イーロン・マスク氏がツイッターを買収で「言論の自由」はどうなる? 危惧される差別や中傷の拡大

イーロン・マスク氏がツイッターを買収で「言論の自由」はどうなる? 危惧される差別や中傷の拡大

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  • 更新日:2022/05/14
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イーロン・マスク氏のツイッターのフォロワー数は買収発表後に9千万人を突破。「次の買収先はコカ・コーラ」とジョークも(写真:gettyimages)

テスラやスペースXを率いるイーロン・マスク氏がツイッターを手に入れた。「言論の自由を拡大するため」というが、社会を揺るがす危険をはらむ。AERA 2022年5月16日号より記事を紹介する。

【写真】ツイッターがトランプ前大統領のアカウントを凍結した際にCEOを務めていたジャック・ドーシー氏*  *  *

「私を痛烈に批判する人にも、ツイッター上に残って発言し続けてほしい。それが、言論の自由というものだから」

4月25日、約440億ドルで米ツイッター社を買収することで合意したイーロン・マスク氏は、自身の約9千万人のフォロワーたちにそうつぶやいた。

電気自動車メーカーのテスラや宇宙ロケット企業スペースXを率いるマスク氏は、今や世界一の億万長者だ。そんな彼が自社株を大量に売り、金策に走ってまでツイッター社を所有して私企業にしたいのは「言論の自由を拡大するため」だという。

「イーロン・マスクが目指すのは、罵詈(ばり)雑言や差別発言を含めたあらゆる過激発言を際限なく垂れ流せるネット上の『フリー・フロー』の場だ。それを『言論の自由』という“記号”で包んで、さも素晴らしいものかのように見せているだけ」

そう語るのは、米国のメディアをウォッチする非営利団体「メディア・マターズ・フォー・アメリカ」の代表であるアンジェロ・カルソン氏だ。

「ツイッターはこれまで、リベンジポルノの映像や、アジア人への人種差別発言などの投稿を容認せずに削除し、他のどのプラットフォームよりも早く規制を実行してきた。マスクはその規制を緩めたい。つまり差別発言や誹謗(ひぼう)中傷をしやすい場を提供するということ。これは非常に危険だ」と警鐘を鳴らす。

■トランプが復活する?

一方、この買収を歓迎したのは保守派テレビ番組FOXニュースのアンカー、タッカー・カールソン氏。「これは歴史の転換点になり得る」と絶賛した。

ツイッター社が凍結しているトランプ前大統領のアカウントが、マスク氏指揮の下で復活する可能性はあるのだろうか。前出のカルソン氏は「間違いなく復活させると思う」と即答する。

「トランプはツイッターにはしばらく戻らないフリをした後、戻ってくるはずだ。彼がもし一言もつぶやかなくても、彼のアカウントが復活するだけで『虚偽発言や過激な発言をしてもいい』という承認スタンプになってしまい、致命的だ」

マスク氏の影響力は若い米国人男性の間で特に絶大だ。その波及力は都会に限らない。筆者がかつて住んでいたミシガン州の人口6千人の小さな町で、森と湖の大自然に囲まれた高校に通う男子学生たちの間で、最もはやっていたユーチューブの動画のひとつが、マスク氏がポッドキャスト収録現場でマリフアナを吸う映像だった。

「イーロン・マスクの言動の全てが僕たちには“ミーム”であり娯楽なんだ」と男子生徒が興奮して語ったのを覚えている。

民間ロケットを宇宙に飛ばし、火星に行こうと人々を鼓舞するマスク氏は、経済不安や紛争や環境破壊などで閉塞(へいそく)した世の中に生きる若者に、非日常の夢を実現してみせてくれる型破りな大人でもある。

■彼はクビにならない

その点はマスク氏を批判するカルソン氏も認める。

「どんな言動をしても彼が会社からクビになることはなく、自分の金でワクワクする夢をかなえている姿に若者が熱狂するのはよくわかる。だからこそ、弱者が標的になるネットの場で、誹謗中傷と加害が簡単に可能になるような改悪はやめてほしい」

ツイッター社の社員たちも「コンテンツ規制緩和」の可能性への不安を表明しはじめた。

モーニングスター社の証券アナリストのアリ・モガラビ氏は「マスク氏が大幅な規制緩和をすれば、政府の規制にあうことも予測される」とリポートに記した。また、ツイッター社が既存の広告主を失う危険性も議論され始めている。

(ジャーナリスト・長野美穂(ロサンゼルス))

※AERA 2022年5月16日号

長野美穂

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