ミュージカルの話をしよう 第18回 加藤和樹は期待を裏切らないために、走り続ける(後編)

ミュージカルの話をしよう 第18回 加藤和樹は期待を裏切らないために、走り続ける(後編)

  • ステージナタリー
  • 更新日:2022/01/14

生きるための闘いから、1人の人物の生涯、燃えるような恋、時を止めてしまうほどの喪失、日常の風景まで、さまざまなストーリーをドラマチックな楽曲が押し上げ、観る者の心を劇世界へと運んでくれるミュージカル。その尽きない魅力を、作り手となるアーティストやクリエイターたちはどんなところに感じているのだろうか。

このコラムでは、毎回1人のアーティストにフィーチャーし、ミュージカルとの出会いやこれまでの転機のエピソードから、なぜミュージカルに惹かれ、関わり続けているのかを聞き、その奥深さをひもといていく。

第18回には加藤和樹が登場。前編では、“歌の力”に感銘を受けて活動をスタートさせた加藤が、「ミュージカル『テニスの王子様』 / The Imperial Match 氷帝学園」で華々しく舞台デビューしてから、その後の役作りで挫折を経験するまでを語った。後編では、15周年を迎えたアーティスト活動と俳優活動への思いを明かす。

取材・文 / 大滝知里

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加藤和樹

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ミュージカル、ストレートプレイ、ライブ活動でまんべんなく鍛える

──加藤さんはアーティスト、俳優、声優と、多ジャンルで活動の場を持たれています。舞台に関しては、ストレートプレイ、ミュージカルにバランス良く出演されている印象がありますが、舞台出演についてどんなポリシーがあるのでしょうか?

僕はライブが好きなので、舞台に関してはミュージカルにも、ストレートプレイにもこだわらずに出演しているっていうだけです。“ライブ”という形態をライフワークにしたいという思いがあるので、ここ数年は、1年に数本の舞台に出て、その間に音楽をやってというバランスで生活しています。それに、ミュージカルに慣れ過ぎてしまうと、お芝居の肌感というか、言葉でかけ合いをする感覚が薄れてしまう気がするんです。ストレートプレイではお芝居の“間”が鍛えられるので、役者同志のぶつかり合いや自分の身体と声だけで闘っている感じがするんですよ。

──ストレートプレイで“間”が鍛えられるとしたら、ミュージカル、アーティスト活動ではそれぞれ何が鍛えられるのですか?

ミュージカルは、楽曲に対するアプローチの仕方、役として歌うことの難しさという点で鍛えられると思います。お芝居では成立していた役が、歌のシーンになると“さっきまでの人と違う”と観る者に感じさせてしまうことがある。なので、ミュージカルに出演するときは、歌を“歌わない”ようにしています。歌詞はセリフであり言葉なので、なるべくセリフを言うときと同じ(声帯の)場所で、“話すように歌う”ことを意識しています。

──歌を歌える人ならではの視点ですね。

アーティストとしてのライブは自分の居場所、原点なので、何かが鍛えられるわけではないけど、開放感があります。舞台で役を演じているときは、いかにその役に縛られてないように見せるかっていうのが自分にとってポイントなんですが、ありのままの自分でステージ上に居られるのは、ライブしかない。ライブの前はいまだに緊張しますけど、会場にはライブを楽しみにしてくださっているお客さましかいないですし、アプローチ次第でお客さまの反応が変わってくるので、“空間が生まれる”感覚を味わえるのは、ライブだけなんです。

帝劇に立つなんて、ありえないと思った

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──加藤さんがこれまで出演されたミュージカル作品についてもお聞きしたいのですが、これまでを振り返って、加藤さんにとって大きかったと感じた作品、転機となった作品は何ですか?

どの作品も自分にとっては転機……というとアレなんですけど(笑)、ミュージカル「コーヒープリンス1号店」(2012年)で山崎育三郎くんと出会って、ミュージカルに進むきっかけになったという意味では、忘れられない作品です。テニミュ以来の城田優との共演となったミュージカル「ロミオ&ジュリエット」(2013年 / 以下、ロミジュリ)も、同世代で作る初めてのグランドミュージカルで、自分にとってはかけがえのないもの。そのあと、初めての東宝作品で、初めて帝国劇場に立たせてもらったミュージカル「レディ・ベス」(2014年)では悔しい思いをしましたね。

──どのような悔しい思いをされたんですか?

それまでグランドミュージカルを1本しかやっていないのに、帝劇に立つなんてことは、自分の中ではありえなかったんですよ。もちろんオーディションを受けて役をいただいたのですが、足りていない、できないということは自分が一番わかっていたし、周囲にも自分よりキャリアのある人しかいなかった。そういう意味では挫折を味わい、悔しい思いもして。自分が出演するからには、何か残さなきゃ!っていう思いもすごくありましたから。

──そのあと出演されたミュージカル「タイタニック」(2015年)が、初めてのミュージカル主演作です。加藤さんが一糸まとわぬ姿で写っていたチラシが衝撃的でしたが、初主演の気負いはありましたか?

あれね(笑)。いや、実はそれはあまりなかったんです。あの作品もオーディションで、演出のトム・サザーランドに歌を聴いてもらう機会があったんですが、僕は当時、ロミジュリの楽曲しか歌える曲がなかったんです。それで、ティボルトの曲を歌ったんですけど、そのときは何役かも知らされてなくて、ふたを開けたてみたら主役のアンドリュースだった。でも作品は群像劇で、みんなに物語があるので、主演という感覚はあまりなかったですね。逆に主演を意識したのは、ミュージカル「1789-バスティーユの恋人たち-」(2016年)。主演で、帝劇で、小池徹平くんとのWキャストではありましたけど、彼がいてくれて心強かったですし、いつも以上にカンパニーを引っ張っていこうという気持ちでした。

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──「1789-バスティーユの恋人たち-」で演じられた農夫ロナンは、革命に身を投じる役で、小池さんとの個性の違いも際立って見えた作品でした。加藤さんはゴツっとした男っぽい役が似合いますよね。

あははは(笑)。何でしょうね、雑な感じというか。貴族の役は絶対できないと思います。役でスーツを着ることもありますが、王子様や皇太子みたいな役はやったことがない。それは、ミュージカルの世界で進んできた生粋の感じではないというか、雑草的な雰囲気があるんだろうし、キャスティングされる方も僕の本質を見抜いてるんだと思います(笑)。飛び抜けて自分とかけ離れた役を演じるのは、やりがいはありますが、自分の中にないものだから根本的に合わないんじゃないかな。

──では例えば、歌って踊って“みんなでハッピーエンド!”みたいな作品に、俳優として憧れがあったりしますか?

うーん、でも、コメディはやりたいなとは思います。コメディはめちゃくちゃ難しいんですよ。笑わせようとすると変になるし、良い脚本であれば、その通りにやれば絶対に面白いのに、自分であれこれ手を加え始めると作品が破綻するので。ただ、もうちょっと僕自身が柔らかくなってからかな(笑)。昔に比べたらずいぶん丸くなったんですけど、「怖い」「いつも怒ってる」という第一印象を持たれることが多いので。もう良い年齢ですし、僕が先輩にしてもらったように、年下の後輩には自分から歩み寄って、導いていく役割を担えたらと。

挑戦し続ける姿を見せたいから、停滞はしない

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──加藤さんの活動の軸はアーティストになるのでしょうか?

そうですね。ミュージカルで僕を知ってくれた方からすると、「音楽もやってるんだ」と感じられると思います。でも僕はそれで良いと思いますし、入り口がどこであれ、加藤和樹という存在がお客さんの中にいれば良い。もし興味を持ってもらえたら、ぜひライブにも1度来ていただいて、アーティスト加藤和樹も味わっていただければ。確実にミュージカルの舞台では観られない表情、姿がそこにあるので。初めて来られた方にはけっこう驚かれます。「アグレッシブなんですね」って。

──2021年はピアノコンサートにも初めて挑戦されました。

昔は自分の歌とピアノ1本で聴かせるのは絶対に無理だと考えていたんです。でも役者でいろいろな表情を見せられるのなら、アーティストのほうでも出せるんじゃないかなと思って。ミュージカルをやって自信が付いたのと、ミュージカルのお客さんが僕の音楽活動を応援してくださるようになって、「ゆったりした空間で聴きたい」というリクエストをいただいたりしていたので、自分でも可能性に挑みたくて、ピアニストの吹野クワガタとのピアノコンサートに踏み切りました。

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──アーティスト活動に専念するわけではなく、舞台のジャンルに挑み続けている原動力は何ですか?

自分がやりたいという気持ちはもちろん、楽しみにしてくれているお客さんがいるということですね。役者やタレントは素材でしかないので、監督や演出家がそれをいかに料理してくれるかで、いろいろな表情を見せることができる。声優も、声だけで演じ分けて作品の世界観に観る者を飛び込ませるという難しさがありますので音響監督と話をして役を作ります。でも、それとは別に、アーティストは自分で自分をプロデュースしなくてはいけないし、そこではまったく別の顔があるんです。基本的には加藤和樹に期待する人に退屈してほしくないし、挑戦し続ける姿を見せたいんです。だから、同じ場所で停滞していたくないんですよね。

──なるほど。

もちろん自分に甘い性格なので、躊躇することもあるんですが、基本はお声がかかったものを、自分で選択して進んできました。だから、ツアー期間中のミュージカル「フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~」(以下、北斗の拳)出演を決めたのも、どっちも諦めたくなかったから。やらないで後悔するよりも、やってみて考えたら良いかって。北斗の拳は稽古の後半に参加できず、稽古不足を自分でも感じていたし、演出家から指摘されたことではあったんですが、本番までには必ず仕上げるという決意が自分の中にありました。僕にお仕事を振ってくださる方には期待以上のものをお返ししたいですし、アーティストも役者も、僕にとってはどちらも100%でやらないと成立しません。

──この15年を振り返って、どのような道のりだったと感じますか?

15年やり続けるって難しいことだと思いますし、1人で上京した自分がいろいろな人と出会って支えられてここまで来られたので、本当に、人との出会いに感謝する15年でした。周りに頼ることの大切さや、1人ではないと自覚することができたのは大きいことだったと思います。それに、自分のがんばり具合は誰かが推し量れることではないけど、がんばっていたら必ず誰かは見てくれているので。それは自分も忘れちゃいけないなと思います。

──加藤さんがこれまでのご経験の中で感じた、ミュージカルの魅力は何だと思いますか?

僕はミュージカルを観ることも大好きなんですが、エンタテインメントのすべてがそこにあると思っていて。ミュージカルの中にあるドラマ性は、人間関係や日常生活に持って帰れるものなんですよね。それは映画やテレビドラマも同じですが、やはり舞台は、劇場空間で体感して、より身近に感じることができる。役者さんたちが生きて、動いて、歌って踊ってお芝居をして、僕なんかは画面を1つ通してしまうと客観的になってしまうことがあるんですが、生で感情が動かされる瞬間って、一生の中でどれほどあるんだろうと思うんですよね。海外に行くと、お客さんのリアクションが大きくて、日本のお客さんはどちらかというとおとなしいと感じられますが、でも、心の中では絶対に立ち上がってしまうくらいの、熱い感情があるはず。そうやって心を豊かにしてくれるのが、僕はミュージカルの魅力だと思っています。

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プロフィール

1984年、愛知県生まれ。第15回ジュノン・スーパーボーイ・コンテストのファイナリスト。2005年、「ミュージカル『新テニスの王子様』The Imperial Match 氷帝学園」で初舞台。2006年にアーティストデビューし、9月には15周年を記念し「K.KベストセラーズII」を発表した。現在も、ライブを中心に精力的なアーティスト活動を続ける。主な出演ミュージカルに「タイタニック」「1789 -バスティーユの恋人たち-」「フランケンシュタイン」「BARNUM」「フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~」など。1月28日に「Japan Musical Festival 2022」、2月に「冬のライオン」が控えるほか、4月2日には13年ぶりの東京・日比谷野外大音楽堂ライブとなる「Kazuki Kato 15th Anniversary Special Live ~fun-filled day~」を開催する。

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