
山口(左)は神戸移籍の理由にイニエスタの存在を挙げた。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部)

多方面にさまざまな影響を与えたイニエスタ。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部)
5月25日のアンドレス・イニエスタ退団会見から一夜が明け、ネットでは中東やアメリカなど複数のクラブからオファーが殺到しているという報道など、早くもさまざまな噂が飛び交っている。
イニエスタというサッカー選手の影響力を再確認させられるのと同時に、ヴィッセル神戸在籍5年間の功績を振り返る良い機会を与えてくれている。
功績としては、まずJリーグへの影響が挙げられる。イニエスタがいることで世界中から注目を集めるリーグになったのは間違いないだろう。彼の母国スペインなどでも紹介される機会が増え、Jリーグでプレーする日本人選手たちが海外へと飛び立つきっかけが増えたとも考えられる。
イニエスタがJリーグでのプレーを選んだことで、神戸にビジャ、鳥栖にフェルナンド・トーレスといった世界的なスター選手もJリーグでのプレーを選択した。
一足先に神戸に加入したルーカス・ポドルスキも、Jリーグ人気を向上させたスター選手だが、世界に与えた衝撃や影響力ではイニエスタには及ばないだろう。Jリーグ全体を一つ上のフェーズに押し上げたのがイニエスタだろう。
2つ目の視点としては、日本人選手に与えた影響だ。神戸の選手たちは、イニエスタとともに過ごすことで確実にスキルアップする。お手本のプレーを間近で見られるのは神戸の選手たちの特権だろう。J2のFC岐阜から神戸に加入し、日本代表にまで駆け上がった古橋亨梧(セルティック)もその一人だ。
また、元神戸のMF松下佳貴(仙台)はJリーグでイニエスタと対峙した際に「(神戸での)練習の時よりも異次元。ボールが取れる気がしない」と言い残している。Jリーグに“世界トップ基準”を持ち込んだ功績は計り知れない。
退団会見の席で楽天ヴィッセル神戸株式会社の三木谷浩史代表取締役会長は「5年間、ヴィッセル神戸の一員として、Jリーグのメインのプレーヤーとして日本のサッカー界に多大なる歴史的な貢献をしてくれたのではないかと思っております」と話した。まさにその通りである。 神戸目線で言えば、先述の通りイニエスタとともに練習や試合を重ねた選手がプレーの質を向上させている点は大きい。
天皇杯制覇で初タイトルをもたらしたほか、初出場のACLでベスト4進出という躍進も、日本人選手たちの質が上がったからに他ならない。正直、イニエスタが神戸に来る前は、タイトル奪取やアジア挑戦など、想像もできなかった。
また、選手のリクルート面でも、その存在は大きかったと思われる。当時、セレッソ大阪の顔だった山口蛍も「アンドレスと一緒にプレーしたかったので神戸に来た部分もある」と話している。
山口の後には酒井高徳や大迫勇也、武藤嘉紀ら海外リーグを経験した日本人選手が次々と加入してチームレベルを上げている。また、外国籍選手もイニエスタと一緒にプレーしたいとの思いで神戸に来るという流れができた。
ビジャしかり、トーマス・フェルマーレンしかり、セルジ・サンペールしかり。現在の神戸ではリンコンやジェアン・パトリッキなどもそれに当てはまる。イニエスタがいることで良い選手が神戸に集まってくる。チーム編成においても彼の影響力は絶大だった。
そして、日本のサッカーファン拡大でも多大な功績を残してくれた。加入当初から、しばらくホームゲームは毎試合ほぼ満員御礼。アウェーでもイニエスタ見たさでチケットの売れ行きは右肩上がり。その人気に応えるように異次元のプレーを披露し続けた。
ポドルスキのパスでクルッとターンし、GKをかわして決めたJリーグ初ゴールはこれからもファンの語り種になるだろう。
改めて、今回の神戸退団は残念である。ただ、選手引退ではなかった点はせめてもの救いだろう。どこかで、まだ“魔法”が見られる可能性があるからだ。日本では6月6日のバルセロナ戦や7月1日のラストマッチ(J1第19節・北海道コンサドーレ札幌戦)など数試合しか残っていない。
だが、彼が去った後も、輝かしい功績が消えるわけではない。
取材・文●白井邦彦(フリーライター)
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