マユリカ中谷の1人ミュージカル公演「七里、山越えて」が昨日9月18日、東京・紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYAで上演された。脚本、演出、出演、作曲といったすべてを、普段はネタを書かない中谷1人で手がけた1時間半の力作。照明や映像、セットなど豪華な演出が舞台を彩り、中谷演じる弥七が宙を舞いながら熱唱する大仕掛けでも会場を沸かせた。

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYAのステージ上空を舞うマユリカ中谷。

「俺のバンド活動中、お前がオフなのが腹立つから何かしてくれ」という相方・阪本の提案で動き出したこの1人ミュージカル公演。タイトルや時代設定、主人公・弥七のキャラクター、あらすじはラジオ関西のポッドキャスト番組「マユリカのうなげろりん!!」のトーク内で固まっていき、「飛脚の男が病気の幼馴染のために七里離れた険しい山中に生えている薬草を取りに行く」というストーリーが描かれる。チケット代は5000円と、決して安くはない値段。そのうえで阪本は、「むちゃくちゃになってほしい」と舞台の大成功とは違った何かを期待していた。


開演前の場内アナウンスは、「うなげろりん」のイベント「ワオッ!くさっ!!」の告知でおなじみのラジオ関西の男性アナウンサーが担当。「ミュージカルでありお笑いライブではない」「初めてなのだから、という親切心で笑うことは固くお断り」「チケット代5000円のハードルのもと楽しんでいただきたい」といった注意で阪本が懸念していた不本意な観客のリアクションをしっかり抑止し、「変なところで笑うな」とストレートに釘をさして会場の緊張感を煽る。しかし客席の期待感は高まるばかりで、アナウンスが終わると大きな拍手が沸き起こった。

壮大なストーリーの幕開けを予感させる効果音が聞こえてくると、何やらいきなりシリアスなシーン。弥七と幼馴染のおふうに一体何があったのか、さまざまな展開を想像させる。場面は変わって、ケンカを吹っかけられたのか弥七が暴れ回っている。牢屋に入れられた弥七はおふうの病に効くある薬草を取ってこいと命じられ、一度は断るが、おふうからだという手紙を読み「おいらが行くしか、ねえな♪」と命がけの旅を決意したのだった。

道中では数々の出会いと出来事が。のちに命の恩人となる少女とは最悪な形で遭遇するものの、次第に心を通わせていく。重大な罪を抱えた男との対面では、弥七自身も生い立ちを顧み、とある罪を告白することに。いくつものピンチに陥りながら、おふうへの強い気持ちを胸に乗り越えていく弥七。果たして無事に薬草を届けることはできたのか。

披露された劇中歌は、Mrs.ヒポポタマスやMCダンボとしてオリジナルソングを発表してきた中谷だけにどれも独創的。芝居の世界観を表現しつつ、曲調や歌詞は現代風だ。1曲目から歌詞が抜けてしまうアクシデントや、中谷の想定以上に演出上の動物が集まりすぎてしまうシーン、シリアスな場面にもかかわらずセリフを忘れて二度も厠(=台本が置いてある舞台袖)に行ってしまい、舞台上に誰もいなくなる時間などもありながら、なんとか終幕。客席中央ブロック後方で観覧していた相方・阪本は、中谷がセリフや歌詞を飛ばすたび、うれしそうに笑い声を上げていた。

エンディングを迎え、いったん幕が降りると客席は大喝采。中谷の苦労と奮闘を称えた。その後、阪本もステージに登場すると、中谷は「しんどい……。死にそう」と漏らしながらようやく安堵。阪本は観劇中にとったメモを見ながら稚拙なアクションシーンや江戸の設定をスルーし英語を用いていた歌詞にダメ出ししていく。「薬草、結局採った?」と核心を突いた疑問も噴出し、中谷は狼狽。阪本が挙げていく違和感に共感した観客からは、こらえていたものを爆発させるように大きな笑いが。阪本は「お金がかかってるなって感じ」と大まかな印象を述べた。今回の感想が語られるだろう今後の「うなげろりん」にも注目を。

この公演はFANY Online Ticketで見逃し配信中。好評につき開催前から配信延長が決定しており、9月25日(月)15時まで視聴できる。購入は同日12時まで。なお、台本や劇中歌の歌詞の完全版を収めたパンフレットとグッズは9月21日(木)17時からオンラインショップFANY Mall「マユリカの三角コーナー」で販売される。パンフレットは10月15日(日)までの受注販売。本番での中谷の様子を思い出しながら台本を読むのもまた一興となりそうだ。
お笑いナタリー