激変する世界の様相 - 『仮定形に関する注釈』 The 1975

激変する世界の様相 - 『仮定形に関する注釈』 The 1975

  • rockinon.com
  • 更新日:2020/05/23
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The 1975、またも大傑作である。年間ベスト級の作品だ。この連中のポテンシャルは、底が知れない。

1年6ヶ月ぶりの4作目。前作『ネット上の人間関係についての簡単な調査』(2018年)と対になる作品である。当初2019年5月リリースとアナウンスされていたが、2020年2月、4月、さらに5月と、再三にわたって発売延期を繰り返し、アートワークもたびたび変更されている。新型コロナ危機による影響というわけではなく、単にマシュー・ヒーリーが出来映えに満足せず、再三作業をやり直した結果ということのようだ。

先日彼らの選曲による「ロックダウン中に自宅で聴くプレイリスト」が発表されたが、ジェイムス・ブレイクレディオヘッドフランク・オーシャンフォー・テットから、アストラッド・ジルベルトやグレン・キャンベル、はては裸のラリーズまで入っていて非常に興味深い。知る人ぞ知る筋金入りのカルト・バンドであるラリーズのほか、日本のバンドはバイ・ジ・エンド・オブ・サマーという京都のエモ系バンドも選ばれていて、彼らの情報収集能力は侮りがたい。エレクトロニカ、インディ・ロック、R&B、ギター・ポップ、80年代ニュー・ウェイブからボサ・ノバ、カントリー、はては日本のインディーズや地下ロックまで、ジャンルも国籍も年代も超えた幅広いチョイスは、このバンドの旺盛な好奇心と雑食性を物語っている。そうした彼らの志向を本作は反映しているのだ。

アルバムは前作同様、マシュー・ヒーリーとジョージ・ダニエルによるセルフ・プロデュース体制で作られ、曲によってエンジニアのジョナサン・ギルモアがそれに加わる。ゲスト・ミュージシャンは参加していない。唯一、先行公開された“The 1975”で、環境活動家のグレタ・トゥーンベリのモノローグを、“ジーザス・クライスト2005ゴッド・ブレス・アメリカ”で、アメリカのシンガー・ソングライター、フィービー・ブリジャーズの歌を、それぞれフィーチャーしている。

アンビエントなピアノ・ノイズをフィーチュアしたオープニング曲“The 1975”は、トゥーンベリの地球温暖化に抗議するメッセージを際立たせるよう、バンド演奏は後景化している。インパクト十分のオープニングだ。続くラウドなハードコア・ナンバー“ピープル”は、気候変動や人類滅亡への不安、地球温暖化への危惧と、それを放置してきた大人たちへの激しい抗議を表明した歌だ。《欲しいのは女、食い物、そしてブツ/外に出たくないから全部ここに持ってこい》という歌詞は、今の世界を巡る状況を考えるとあまりに予言的だ(リリースは去年の夏)。そして続く“ジ・エンド(ミュージック・フォー・カーズ”は、壮大なオーケストレイションによるインスト、続く“フレイル・ステート・オブ・マインド”は、洗練されたシティ・ポップスをベース・ミュージックの音響で処理したようなモダンなソフト・ロック、“ストリーミング”はアンビエントなインスト、“ザ・バースデー・パーティー”は穏やかなモダン・フォーク~カントリー・ロック、続く“イエア・アイ・ノウ”はフォー・テットのようなエレクトロニカ、“ゼン・ビコーズ・シー・ゴーズ”はメランコリックなギター・ポップ、フィービー・ブリジャーズのエモーショナルなボーカルをフィーチュアした“ジーザス・クライスト~”は、美しいネオ・アコースティック……という具合に、曲ごとに極端なほどの振り幅を見せる。全22曲、81分に及ぶボリュームは、ひとつとして同じ曲調がなく、目まぐるしく景色を変え、そのいずれもが極めて高い完成度なのは驚嘆に値する。前作もそうだったが、ソングライターとしてのセンス、アレンジャーとしての引き出しの多さとスキルの高さ、ボーカリストとしての表現力の卓抜など、改めてこのバンドの高いポテンシャルを余すことなく示す楽曲が揃った。現代社会に生きる者なら感じる不安、孤独、恐れ、憤り、違和感といったものを、このうえなくポップで洗練されたモダン・ロックで表現する手際の鮮やかさ、スケールの大きさは素晴らしい。

都市のロックダウンが続き、ツアーもできない現状でのリリースは、特にThe 1975のような伸び盛りのアーティストにとっては商業的に得策ではないかもしれないが、それよりもポップ・ミュージックとしての「旬」を重視したのだろう。そしてコロナ以降に激変するであろう世界の様相を考えると、この作品をさっさと出して次に進みたい、というアーティストの意思もあるのかもしれない。既に彼らの頭脳には、コロナ以降の世界観が明確に描かれているはずだ。次作もさほど間を置かず発表されると見る。 (小野島大)

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