「日本は前回W杯以来、最高の40分間だったが...」 両国とも指揮したエディー・ジョーンズが見た後半暗転の深層【特別観戦記】

「日本は前回W杯以来、最高の40分間だったが...」 両国とも指揮したエディー・ジョーンズが見た後半暗転の深層【特別観戦記】

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  • 更新日:2023/09/19
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今大会は豪州代表のHCを務めるエディー・ジョーンズ【写真:ロイター】

エディー・ジョーンズ氏の「THE ANSWER」特別観戦記

ラグビーワールドカップ(W杯)フランス大会は17日(日本時間18日)にプールDで世界ランク14位・日本が同6位イングランドに12-34で敗れた。前半は9-13で折り返し、後半も一時1点差に詰め寄りながら、不運な形でトライを献上すると、以降は突き放された。「THE ANSWER」では、2015年大会を率いて「ブライトンの奇跡」を演じた元日本代表ヘッドコーチ(HC)であり、イングランド代表HCを昨年12月まで務めたエディー・ジョーンズ氏の特別観戦記を掲載。今大会は豪州代表のHCを務める世界的名将は、前半を「2019年W杯以来、日本がプレーした最高の40分間」と述べながら、後半に暗転した原因を鋭く指摘した。(構成=THE ANSWER編集部・佐藤 直子)

◇ ◇ ◇

日本vsイングランドの一戦は見どころの多い、素晴らしい試合でした。昨年まで、私がこの試合の当事者になるはずだったことを考えると、不思議な気持ちもします。

昨年11月13日、私はイングラウンド代表HCとして、日本代表をトゥイッケナム・スタジアムで迎え撃ちました。結果は52-13でイングランドの勝利。その時は正直、日本とはかなりの実力差があたったように思います。ですが、今回のイングランド戦で日本が見せてくれたのは、この1年足らずで驚くほどに成長した姿でした。

そうしたことを踏まえながら、この試合のポイントを2つ、振り返ってみましょう。

1つ目は、前半を4点差という僅差で終えた日本の戦い方です。日本は試合のテンポを上手にコントロールすることに成功しました。心身ともに相当ハードな試合になる中、積極的にゲインラインを押し上げて、イングランドにプレッシャーをかけ続けた。イングランドは彼らが予想していた以上に押し下げられ、戸惑っているようにも見えました。私が知る限りでは、この前半は2019年W杯以来、日本がプレーした最高の40分間だったと思います。

前述の通り、昨年のイングランド戦からチームとして大きな改善に取り組んできた様子がうかがえました。日本がボールを支配する時間が増えていましたし、スクラムなどのセットピースやキックを使った攻撃は本当に良くなっていた。うまくラックを使いながら攻撃を仕掛けていた点にも、とても感心させられました。

昨年の印象が強く残っているので、おそらくイングランドはスクラムで日本にプレッシャーを掛けるゲームプランを持っていたと思います。でも今回、日本が組んだスクラムはとても力強く、真っ直ぐに押すことができていた。さらに、グラウンドからの高さも低く保たれていたのも非常にいい形で、2019年大会でスコットランドに勝利した時のようでした。

イングランドがキックを多用してくる中、日本もSH流大がキックによる攻撃を多用しました。競り合うようなハイパントはとても良かったと思います。ただ、もう少し短めの距離で、より多くの選手が競り合う場所にも蹴っていたら、どちらもキャッチしきれずにこぼれたボールを拾い上げ、そこから攻撃に繋げるというオプションも使えたかもしれません。

いずれにせよ、前半40分の日本はW杯で初めてベスト8入りした2019年大会を想起させる場面がたくさんありました。セットピースに強く、キックで競り合う。ハイパントで勝ち取ったボールを素速く展開し、ゲインラインを突破していくことでイングランドに大きなプレッシャーを与えていました。その結果が「9-13」のスコアに表れています。

エディー氏が指摘した「ティア1に入るチームとティア2にとどまるチームの差」

2つ目のポイントは、素晴らしかった前半の戦いを試合終了まで続けることができなかった点です。あの集中力と強度の高さを80分間続けられるかどうか。それがティア1に入るチームとティア2にとどまるチームの差とも言えるでしょう。

もちろん、日本もこれまでタフな相手に対し、80分間集中力を切らさずに戦い続けたことがあります。それが2015年の南アフリカ戦であり、2019年のW杯です。もし今回のイングランド戦で、前半のような戦い方が最後までできたら、勝敗の行方は非常に面白い展開になっていたと思います。

プレーの質を落とさずに80分間戦うためには何が必要なのか。それがメンタルフィットネス、つまり精神的なタフさと持久力です。自分がボールを持っている場面でも、持っていない場面でも、集中力を切らさずにプレーし続けることが大切です。

日本のように緻密な戦い方をする場合は、素速く自分がやるべき仕事に対応するためにも、より一層高い集中力が求められ、非常にメンタル的にタフな試合となります。また、ワールドカップでは体格の大きな選手がカギとなり、パワーコンテストになる場面が間々ありますが、そこで日本は個人のスキルやパワーに頼るのではなく、チームとしてのサポートプレーで対抗することが必要でしょう。

しかし、疲れを感じ始める後半10~20分あたりから、ゲインラインを突破した時のサポートが遅れるようになったり、手にボールがつかずにノックオンとなるミスが増えてきました。こういった技術的ミスを引き起こすのがメンタル。日本は本当に才能ある優れたチームだけに、非常にもったいない部分だと思います。

ノーサイドのホイッスルが鳴るまで、前半40分と同じ戦い方を続けることができるか。これが、残るサモア戦、アルゼンチン戦でも勝敗を分けるカギになるはずです。

どちらのチームも、後半に強度を落として戦えるような相手ではありません。プレーし続け、ボールを競り合い、試合を動かし続ける中で、少なくとも相手と同じ強さのエネルギーを保って戦う必要がある。そうすれば、自ずと勝機が見えてくるはず。キックオフからノーサイドまでムラなく一貫したプレーを続けることが、どれだけ難しいことか。その難しさに挑戦した先に、勝利の二文字が待っているはずです。

■エディー・ジョーンズ / THE ANSWERスペシャリスト、ラグビー豪州代表HC

1960年1月30日生まれ。豪州出身。現役時代はフッカーを務め、ニューサウスウェールズ州代表。92年引退。教職を経て、96年に東海大コーチになり、指導者の道へ。スーパーラグビーのブランビーズなどを経て、01年豪州代表HC就任。03年W杯準優勝。イングランドのサラセンズ、日本のサントリーなどを経て、12年日本代表HC就任。15年W杯は「ブライトンの奇跡」と呼ばれる南アフリカ戦勝利を達成した。同年、イングランド代表HCに就任し、19年W杯は自身2度目の準優勝。今大会は豪州代表HCとして出場している。近著に「プレッシャーの力」(ワニブックス)。

(THE ANSWER編集部・佐藤 直子 / Naoko Sato)

THE ANSWER編集部・佐藤 直子

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