◇セ・リーグ 阪神3-2広島(2022年8月5日 マツダ)

<広・神>6回1死一塁、降板となり、岩貞(右)にマウンドを託す西勇(撮影・坂田 高浩)
「切所(せっしょ)」は「節所」「殺所」とも書き、辞書には「山道などの、通行困難な所。難所」とある。
巨人V9監督の「勝負の鬼」川上哲治は<勝負の難関>という意味で使った。著書『遺言』(文春文庫)にある。
例として「ON対決」で話題となった2000年日本シリーズをあげている。王貞治率いるダイエー(現ソフトバンク)は2連勝の後、4連敗を喫し、長嶋茂雄の巨人に日本一をさらわれた。
流れを失った第3戦、先発ブレイディー・ラジオが3回途中7失点と試合を壊した。3―3同点となった2死満塁で継投すべきというのが大方の見方だった。川上は<その場面ではすでに勝負の切所に向かってしまっている。もう遅い>と断じた。<わたしなら3回の頭から代えている>。
川上一流の勝負勘だろう。山道を歩きながら、ここが難所だと感じているわけだ。直感である。
この夜、阪神監督・矢野燿大は先発・西勇輝を6回1死一塁で代えた。球数はまだ69球だった。
1点リードで左打者の坂倉将吾を迎え、左腕の岩貞祐太を投入した。ちなみに今季の坂倉は西勇に打率・167(12打数―2安打)、岩貞に・333(3―1)だった。相性ではなく、「切所」だと直感して継投に出たのだろう。勘である。
川上は<勝負の勘>について『禅と日本野球』(サンガ文庫)で<失敗という結果を恐れないで実行して、はじめて磨かれるものだ。頭でひらめいても実行しないとサビついてしまう>としている。矢野も監督就任4年目である。幾多の成功、失敗を経験して磨かれてきたわけだ。<大事なのは、そのとき、そのときの勘である。昨日この方法でうまくいったから今日も、というわけにはいかない>。
そしてこの継投は成功する。岩貞は坂倉、長野久義とともに投ゴロに打ち取りリードを守った。
6回さえしのげば、7回・浜地真澄、8回・湯浅京己、9回・岩崎優の必勝継投で1点のリードを守り切った。
8回裏は安打と失策で無死一、二塁を背負ったが、湯浅が3、4、5番を牛耳り無失点。仁王立ちの圧巻の投球だった。
険しい勝利への道を振り返れば、わかる。やはり、6回裏が切所だったのだろう。 =敬称略=
(編集委員)