハン氏の研究結果を支持します。

――一般に、学歴が高い人のほうが多様なデータを収集するようにも思えます。バイアスと学歴との関係はどう考えられますか。

【シャーロット】数学の能力・分析力がある人とバイアスとの関係はいま述べた通りです。この研究では学歴そのものとバイアスとの関係は検証されていませんが、数学の能力・分析力がある人ほどよい教育を受けているということは言えるでしょうね。

人は「自分の選択を正当化する」ようにふるまう

――"The Influential Mind"で指摘されているように、事実よりも感情に訴えたほうが相手を説得できることがあるように思います。

【シャーロット】感情がどういう役割を果たすかが重要です。感情は人の注意を集めやすいので、感情を伴う情報はより記憶に残りやすい。つまり、感情は人の記憶を強化するのです。とりわけ、エビデンスよりもストーリーを使って相手を説得しようとするときはそうですね。

相手の考えがあなたと異なるとき、エビデンスだけでは相手の考えを変えることが難しい。相手が特に何の考えももっていない場合はエビデンスだけでも十分ですが。そして、さらに強力なのはストーリーにエビデンスを盛り込むことです。

考えてもみてください。われわれ人類が何百万年にもわたって進化を続けてきたのは、データがあったからではないでしょう?人類には、データも統計学もなかった。あったのは、周りの人とのかかわりです。

狩りに行った家族に何が起きたのか、近所の人に何が起きたのかというように、人類は周りの人たちのストーリーから学んできました。図表やグラフといったデータ、統計学の手法が出てきたのは、人類の歴史からすればつい最近のことです。

もちろんそこからの学びもありますが、我々の本能はやはりストーリーから学ぶことです。ストーリーは感情を呼び起こし、我々の注意と記憶をより強化するのです。

――感情はそもそも、生来備わっているものですね。

【シャーロット】感情そのものは、人類がもつ進化上最も古い特性の一つです。感情があるおかげで、われわれは生存することができます。感情は物事の善悪を教えてくれるからです。蛇やライオンを見ると、恐ろしくて逃げ出したくなりますよね?

「恐ろしい」という感情を抱くからだけではなく、その感情に(蛇やライオンに襲われて負傷する、命を落とすといった)実例やストーリーが伴うから逃げ出したくなるのです。そのようにして、人間は社会動物として学び続けてきたのです。

――トランプ大統領など、いわゆる「ポピュリスト」と呼ばれる人たちは、人の感情を巧みに操っていると言えるでしょうか。

【シャーロット】(2016年の大統領選挙の際)トランプ、あるいはトランプ陣営は、影響力の強い特性を多く突く手法を使いました。その手法とは、一つはストーリーと感情を使うこと。二つ目は、人にコントロール感を与えることです。

彼があれほどの得票数を得た理由の一つは、自分の言いたいことがいままで通らなかった有権者に対して、トランプに投票することで何かが変わる感覚を与えたことです。現状を変えられるかもしれない、というコントロール感をトランプに投票した有権者は取り戻しました。

このコントロール感というのが、人に影響を与えるうえで非常に重要な特性なのです。われわれは誰かに影響を与えようとするとき、多くの場合、やり方を誤ります。あれをしろ、これを信じろと相手の主体性を制限し、不安を抱かせ、かえって相手を身構えさせてしまいます。

一方、相手にコントロール感を与えれば、その人は考えを変えやすくなります。この「感」が必須なんです。ベストな方法は、相手自身に物事を選ばせること。方向性は示してもいいですが、最終的に相手が自分で選択すると、その選択によりコミットしやすくなります。

たとえば、あなたがバケーションの行き先としてタイかギリシャで悩んでいて、仮にタイを選んだとしましょう。すると、選んだ瞬間からタイがより魅力的な選択肢に感じられ、逆にギリシャはそれほどよくないと思うようになります。自分で選んだからにはその選択によりコミットする作用が働きます。つまり、自分の選択を正当化するのです。

他の誰かに選択してもらったときには正当化は起きません。選択は自分で実際に行なわなければなりません。それはSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)でも同様です。ある投稿を見て気に入ったら、人は「いいね!」やリツイートをしますね。

その自らの行動により、人は投稿に対してよりコミットする、つまり発言に責任をもつようになります。そして「いいね!」やリツイートをすることで、それ以前よりもさらに投稿の内容を信じるようになるのです。

ターリ・シャーロット(聞き手:大野和基)

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