◆なぜ男性の育休取得率は思い通りに上がらないのか?

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先日、岸田総理は「異次元の少子化対策に挑戦する」と宣言。また、東京都の小池都知事も独自の対策を展開しようとしている。この少子化問題解決の糸口の一つと言えるのが「育児休暇制度」ではないだろうか。
厚生労働省が発表した2021年度の男性の育休取得率は約14%。年々増えてはいるものの、依然として低水準で推移している。なぜ男性の育休率は上がりづらいのだろう。
その理由を探るべく、46歳にして自身が勤める会社で初の男性育休を取得し、その生活をTwitterで綴っていた「育休くん」に、男性育児休暇のリアルな話を聞いた。
◆男性育休は「誰かが始めないと決して広がらない」
2020年6月に2人目の子供が誕生したのをきっかけに育休を申請した育休くん。それまで、彼の勤める会社では女性社員で育休を取得した人はいたが、男性社員では1人もいなかったとのこと。会社初の男性育休となるとすんなりとはいかないこともありそうだが……。
——自身の会社で初の男性育休を取得したとのことですが、スムーズに取れましたか?
育休くん:意外と簡単に取れましたよ。自分の場合、社歴も長くて管理職だったので強気に申請しましたけど、社歴の浅い若い社員だと言い出しづらいムードはありました。でも、だからこそ自分が取れば他の男性社員も取りやすくなるんじゃないかなという意識もありましたね。
——その後、後追いで育休を取った男性社員はいましたか?
育休くん:自分と同じく2人目が産まれた部下がいたので「育休取れば?」って勧めてみたんですが、「お金も心配だし何よりずっと家にいるのはしんどいですよ」って言ってました。その気持ち、分からないでもないです(笑)。
◆給付金は2ヶ月に1回にまとめて振り込み

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育休取得を躊躇してしまう理由の一つがお金。大抵の会社では、育休期間中は無給ないしは減給となるところがほとんどで、その代わりに国から「育児休業給付金」が支給される。具体的にいくら支給されるのかが最も気になるところだ。
——お金関係を心配する人が多いみたいですが、実際はどうなんですか?
育休くん:給付金は最初の半年が額面上の給料の65%、残りの半年が50%です。社会保険関係は免除されるので、手取りでいったらほぼ変わらないか微減ぐらい。ただ、ボーナスを加味した年収ではなく月給ベースで計算されるので、毎月の給料は少ないけどボーナスが多いタイプの人の場合は少々ツラいかもしれませんね。
あと、給付金は2ヶ月に1回、2ヶ月分がまとめて振り込まれるので、一回目の振り込みまで最短でも2ヶ月かかります。だからそれまでに最低でも2ヶ月は凌げる貯金が必要ですね。自分の場合、ちょうど新型コロナウイルス真っ只中で、役所がテンパっていたせいか遅れに遅れて、最初の支給が4ヶ月後でした。その時は「ホントにもらえるのか?」って、ものスゴく不安になりましたよ。
◆妻との揉め事を減らすためにやっておくべき準備
育休を取って毎日家で育児をしていると嫁との揉め事が多くなりそうで心配……、なんなら会社に行っている方が気楽。そんなことを思っている人も少なくないのではないだろうか。実際、コロナ離婚なんてものも増えているわけで、夫婦一緒にいる時間が長くなると、それまでとは違ったストレスが溜まるのは事実としてあるようだ。
——部下の方が言った「ずっと家にいるのはしんどい」という気持ちも分かるとおっしゃていましたが……。
育休くん:新型コロナの影響もあり、ほぼ毎日家にいたので、ぶっちゃけ息が詰まりました。これが育休を取得して一番辛かったことかもしれません。ずっと家に篭っていると嫁と口喧嘩もしますし。そんな時は「あぁ~会社に行っている方が気が楽だわ」って思ってました。コロナがなければ、たまに会社の同僚と飲みにいったりして気分転換もできただろうから、そこまでギクシャクしなかったでしょうけど。
だから、これは奥さんとの関係性にもよりますが、育休に入る前に話し合って、それぞれが自由に時間を使える日を設定しておいた方が絶対にいいです。例えば、第2土曜日はパパの日、第3土曜日はママの日とか。その日は育児全般を相手に任せて、買い物をしにいくも良し、友達と飲みにいくも良し、って感じで。育休中って、会社と違って仕事と休みの節目がないので、意識して自由にできる時間を作らないと一生リフレッシュできませんから。
◆口が裂けても言えなくなった言葉

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仕事から育児&家事の毎日へ。それまでの日常が一変するということは何かと大変なことが多い。だがその分、新たな気づきに出会えることもある。育休くんも今回の体験を通じ、初めて知ったことや考え方の変化などがあったそうだ。
——育休中はどういった家事をしていましたか?
育休くん:私は料理を担当していました。それまではパッと見ではキャベツとレタスの区別もつかないくらい料理とは無縁の人生だったので、クックパッドなどを見ながら悪戦苦闘の毎日。でも、慣れてくると意外と楽しいんですよね。それと不思議なもんで、子供って自分で作ったものなら苦手なものでも食べるんですよ。例えば「今日はサラダ大臣に任命します」と言って上の子にサラダを作ってもらうと、普段はあまり食べない野菜をモリモリ食べたりして(笑)。
——育休を取って初めて知ったことや今までと変わったことをTwitterでも書かれてましたね。
育休くん:ホントにいっぱいありました。特に自分の中で衝撃的だったのがスーパーの商品の安さ。コンビニがどれだけ高いか初めて知りましたよ。料理しなかったら一生気づいていないでしょうね。あとこれまでは、嫁に「今日の夕飯は何がいい?」って聞かれた時に「なんでもいい!」って答えてましたけど、今は口が裂けても言えなくなりました。マジで毎日の献立を考えるのって、こんなに大変なんだって痛感したので(笑)。
——では結果的に取得して良かったと思いますか?
育休くん:はい。もちろん、普段の仕事とは違ったストレスはありましたが、人生経験としてはすごく貴重な体験をできたので人として一回り大きくなった気がしてます。何よりキャベツとレタスの区別がつくようになりましたから(笑)。
しかも、フリーランスでは取得できないサラリーマンの特権ですからね、使えるのに使わない手はないと思います。
◆「育休」というネーミングから変えていくべき?
育休を取得したいと思っていても、会社の状況や自分の立場的に言い出しにくい人がいるのも事実。そんな人たちがもっと気軽に取れるようになれば、おのずと取得率はアップするわけだが、その為には、もっと社会全体の雰囲気を変える必要があると育休くんは言う。
——実際に取得してみて、今後これまで以上に男性の育休取得率を上げるためには何が必要だと思いますか?
育休くん:まず育休制度の仕組みをみんなに周知させることですね。給付金が国から出てるってことを知らず、会社が払っていると思っている人が意外と多いんですよ。そうなると「あの人は給料泥棒だ!」という勘違いが生まれる。それから、よっぽどの高給取りや多額のボーナスをもらっている人以外は、ほぼ手取りが変わらないこともしっかりと伝えることが大事かなと思います。
あとは「育児休暇」というネーミングを変えるべきですね。特に「休暇」って言葉がよくないですよ。「休暇=遊び」っていうイメージが少なからずあるじゃないですか。あの人は会社を休んでるうえにお金をもらって遊んでるって思われると、そりゃ取りづらいですよね。実際は休暇とはほど遠い毎日なのに。
だから、最近よく耳にするテレワークにならって「育児ワーク」とかにしたらいいんじゃないですか。「来月から育児ワークしたいです」なら、なんかちょっと言いやすくなって、男性の育休取得率も上昇する気がします。
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今回のインタビューで印象的だったのが「育休はサラリーマンの特権。使わない手はない」という一言。たしかに、フリーランスの筆者からすると羨ましい制度である。誰もが気兼ねなく取得できるようになるにはもう少し時間がかかりそうだが、取れる環境にある男性の方は人生経験の一環としてチャレンジしてみてはいかがだろうか?
「人生100年時代」が叫ばれている今、育児に没頭する1年があっても決して悪くはないだろう。
取材・文/サ行桜井
【サ行桜井】
パチンコ雑誌『パチンコ必勝ガイド』『パチンコオリジナル実戦術』の元編集者。四半世紀ほど勤めた会社を退社しフリーランスに。現在は主にパチンコや競輪の記事を執筆している。