ハリウッドばりのヘリコプター墜落シーンを見せた『モルカー』 20代の鬼才が“モルモットを車にした”きっかけとは

ハリウッドばりのヘリコプター墜落シーンを見せた『モルカー』 20代の鬼才が“モルモットを車にした”きっかけとは

  • 文春オンライン
  • 更新日:2021/02/23

「ここまで大ヒットするとは思っていなかった」 “短尺はヒットしづらい”セオリーを覆した『PUI PUI モルカー』の“毒と癒し”から続く

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モルモットが車になった不思議な世界を舞台に、モルモットの車“モルカー”たちが愉快なドタバタ劇を繰り広げるアニメ『PUI PUI モルカー』(以降、モルカー)。

2021年1月5日にテレビ東京系『きんだーてれび』内で第1話が放送されて以来、TwitterなどのSNSを中心に、老若男女を問わず話題になっている。

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SNSは今モルカーの話題で持ちきりだ(シンエイ動画提供)©見里朝希JGH・シンエイ動画/モルカーズ

羊毛フェルトで作ったモルカーたちを、少しずつ動かしては1コマ1コマ写真撮影するストップモーションの技法を用いた本作。1月12日(火)の第2話放送時にはTwitterで50万件以上つぶやかれトレンドを席巻した。

以来、手作りのぬいぐるみやファンアートなどが次々SNS上に登場する盛り上がりを見せており、現在(2月17日)、公式Twitterアカウントのフォロワー数は38万人を超えている。

『モルカー』のエグゼクティブプロデューサーである杉山登氏に、制作時のエピソードや『モルカー』の生みの親である見里朝希監督のこだわりについて語っていただいた。(全2回の2回目/前編を読む)

ダークさと可愛さが両立した見里朝希監督のバランス感覚

――1992年生まれで20代後半の見里監督と、『モルカー』という作品を作り上げていくときに、杉山さんが心がけたことをお教えください。

杉山 子ども向けの作品として楽しく魅力的に作っていくと同時に、『マイリトルゴート』(※)に代表される、見里監督の持ち味であるダークなテイストやメッセージ性も残したいなと考えていました。ですから制作が正式に動き出した際に、監督には「ちょっとした毒やメッセージも入れていただいて構わないです」と伝えましたね。

(※『マイリトルゴート』とは、見里監督が在籍していた東京藝術大学大学院での修了制作作品。「パリ国際ファンタスティック映画祭」グランプリなど、国内外で多数の賞を受賞。森をさまよう少年、オオカミに食べられた子ヤギたち、その子らを腹から救い出した母ヤギが繰り広げるダークファンタジー作品。グロテスクさと美しさを兼ね備えた演出はSNS上でも大きな話題を呼んだ)

――『モルカー』は地上波の子ども向け番組で放送されることになりましたが、『マイリトルゴート』を生み出したダークな作家性が強く出すぎてしまう懸念はありませんでしたか?

杉山 そういう心配はありませんでした。まれに自分の色を出すことに一辺倒な作家さんもいますが、見里監督はこちらからの要望を、打ち合わせの段階からうまく咀嚼してくれている様子でしたからね。実際コンテが上がってきたときは、ご自身の作家性を子ども向けで表現するにはどうすればいいのかを真剣に考えてくれたんだな、と感じました。

――ネット上のファンたちの間では、モルカーが可愛らしく描かれれば描かれるほど劇中の人間たちの愚かさが際立つ、といった感想もよく見かけます。それは見里監督が自身の持つダークさや強烈なメッセージ性を、あえて少し漏れ出させた結果なのかもしれませんね。

杉山 そうですね。実は『モルカー』という作品を監督が思いついたきっかけのひとつに、現実社会における「あおり運転」問題があったようです。監督が『モルカー』の企画を思いついた2年ぐらい前は、ちょうど「あおり運転」の報道が多かったですよね。そういった事件を見ていて、「運転中にイライラしても目の前がモルモットのお尻なら気持ちが和らぐだろうになぁ」なんて考えが監督にはあったそうで、第1話『渋滞は誰のせい?』はそんな想いが反映された内容になっていますよね。

新進気鋭の見里監督ならではの“こだわり演出”の秘密とは?

――制作過程で杉山さんが感心された見里監督のこだわりなどはありますか?

杉山 企画のGOが出てから、見里監督がモルカーの試作のぬいぐるみを何個か作ってきてくれたことがあったんですよ。それが、例えばほっぺたを押してもすぐに形状が戻ることなく、うまい具合に押された形状のままでしばらく止まるようになっているんですよ。中に針金とか絶妙に入っているそうなんですが、だから繊細な悲しい顔や焦った顔を作ることができるんだなと感心しました。

――映像で見るとモルカーたちはふわふわ弾力があるように見えますが、実際は撮影がスムーズにいく仕掛けがたくさんあると。

杉山 あとはコンテを読んでいてその世界観の作り込みにも感心しましたね。第3話の『ネコ救出大作戦』の冒頭で、炎天下にモルカーたちが駐車されているんですけど、シロモというナイーブな性格のモルカーだけは屋根の下に駐車してもらっているわけです。さりげなくドライバーとの良好な関係性が描かれているんですよ。さらにさかのぼると、第2話の時点で、シロモを駐車した後にドライバーがレタスをあげるシーンもあるんですよね。

人間とモルカーは所有者・所有物という関係ではなく、飼い主とペットに近い関係性で描かれているのが微笑ましい。これは見里監督自身がモルモットを飼っていて、その可愛さや関係性を作品に落とし込みたかったからなのかな、なんて思います。モルカーの鳴き声も実際のモルモットの声から収録したようですしね。でも一方で、シロモのドライバーのような優しい人間だけではなく、モルカーをそれこそただのモノとして、愛情もなく雑に扱う人間も出てくるわけです。考えさせられる描写が多いんですよ。

ハリウッド映画さながらの視聴者の度肝を抜いたシーンも

――ストーリーの組み立てもさることながら、『モルカー』はアクションの演出も巧み。第8話『モルミッション』では、ハリウッド映画さながらのヘリコプター墜落シーンで視聴者の度肝を抜いた印象がありました。

杉山 あれすごいよねぇ。見里監督は人形を動かして命を吹き込む表現へのこだわりもさることながら、煙やら炎を表現することにも強いこだわりがあるみたいですね。子ども向け番組でやっていいのか、と思った視聴者さんもいるかもしれませんが、当たり前ですがテレビ東京からもしっかりOKをもらってやってます(笑)。

――確かに、子ども向けにもかかわらず、びっくりするモチーフやストーリーもありました。第6話の『ゾンビとランチ』でグッと監督の好みが出て来た印象がありますが、エグゼクティブプロデューサーである杉山さんとしては、監督の趣味・趣向に偏りすぎないようにといった調整で苦労することもありそうですね。

杉山 いや、ほぼないですよ。確かにコンテを最初に見たときはびっくりしましたけどね。え、ゾンビやるの!って。だから「子どもが観れるレベルでね」とか、「メッセージ性が強すぎるからもう少しマイルドにしたほうがいいかもね」くらいの話はしましたが、修正の指示したのはそれくらいですよ。

――急に実物の人間が演じているキャラのコマ撮りが出てくるシーンも、見里監督ならではの演出のように感じます。この人間キャラを演じているのは監督のご友人やお知り合いだそうですが、ああいったアイデアは当初から出ていたんですか?

杉山 あれはピクシレーションというコマ撮り技法なんですが、最初の企画段階ではなかったアイデアなんですよ。監督が制作を進めるうちに、「ひとさじの現実味と表現の奥行きを持たせたい」と考え、取り入れたみたいです。

また、セリフのない物語で登場する人間を、視聴者に“憎たらしい”と感じてもらうには、人形ではなく実写が効果的だと考えたんだと思います。短い尺で緊迫感のある起承転結を付けるのが難題なんですが、第3話に登場する猫を実写にしたのは、その難題を解決するという意味合いの効果もかなりあったでしょうね。猫を羊毛フェルトで表現していたら緊迫感が弱まるうえ、制作時間も莫大にかかってしまっていたはずなので。

杉山Pが選ぶお気に入りエピソードはエンタメに振り切った回

――では杉山さん一押しの回を伺えればと思います。

杉山 どれも捨てがたいですが、しいて言うなら第5話の『プイプイレーシング』ですね。第1話からけっこう深いテーマがあるということを見せていた作品だったわけですが、この第5話はそういう小難しいことを考えずに見られる、エンターテインメントに振り切ったエピソードでしたから。あ、にんじんのところで止まっちゃうのか、という可愛らしい笑いもあるし、このストレートなエンタメ回は「待ってました!」って感じがありました。

あとは、第3話でモルカーの車内に目が出現するシーンがありますが、あれはびっくりしました……。コンテには載っていたのでその設定も知ってましたが、出来上がったのを見た時に「うわっ」って(笑)。構造的にはおかしいんだけども、ああやって説明を簡略化するのが、短尺で効果的に展開していくテクニックですよね。

――ちなみに、現在の放送中のシリーズのみで『モルカー』は完結なんでしょうか? それとも続編シリーズの構想もあるんでしょうか……?

杉山 続編シリーズも作りたいと考えていますが、まだいろいろな部分が整っていないんですよ。でも、やりたいとは思っています!

(文=TND幽介〈A4studio〉)

≪杉山登氏プロフィール≫

制作会社に所属しながらドラマの助監督を務め、1992年の鈴木保奈美主演ドラマ『愛という名のもとに』にて監督デビュー。1995年テレビ朝日に入社。監督・プロデューサーとして「ガラスの仮面」や映画「ロッカーズ」などを手がけた後、アニメのプロデューサーにシフト。2006年から何作もの劇場版『ドラえもん』や劇場版『クレヨンしんちゃん』をプロデュース。2018年シンエイ動画に出向。現在、企画営業担当の執行役員を務める。

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