闇落ち、中二病...“こじらせ”ヒーローが世界を救う!辛酸なめ子が斬新なタイムリープドラマをイラストレビュー

闇落ち、中二病...“こじらせ”ヒーローが世界を救う!辛酸なめ子が斬新なタイムリープドラマをイラストレビュー

  • MOVIE WALKER PRESS
  • 更新日:2023/05/26
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辛酸なめ子が「ラザロ・プロジェクト」をイラストレビュー イラスト/辛酸なめ子

自分が救うのは愛する人の命か、それとも全人類の命か?そんな究極の選択を迫られるSFタイムリープアクション「ラザロ・プロジェクト 時を戻せ、世界を救え!」がAmazon Prime Video チャンネル「スターチャンネルEX」にて独占配信中だ。

【写真を見る】「どこかこじらせている…」辛酸なめ子が個性あふれる登場人物たちを描きおろし!

本作の脚本を手掛けたのは、Netflixで配信中のドラマ「Giri/Haji」で一躍注目を浴び、破壊王マイケル・ベイの「クローバーフィールド」ドラマシリーズへの参戦も報じられたジョー・バートン、主演は『MEN 同じ顔の男たち』(22)、「ザ・キャプチャー 歪められた真実2」など注目作への出演が続くイギリスの新鋭、パーパ・エッシードゥ。海外ドラマ好きはもちろん、映画好きにも楽しめる要素が満載の1本なのだ。

「ラザロ・プロジェクト」とは、戦争、伝染病の蔓延など様々な危機から人類滅亡を阻止すべく、極秘に時をリセットしてきた多国籍組織のこと。主人公のジョージ(パーパ・エッシードゥ)は平凡なアプリ開発者だったが、ある日、目覚めると「7月1日」に時が戻っていることに気づく。その後、ジョージはタイムリープできる遺伝子を持つ“ミュータント”だと判明し、ラザロ・プロジェクトにスカウトされ、その一員となる。ところが、過去の改変により恋人のサラ(チャーリー・クライヴ)を失ってしまい、ジョージは苦悩していくことに。

アメリカの批評サイト「ロッテン・トマト」では批評家から100%フレッシュの高評価を記録し、すでにシーズン2の製作が決定。そんな本作をいち早く観た漫画家でコラムニストの辛酸なめ子が、独自の視点から巧妙かつトリッキーなストーリーやキャラクターの魅力を深掘りする。

※本記事は、ストーリーの核心に触れる記述を含みます。未見の方はご注意ください。

「いままでになかったが新鮮なタイムリープの設定」

タイムリープアクションといえば、本作と同じようにトム・クルーズ演じる主人公がタイムリープするたびに少しずつ戦闘能力を身につけていく『オール・ユー・ニード・イズ・キル』(14)や、時間軸を巧みに操るクリストファー・ノーラン監督ならではの快作『TENET テネット』(20)など優れた人気作も多い。辛酸もその魅力について「物事をリセットできるんじゃないかと思えたり、生まれ変わりを描く物語とも少し似ていたりと、神秘的なおもしろさがあります」と語る。

イギリス発のドラマ「ラザロ・プロジェクト」については「アメリカの作品と違って、少しアンニュイでシリアスな雰囲気をまとっていますね。主人公がアプリの開発者という設定なので、インドア派の男性かと思ったら、ものすごい勢いで戦闘能力を身につけていったので、感情が追いつかなかったです。恋人のサラにギークとか言われていて、勝手に仲間意識を抱いていたのに…もともとポテンシャルが高かったんだなとも思いました(笑)。あとは、スパイものならではの暗号の使い方にワクワクしました」。

戻りたい日時にいつでもタイムリープできるのではなく、決められた「7月1日」というチェックポイントの日にしか戻れないという縛りについては「いままでになかったが新鮮な設定で、新しいです」としたうえで「ジョージとサラのいちゃついているシーンに戻る2022年のチェックポイントが何度も描かれましたが、一番ラブラブのシーンからやり直すので、よりサラへの愛情が高まったのかもしれない。もしもあの時間が、普通の日常だったり、口喧嘩をしている時だったりしたら、そこまでサラに執着せず、運命に任せた部分があったかもしれません」と捉えた。

世界各国でのロケーションも楽しめたという辛酸。「ルーマニアのブカレストでのアクションシーンでは、スラム街みたいなところが登場しましたが、荒廃ぶりがすごく味があってよかったです。相手を追いかけるアクションは、市場などで繰り広げられ、物が壊される展開がありがちですが、あのシーンは、いかにも治安の悪そうな町という印象でした。ほかにも大麻を栽培している部屋で暴れるようなシーンもありましたが、その一方で、ハイテクっぽい機器やモダンな建物も出てくるし、いろいろと気になって調べたくなりました」。

「ラザロ・プロジェクトのメンバーたちは、どこかこじらせています」

主人公のジョージ以外にも、ほかの登場人物の視点を通して、十人十色の人間模様も描かれている。特筆すべきなのは、ラザロ・プロジェクトのメンバーたちが、世界を守るヒーローなのに人間味にあふれている点だと言う辛酸。「メンバーたちは、どこかこじらせています」と指摘するなかで、特に気になったのが、ジョージと同じミュータントであるシヴ(ルディ・ダーマリンガム)の存在だ。

「シヴは滅亡を阻止したあとに、みんなでやる打ち上げにも加わらないし、ちょっと陰キャっぽいです。時々、ポエムみたい台詞を発するし、『俺がブリトーを食べたら世界が変わる』みたいな発言もあり、万能感みたいものも感じました。まさに中二病的な要素ですが、あれだけ人の生死を見ていくので、そういうメンタルじゃないとやっていけないのかなとも思いました。アーチーと恋人が、銃で敵を襲撃しながら、どこどこに住みたいとか将来設計を話すシーンも印象的。特殊任務の自分に酔っている感じでしたね」。

元はラザロ・プロジェクトの優秀なエージェントだったが、凶悪なテロリストとなったレブロフ(トム・バーク)についても「完全に悪役じゃない」とし、「誰も悪くないし、誰もが完全にいい人じゃないから感情移入しやすい気がします」と言う。

劇中で、時間がリセットされるたびに、レブロフと彼が愛するジャネット(ヴィネット・ロビンソン)の間に子どもができたことが発覚し、同じく元ラザロ・プロジェクトメンバーのジャネットが何度も出産に苦しめられるというシーンが繰り返されたが「お互いにそのハードな試練を与えられたことで、独特の強い絆が生まれていった気がします」と、彼らを運命共同体のように捉えたようだ。

「生まれ変わっても記憶などが次に引き継がれてしまうかもしれないと思うと、なんだか怖くなりました」

後半では、愛するサラの命を救おうとタイムリープを繰り返すあまり、主人公のジョージがまさかの闇落ちという衝撃的な展開を迎える。それを象徴するのが「愛は爆発したらすごい威力で理性を吹き飛ばす」という台詞だ。

「ジョージが本当にサラを救いたいという想いが伝わる一方で、ただ1人を救うために、いろんな人を殺しまくるというのもすごい展開です。ジョージが何人も人を殺しても、どうせリセットすれば生き返るというゲームみたいな感じで、どんどん命を軽く考えていきますね」。

挙句の果てに、たまたまチェックポイントの時間に、ジョージが同じ仲間であるシヴを殺害してしまう。時間がリセットされるたびに、このシーンも繰り返されるが、2人の関係性について辛酸は「すごく業が深い、因縁を感じました。人間はもしかして、生まれ変わっていくなかで、そういう因縁のある相手とまた出会ったりするのかなと。相手を殺したり殺されたりするのは強いカルマみたいもので、生まれ変わっても記憶などが次に引き継がれてしまうかもしれないと思うと、なんだか怖くなりました」。

また、レブロフの「この世界は滅亡したがっている」という台詞については「劇中で、いままで人類は100回ぐらい滅亡しかかっていたという話も出てきましたが、そう聞くと、無理に滅亡を阻止しなくてもいいんじゃないかとだんだん思えてきました」と告白。

「『ラザロ』が神さながらに、地球の運命を左右していいのでしょうか?チームリーダーのマダムが『コード・ブラック』と言ったら、滅亡する運命がリセットされますが、それは表面的な対処に過ぎないんじゃないかと。やはり本当に滅亡を阻止したいのであれば、環境問題を解決したり、人々の徳を高めたりして、神が地球を滅亡させたくないと思えるような状況にもっていくというやり方もあるんじゃないかと思ったりもしました」。

「実は私たちが気づかない間に、時間がリセットされているかもしれない」

コロナでのパンデミックを経験したいまだからこそ、本作を観るといろんな想いがこみ上げるという辛酸。

「コロナが始まったころ、ひょっとして別のパラレルワールドというか、コロナが起きてない世界が実はあるんじゃないかという想いに駆られた時期がありました。まさにタイムリープと近い考え方かもしれないけど、すべてをリセットして別の世界線に行けるんじゃないかと、考えた人がいたかもしれない。現実に戦争が起こったり、要人とされる人が襲撃されたりと、衝撃的な事件が続いたので、本作の登場人物がいろんなことを乗り越えていくように、そういったものをなんとか乗り越えてきた自分を褒めてあげたいと思ったりもしました」

確かに「ラザロ・プロジェクト」の世界観は絵空事のSFというよりは、地続きのリアルな脅威にまでつながっているように思える。

「実は私たちが気づかない間に、時間がリセットされているかもしれない。デジャブみたいな感覚になることって結構あると思いますが、もしかしたら、地球が平和に存続しているのは、誰かが影で人類の滅亡を阻止してくれているからもしれない。そう思うとなんだか感謝の気持ちが湧いてきます」と、辛酸は想像をふくらませる。

さらに、緊迫感あふれるアクションだけではなく、プロジェクトメンバーたちのせつない過去も映し出されていく本作においては、純愛的な要素も見どころの1つだと語る。

「愛するサラを生き返らせるためにジョージが突っ走り、世界を巻き込むことになります。そこには、何度人生を繰り返しても、自分のことを想ってくれる男性がいるといった純愛的な要素もあると思います。でも、一体、なにが幸せなんだろうと、改めて考えてしまいました。ずっと死ぬまでラブラブな2人というのもなかなか難しそうだし、完全な人生や完全な幸せといったみんなが納得する状態なんてないんだなと、本作を観て改めて痛感しました」と物語のメッセージをかみしめる。

シーズン2の製作が決定している本作について、今後の展開に期待したい点を尋ねてみた。「ジャネットが関わっているタイムマシンのようなSF的装置がどうなるんでしょうか?シーズン2では、もっと自由に過去と未来を行き来できるようになるのか、またタイムループの幅が広がるのか、気になるところです。そしたら人類が生まれたぐらいの時代や恐竜時代など、いろんな時代へ行けたら楽しそうです。ジョージたちの今後も含めて、本当に続きが楽しみです」。

取材・文/山崎伸子

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