「ワクチン開発勝利宣言!」トランプが狙うオクトーバー・サプライズ

「ワクチン開発勝利宣言!」トランプが狙うオクトーバー・サプライズ

  • WEDGE
  • 更新日:2020/09/15
No image

(REUTERS/AFLO)

今回のテーマは、「オクトーバー・サプライズは起きるのか?」です。米大統領選挙の年において、選挙結果に影響を与える投票日直前の驚くべき出来事を「オクトーバー・サプライズ」と呼んでいます。

2020年米大統領選挙ではオクトーバー・サプライズが果たして起きるのでしょうか。仮に発生するとすれば、どのようなオクトーバー・サプライズが生じる可能性があるのでしょうか。

本稿では、ドナルド・トランプ大統領及び民主党大統領候補ジョー・バイデン前副大統領にとって有利に働くオクトーバー・サプライズについて述べます。

私のオクトーバー・サプライズ

12年米大統領選挙において、筆者は研究の一環として南部バージニア州フェアファックスにあるオバマ選対に入りました。投票日まで残り1週間になった同年10月29日、ハリケーン「サンディ」が米国東海岸に上陸し、甚大な被害を与えました。

当時、2人の「特別なゲスト」が選対を訪問する予定になっていました。ところが、サンディが原因で「特別なゲスト」の選対訪問はキャンセルになってしまったのです。選挙後にスタッフが明かしたのですが、2人とはバラク・オバマ前大統領とビル・クリントン元大統領でした。

オバマ前大統領は即座に被災地の東部ニュージャージ州に入り、クリス・クリスティ前知事(共和党)と共に視察して、記者会見を開きました。

クリスティ前知事は大統領選挙でオバマ氏のライバルであったミット・ロムニー候補(共和党)のアドバイザーで、同候補と非常に近い関係にありました。中西部アイオワ州デモインで開催されたロムニー氏の集会に応援に駆けつけたクリスティ氏と、筆者は握手を交わしたことがあります。

そのクリスティ氏がオバマ氏と記者会見に臨み、協力しあう姿の映像が全国に流れました。オバマ選対でその映像を観ていた韓国系米国人のスタッフダニエル・イさんが満面の笑みを浮かべていたのを、筆者は鮮明に覚えています。このとき、イさんはオバマ前大統領の勝利を確信したのです。

フェアファックスのオバマ選対で、ボランティアの運動員であった初老の白人女性エリン・ペンスさんは、「モトオ、サンディがオバマとクリスティを結びつけてくれたの」と、筆者に興奮した口調で語りかけてきました。

イさん同様、ペンスさんもオバマ勝利を信じて疑わない様子でした。選対の中は、ハリケーン「サンディ」がオバマ氏に勝利をもたらしたという雰囲気に包まれていました。

もちろん、オバマ前大統領がハリケーン「サンディ」の対応に遅れ、クリスティ前知事と対立していたならば、正反対の選挙結果になっていたかもしれません。12年米大統領選挙ではサンディがオクトーバー・サプライズになりました。

米メディアの影響力

16年米大統領選挙では連邦捜査局(FBI)によるヒラリー・クリントン氏のメール問題の捜査再開がオクトーバー・サプライズになりました。ジェームズ・コミー元FBI長官が投票日の11日前に、私的サーバーで公務を行ったクリントン氏のメール問題の捜査を再開すると発表したのです。

前回の選挙では投票日直前まで、トランプ氏とクリントン氏のどちらの候補に投票するのか「決めかねている有権者」が13%もいたといわれています。米メディアはFBIによるメール問題捜査再開の発表を大きく扱いました。その結果、一部の「決めかねている有権者」が、クリントン氏が重大な犯罪を犯したという印象を持ったことは否定できません。

後にクリントン氏はインタビューの中で、投票日直前の出来事に対して対応する時間が足りなかったと振り返りました。

米メディアがどれだけ驚くべき出来事を報道するのかが、オクトーバー・サプライズの効果性に影響を与えます。要するに、メディアの出来事に関する報道量が、どちらかの候補を有利に導く結果になるわけです。

ニクソン政権のオクトーバー・サプライズから学ぶトランプ

トランプ大統領は若きビジネスマンのとき、リチャード・ニクソン元大統領から好意的な内容の1通の手紙をもらいました。それ以降、ニクソン氏の影響を受けたとみることができます。

例えば、トランプ氏の終盤戦における核となるメッセージである「法と秩序」及び、前回の大統領選挙で多様した「サイレント・マジョリティ(物言わぬ多数派)」は、いずれもニクソン氏が用いた言葉です。

1972年米大統領選挙でニクソン政権で大統領補佐官を務めたヘンリー・キッシンジャー氏は、投票日の11日前に泥沼化していたベトナム戦争に関して「平和を手中にした」と発表しました。キッシンジャー氏は米国民にベトナム戦争の終結を匂わせたのです。

この一言が選挙でニクソン氏に有利に働いたといわれていますが、米国民を誤り導いたことは事実です。実際ベトナム戦争が終結したのは、約3年後の1975年でした。トランプ大統領は、ベトナム戦争を「選挙戦の武器」にしたニクソン元大統領からオクトーバー・サプライズに関して学習したフシがあります。

ワクチンは「選挙戦の武器」

トランプ大統領は新型コロナウイルスに対するワクチンを「選挙戦の武器」として扱い、明らかに政治利用しています。ワクチン開発をオクトーバー・サプライズにして米国民を誤り導こうという意図が透けてみえます。

投票日の11月3日の前に、「ワクチンを手中にした」と発表し、「ワクチン開発勝利宣言」を行い、選挙結果に影響を及ぼしたいという思惑がトランプ氏にはありそうです。

熱狂的なトランプ支持者は開発されたワクチンを信用するかもしれませんが、大抵の有権者は安全性及び有効性に疑問を持つでしょう。ジョー・バイデン前副大統領は、「早期のワクチン開発を望むが、安全性を犠牲にしてはならない」と、トランプ氏に釘を刺しました。

それに対して、トランプ大統領は「ワクチンは非常に安全で有効性が高い」と反論したうえで、「バイデンとハリス(上院議員)は反ワクチンの陰謀論を展開している」と述べて非難しました。

東部コネチカット州スタンフォード在住の民主党支持者でコロンビア大学で教鞭をとっている60代白人女性に、トランプ大統領が投票日の前にワクチン開発勝利宣言をした場合、ワクチンの安全性及び有効性に関して信用するのか質問をしてみました。

彼女の回答は「ノー」でした。投票日に合わせて開発したワクチンを信用しないというのです。そのうえで、次のように語りました。

「私はワクチンを接種しません。もしトランプが投票日の直前にワクチンが開発されたと発表すれば、自分の評価を傷つけることになるでしょう」

ワクチン開発勝利宣言によるオクトーバー・サプライズは、不発に終わる可能性があるということです。

トランプの自作自演?

では、ワクチン開発以外に何がオクトーバー・サプライズになり得るのでしょうか。

まず国内テロです。FBIはトランプ大統領をネット上で擁護する謎の人物Qアノンの信者が、テロを起こす脅威があると発表しました。ホワイトハウスの記者団がQアノンとテロの関係について質問をすると、トランプ氏は「彼らは私のことが好きだ」と答えました。

国内テロはトランプ氏に有利に働きます。トランプ氏にはQアノンの信者を扇動して自作自演のテロを起こす選択肢があります。

加えて、投票日1週間前の暴動の激化もオクトーバー・サプライズになり得ます。トランプ大統領は全米各地で発生している暴動に極左集団で無政府主義を唱える「アンティファ(Antifa)」が関与していると語気を強めています。バイデン候補は左派のバーニー・サンダース上院議員(無所属・東部バーモント州)の支持者の票を失いたくないので、極左集団を非難しないと、トランプ氏は自身のツイッターに投稿しました。

ただ、米メディアは暴動にはトランプ大統領を強く支持する極右集団「パトリオット・プレイヤー(Patriot Prayer)」等が参加していると報じています。トランプ氏は極右集団を使って暴動を煽り激化させれば、民主党の知事及び市長は治安を維持できないと、投票日直前まで主張できます。

加えて、「自分は法と秩序の大統領である。バイデンは弱い。彼は暴動をコントロールできない」と、一層強くアピールできる機会を得るわけです。

真のオクトーバー・サプライズとは

以上はトランプ大統領に有利に働くオクトーバー・サプライズです。では、バイデン候補にとってアドバンテージになるオクトーバー・サプライズはあるのでしょうか。

中西部ミネソタ州ミネアポリスで5月25日、白人警察官により黒人のジョージ・フロイドさんが殺害されました。あってはならないことですが、フロイドさんと同様のインパクトのある暴行死事件が投票日直前に発生し、全国で大規模の平和的抗議デモが起これば、バイデン氏に有利になるかもしれません

さらに、新型コロナウイルスによる全米の死者数にも注目です。現在の死者数は19万7421人(20年9月12日時点)です。米疾病対策センター(CDC)の予測では、10月初旬に死者数が21万7000人に達します。ということは11月3日の投票日までに22万人を突破する可能性が高いです。

トランプ大統領は当初ホワイトハウスでの記者会見で、「死者数を10万人で抑えればよい仕事をしたことになる」と、ビジネス感覚で述べていました。新型コロナウイルスによる死者数こそ、20年米大統領選挙の真の驚くべき出来事なのです。

海野素央

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。
  • このエントリーをはてなブックマークに追加