
「年を重ねるとお金だけではない本質が見えてくる」と語る円広志(写真/本人提供)
年金は何才からもらおう、介護が必要になったらどうしよう、最期は自宅か、施設か、いくらかかるのか──老後のお金の悩みが尽きないならいっそ“逆転の発想”が必要かもしれない。資産を貯めるよりも“使い切って死ぬ”ことを意識する人も増えているようだ。
そもそも「資産が多い=幸せ」ではない。2015年の米プリンストン大学の研究では、年収7.5万ドル(約1000万円)までは、収入が増えるほど幸福度が上がったが、それを超えると幸福度は横ばいになることがわかった。
国内でも2019年の内閣府の調査では年収1000万円までは収入とともに幸福度が上がったが、年収3000万円を超えると下がっていく傾向があった。幸福学研究者の前野マドカさんは「お金持ちでも、心の不安を抱えている人は少なくない」と語る。
「“このお金がなくなるんじゃないか”“このお金をどう使ったらいいのか”という不安です。どんなにお金があっても、心が落ち着いていなければ、幸せを感じることはできないのです」
1978年に『夢想花』の大ヒットで一躍スターダムにのし上がり、印税によって大金を得るもあっという間に使い果たして借金生活を送るなど、お金に翻弄された経験を持つタレントの円広志(69才)も「人生の本当の価値はお金ではないことがわかった」と振り返る。
「人生における価値観は、年齢とともに変わります。例えば子供の頃はけんかが強い子や勉強ができる子がえらいと思っていました。だけど社会に出てテレビに出るようになったら、パネラーよりもギャラが高い司会者の方がえらいと思うようになった。私自身、そんなふうにお金に振り回された時期がありました。でも、年を重ねると、お金だけではない本質が見えてくる。
あるとき、仕事終わりに公園で水彩画を描いているシニアのかたがたを見かけました。皆さん同じ景色を描いているはずなのに、一人ひとりが周囲を比較することもなく、まったく違う絵を、描きたいように描いている。これこそが“人生の価値観”だと気づいたのです」
「自分で稼いだお金は自分の好きなように使い切る」
お金持ちでも、貧乏でも、同じような貯蓄額だとしても、幸せか不幸かを分けるのは金額ではなく「価値観次第」ということだ。それは「節約」においても同じ。
「同じ節約生活でも“この暮らしぶりが自分の身の丈に合っている”と満足しているのと“将来が怖いから切り詰めなくちゃ”とがまんを続けるのとでは、幸福度はまったく違います。後者は、目の前にあるごちそうを食べずに耐えているようなもの。これでは、ストレスがたまる一方です」(前野さん)
漠然と「お金がない」「貯めなくちゃ」と焦るのではなく「貯めたお金を何に使おうか」と、具体的な使い道を考えながら暮らす方が、人生はいまよりもずっと幸せなものになるのだ。
「若い頃は貧乏暮らしだった」という円は、借金を返済し、資産を築いたいま、3つの別荘を持っているという。
「これまでに4つの別荘を買って、1つは売りました。ムダに見えるかもしれませんし、実際高く買っても売るときは二束三文ですが(笑い)、年に何度も、家族やスタッフと集まって楽しく過ごせる、大切な場所なんです。いままででいちばん買ってよかったものも、後悔しているのも別荘ですね(笑い)。
ぼくは生まれつきのお金持ちではないですし、子々孫々に引き継いで守らなければならない資産もありません。だから、自分で稼いだお金は自分の好きなように、使い切るつもりですよ」(円)
※女性セブン2023年6月1日号
マネーポストWEB