出版社によって「文化を後世に残す」「誰でも自由に本が読める」という図書館の偉大さが失われようとしている

出版社によって「文化を後世に残す」「誰でも自由に本が読める」という図書館の偉大さが失われようとしている

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  • 更新日:2020/09/15
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ウェブページ・映画・本・録音データなどありとあらゆる情報を後世のために保存し、資料を無償で提供しているインターネット・アーカイブは、2020年6月、出版社から著作権違反で訴訟を起こされました。この訴訟の目的は「出版社が図書館をサブスクリプションサービス化すること」だと、ジャーナリストのマリア・バスティーロ氏が問題点を指摘しています。

Publishers Are Taking the Internet to Court | The Nation

https://www.thenation.com/article/society/publishers-are-taking-the-internet-to-court/

インターネット・アーカイブは2020年3月24日に無料で140万冊のデジタル書籍を読める「National Emergency Library」(国立緊急図書館)をオープンさせました。これは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が流行し、アメリカで非常事態宣言が出されたことを受けての措置で、インターネット・アーカイブは「物理的に図書館にアクセスできない人でも、自分や周囲の人を危険にさらすことなく、読書を続け、自分を成長させることができます」とブログにつづりました。

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無料で読める140万冊の本をインターネットアーカイブが公開 - GIGAZINE

インターネットアーカイブは過去10年にわたって、物理的な本のデジタルスキャンの貸出プログラム「オープンライブラリ」を実施してきましたが、このオープンライブラリで読者が一度に借りれる本の数は限られており、一定の期間をすぎると本を「返却」する必要がありました。現実の図書館と同様に本が出払うこともあり、人気の本を借りる為には「待機リスト」に参加する必要があったとのこと。

一方、新設された国立緊急図書館では待機リストが廃止され、学生が最大10冊まで自由に借りられるように。マサチューセッツ工科大学(MIT)やペンシルベニア州立大学、ボストン図書館といった100以上の組織が、インターネット・アーカイブの試みに対する支援を発表し、ハーバード大学の歴史学教授は国立緊急図書館が「世界中の読者に対する贈り物」だと称賛しました。

しかし、国立緊急図書館に対して批判的な立場の人も存在します。小説家のコルソン・ホワイトヘッド氏は「彼らは本を違法にスキャンしてオンラインで公開しています。図書館ではありません」と述べたとのこと。

そして、6月1日、ホワイトヘッド氏の本を出版するペンギン・ランダムハウスアシェット・ブック・グループなどを含む複数の出版社が「国立緊急図書館は著作権侵害である」と訴訟を起こしました。

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「無料で約140万冊の本が読めるインターネットアーカイブの電子図書館は著作権侵害だ」と出版社が訴える - GIGAZINE

これを受けて6月16日にインターネット・アーカイブは国立緊急図書館を閉鎖し、出版社に訴訟の取り下げを求めましたが、出版社側は引かず、国立緊急図書館だけでなくオープンライブラリ全体の完全閉鎖を求めています。この裁判は2021年に行われる予定です。

この訴訟は「国立緊急図書館」の存在の可否を超えて、図書館それ自体の存在のあり方が左右される、大きな問題として注目が集まっています。

インターネット・アーカイブは世界中のアーカイブ活動の基礎となった非営利団体で、文化を後世に伝えていくことを目的としています。インターネット・アーカイブはアメリカ議会図書館を始めとする数百の図書館の技術的なパートナーであり、デジタルコンテンツ管理のための技術を開発しています。Wikipediaのリンク先のうち表示されなくなったものを修復したり……

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Wikipediaの客観性は数百万ものリンク切れURLを修復するインターネット・アーカイブによって確保されている - GIGAZINE

初期のコンピューターゲームを収集してオンラインでプレイできるようにしたり……

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無料で2500本以上ものMS-DOSの名作ゲームがブラウザからプレイ可能に、インターネットアーカイブが公開 - GIGAZINE

ニュース記事や文書が権力によって葬られないようにしたりと、数々の取り組みを行っています。

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億万長者からの圧力でニュース記事や文書を葬られないよう保存する「Archive-It」とは? - GIGAZINE

アシェット・ブック・グループやペンギン・ランダムハウスといった出版社は営利目的であり、「文化を後世に残す」という観点ではなく、市場原理、つまり「利益を得られるか」で行動します。通常、出版社は作家が正当な対価を受けられるように権利を守る役割を担い、情報を保存するアーキビストは文化の保存を担うため、役割が全く異なる両者は対立関係にありません。

しかし、「インターネットに情報を保存する」という新しい種類の図書館により、問題が複雑化しました。この問題には、管理されたデジタル貸付(Controlled Digital Lending/CDL)という主張が用いられますが、いまだ法的な議論に決着がついていません。

CDLは(1)物理的な本を購入あるいは入手し、(2)一度に一人の利用者に貸し出す、という従来の図書館のようなデジタル書籍の貸し付け方法のことで、インターネット・アーカイブや複数の学術機関は「CDLであればフェアユースの範囲内」だと主張してきました。ハーバード大学の著作権法学者であり弁護士でもあるカイル・コートニー氏は「図書館は購入あるいは入手した本を貸し出すことに関して許可やライセンスを必要としません」「著作権法はこの問題をカバーしており、図書館は著作権法の保護範囲から免除されています」と述べて、オンラインの図書館でも同様の理論が成立するとしています。

6月に訴訟を起こした出版社側はこの論理を無視し、「インターネット・アーカイブは著者や出版社へのライセンスや支払いなしに書籍をスキャンし、スキャンした本を違法に自分のサーバーにアップロードして、一般公開されたウェブサイトを通じて本のデジタルコピーをまるまる配布している」と主張しているとのこと。このとき、出版社側が問題としているのは「インターネット・アーカイブ」であり、従来型の図書館ではありません。出版社は「公共の図書館とは、長年続く発達した図書館市場との関係のもと提携しています。この関係の中で公共図書館は印刷した本や、電子書籍のライセンスを出版社から購入しています」と従来型の図書館を問題としていないことを明示しました。

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この「電子書籍のライセンス」こそが、出版側の目的とするものだと、バスティーロ氏は主張しています。

Adobe、Netflix、Hulu、Spotifyといったネットサービスの登場と浸透によって、これまで「所有」されていたコンテンツが「賃借」という形を取るようになりました。物理的なCDやDVDであれば一度きりの購入しかありませんが、賃借、つまりサブスクリプションにすることで、サービスを提供する側は永遠に支払いを受け続けることができます。

これと同様に電子書籍のライセンス制が認められれば、出版社は本の賃借を通して図書館からずっと支払いを受け続けることが可能です。バスティーロ氏は、「出版社がパンデミックを利用して図書館を『読書サービス』化し、利益を搾り取ろうとしているという結論を避けるのは不可能です」と述べています。

また小説家であるホワイトヘッド氏は「本を違法にスキャンしている」と主張しましたが、ここから読み取れるのは、出版社側が海賊版の流通だけでなく「所有者が所有物をコピーする」という行為自体を禁じようとしていることだとバスティーロ氏は述べました。

ニューヨーク大学の法学教授であるジェイソン・シュワルツ氏は、「図書館が所有する物理的な本は、著作権者が口を挟まない限り、自由に貸し出すことができました。しかし、デジタル技術が介入した現在では、出版社がいつ・誰が・どのように・なぜデジタルコピーを借りたかについてコントロールできると主張しています。言い換えれば、彼らは自分たちの好きなようにルールを変え、図書館が社会にもたらすもっとも価値がある部分……つまり、『市民であれば誰でも図書館の蔵書を自由に読むことができる』ということを失わせようとしているのです」と述べています。

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