田中理事長の“側近”が逮捕された「日大背任事件」、その“深層”を読み解く

田中理事長の“側近”が逮捕された「日大背任事件」、その“深層”を読み解く

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2021/10/14
No image

背任事件の今後の「焦点」

東京地検特捜部による日本大学・井ノ口忠男理事(64)、医療法人錦秀会・籔本雅巳前理事長(61)らの背任容疑を巡る捜査は、付属病院の建て替え計画に乗じて、2人が日大を“食い物”にした構図が明らかになり、今後は事件が、どれだけの拡がりを持つかに関心は移っている。

焦点は、日大の田中英寿理事長(74)が関与したか否かだろう。

井ノ口容疑者は、田中理事長の側近にして金庫番。背任事件の舞台となった株式会社日本大学事業部は、日大が100%出資する会社で、田中理事長の肝いりで設立され、井ノ口容疑者が立ち上げの時からアドバイザーとして関与。代表者は別にいるが、実質的な権限がすべて井ノ口容疑者にあった。

特捜部は、田中理事長の自宅を二度にわたって家宅捜索。疑いを強めているわけだが、「知らない。把握していない」と、資金流出への関与を否認しているという。

ただ、『読売新聞』は逮捕の翌日(10月8日朝刊)、井ノ口容疑者の指示で、籔本容疑者側から田中理事長に3000万円が渡ったと報じ、チャートにも示した。追随したメディアもあり、田中理事長が事件構図のなかにいるのは間違いなかろう。

ただ、事件への関与を問うのは難しい。

「カネが渡ったのは事実のようですが、趣旨の特定が難しい。病院工事に伴うリベートの一部と、理事長が認識していない可能性がある。また、カネが渡っていたとしても、籔本容疑者からの借金と主張するかも知れない。振り込みではなく現金手渡しでしょうから、籔本か井ノ口か、どちらかのしっかりとした供述が必要です」(司法担当記者)

No image

写真はイメージ/photo by iStock

しかも田中理事長は、16年前の常務理事時代、建物・施設一切を担当する理事として、業者との癒着を調べられたことがあり、こうした疑惑には慎重だろう。

常務理事時代に行われた調査

3年前、アメリカンフットボール部選手が対戦中、背後からタックルを行ない、日大総体のガバナンス問題に発展、日大が揺れた時、過去に別の金銭疑惑(後述)の調査を指示したことのある瀬在幸安総長(就任期間は96~05年)が、月刊誌『FACTA』(18年8月号)のインタビューにこう答えていた。

<私が総長時代も田中君(当時常務理事)には黒い噂が付きまとった。弁護士6人に依頼して、田中君を自宅待機にし、業者との金銭疑惑や裏社会に的を絞った特別調査委員会を作り、報告書をまとめ、次の執行部に引き継いだが、ウヤムヤに終わった>

日大事件の原点を成すものかも知れない。

筆者は、当時の森田賢治理事長宛に提出された05年8月15日付の中間報告書を入手した。金銭疑惑とは、学部キャンパス建て替え工事のうち、電気工事を巡り、3000万円のリベートがあったのではないかというもの。

調査のもとになった情報は、<建設会社の社長が、電気工事会社の受注を陰で推進した田中常務理事への支払いを要求し、電気工事会社がそれに応じた>というものだった。調査委は、資料を入手、面談を重ねた末、一定の結論に達している。

それは、建設会社は、<単に(田中常務理事への謝礼支払いの)窓口としての役割を演じたに過ぎないと推認できる>というものだった。「推認」とはいえ、田中常務理事には<濃厚な疑いが残る>と、記した。

もちろん、任意の調査であり、報告書も<強制捜査権を持つものではなく、相手方の任意の協力を前提とする調査であるため限界のあることを自覚>していた。疑いを受けた田中氏は、すべての事実を否定したということだが、建設・施設工事に絡む業務の難しさを実感したことだろう。(大学側は2013年、この報告書について記載された事実を改めて調査した結果、田中 現理事長が謝礼金を受領した事実は認められないと結論した、などとするリリースを発表している。)

「知らなかった」は通るのだろうか

日本大学事業部を10年1月に設立したのは、管財担当の大学幹部が持つ権限を、学外の組織に委ね、それを田中理事長が掌握するシステムを確立したかったのだろう。だから、アメリカンフットボール部出身で田中理事長と同じ体育会気質を持ち、かつ事業経験も豊富な井ノ口氏容疑者を責任者にした。この疑惑を指摘された過去と日本大学事業部設立の経緯を思えば、田中理事長の「知らなかった」は通るのだろうか。

しかも田中理事長は、一度、切った井ノ口容疑者を元に戻している。

危険タックル問題で記者会見を開かず、いっさい口をつぐんできた田中理事長だが、18年8月3日、「学生ファーストの理念に立ち返って」と題して、初めて大学のホームページに声明文を出した。

<日大において学生ファーストの精神が見失われていた>という第三者委員会の報告書の言葉に鋭い痛みを受けたといい、その反省のうえに立って、今後の大学運営を行なっていくという「決意」は“月並み”だったが、井ノ口容疑者の行為に対する怒りは痛烈で、そこは興味深かった。

<報告書の中では、あるまじきことか、元理事でアメリカンフットボール部のOBによる口封じがあったことが示されています。いかなる理由があろうとも、断じて許されないことです。なぜこんな卑劣な行為があったのか、驚愕と激しい怒りがこみ上げました>

井ノ口容疑者は、タックルした選手に「(隠蔽に同意すれば)私が、大学はもちろん、一生面倒を見る。そうでなかったら日大が総力をあげて潰しに行く」という言葉を吐いたという。(この時に理事を辞任)

田中理事長の怒りも当然だが、それが言葉だけであるのはすぐに判明する。井ノ口容疑者は、19年12月、日本大学事業部取締役に付き、20年9月、日大理事に復帰した。ほとぼりが覚めるのを待っていた、といって差し支えない。

井ノ口は、余人をもって代えがたい。自分の考えを理解し、組織の中で動いてくれる人間が必要だーーと考えたのだろうか。

検察は、事件の本質が5期、13年も理事長職にあり、側近で回りを固める田中理事長の「ガバナンスなきワンマン支配」にあることを知っている。渡ったとされる3000万円を含め、「知らなかった」で済ませるつもりはないだろう。

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

  • このエントリーをはてなブックマークに追加