話題の二次元キャラ求人「介護しか勝たん!」広告主に聞く、“切実な現実”とは

話題の二次元キャラ求人「介護しか勝たん!」広告主に聞く、“切実な現実”とは

  • bizSPA!フレッシュ
  • 更新日:2023/01/25

以前から問題視されていた介護業界の人手不足だが、依然として深刻な状況は変わりない。公益財団法人介護労働安定センターは2022年8月、介護分野の事業所で働く介護労働者を対象に実施した「介護労働者の就業実態と就業意識調査結果報告書」を発表。仕事の悩みや不安などについて質問したところ、「人手が足りない」(52.3%)が最多だった。

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吉幸会の求人ポスター

とはいえ、少しでも興味を持ってもらおうと取り組む介護関連の法人や企業は少なくない。

青森県を中心に介護・福祉施設を展開する社会福祉法人吉幸会が青森県内を走るJR大湊線内に2021年11月と、2022年12月の2度にわたって掲載した求人ポスターは秀逸だった。東北地方を応援するために創作された二次元キャラクター“東北イタコ”を起用して、「ばあちゃんにキュン」「じいちゃんすこ」「介護しか勝たん」といった文言を前面に押し出していたのだ。

これらの施策はSNSでも大きな反響があり、介護業界に一定の注目を集めた。そこで、社会福祉法人吉幸会の法人本部本部長を務める五十嵐潤氏にポスターを作成した経緯や、介護業界の求人事情について話を聞いた。

東北の企業であれば無料のご当地キャラクター

求人ポスターに二次元のキャラクターを使用したきっかけはどういったものだったのだろうか。

「最初は、南東北の名物のずんだ餅をモチーフにしたキャラクター“東北ずん子”を使った法人のPR用のノボリ旗を作成しました。東北ずん子は東北の企業であれば無料で使えます。私たちの法人のイメージアップはもちろんですが、作者の『東北を応援したい』という思いに大きく賛同したという経緯がありました。

ご存じかと思いますが、イタコは青森県むつ市にある恐山神社の例大祭で行われるイタコの口寄せで、自らの身体に死者の霊を憑依させ、残された家族と会話を仲介する女性のことです。当法人が運営する介護事業所は、青森県の南部地方とむつ下北地方に分布しており、南部地方のPRには東北ずん子を、むつ下北地方ではずん子と同じように東北の企業であれば無料で使用できる“東北イタコ”を活用しようと考えました」

介護は就職の選択肢に入っていない?

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東北ずん子を使用したノボリ旗

広告のターゲットとしては、JR大湊線を通学で利用する中高生に絞ったのだという。

「その理由は青森県の人口流出率の高さです。青森では毎年約6000人が高校や大学を卒業後、就職により県外に流出します。もちろん、県内に働きたい職場や就労環境が少ないことが大きいです。そこで、“中学生や高校生が職業選択する場合の選択肢の狭さ”に着目しました。

最近の中高生は毎日学校と自宅の往復ばかり。地域社会との接点が減っており、職業の選択肢を得る主なルートが、学校の先生・両親や家族・TVやインターネットのみになっている、という仮説を立てました。つまり、全く知らない業界には就職しないということではないか?ということ。それなら介護に興味を持ってもらうことが、介護業界に進んでもらう第一歩になると考えたんです」

過疎化を食い止めるための策でもある

まとめると、「中高生が交通手段としてよく利用するJR大湊線」の車内広告で、法人と介護のPRを行い、介護業界全体に対する興味を引くことで、その重要性ややりがいを感じてもらうキッカケになればという狙いあったようだ。

「他にも、萌えキャラをはじめとした二次元キャラには一定数のファンがいます。それらの層が今回の広告から当法人の事業所に就職してもらえたら、若年人口の流出がほんの少し減らせる。ひいては、我々が住んでいる地域の過疎化を食い止めることにつながるという悲痛な思いもあります」

ターゲット層である中高生の心に刺さるかどうかを基準に「ばあちゃんにキュン」「じいちゃんすこ」「介護しか勝たん」というフレーズを採用した。

目にとめてもらうためのフレーズを吟味

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五十嵐潤氏

「もちろん、企業PRである以上はイメージアップへの期待も0%ではありません。まずは、ターゲットの心に、これは何だ!?って目をとめなければ意味がないと考えた結果です。さらには、中高生に身近さと親しみを感じてもらえるよう、あえてターゲット層に寄せたワードを選びました。とはいえ、ただ単に若者言葉を使うということではなく、ネガティブに受け取られないよう意識しました。より絞り込んだことで、それ以外の人には奇異に感じられたかもしれませんね(笑)」

今回の求人広告や“東北ずん子”を起用したのぼり旗など、前衛的なPRが目立つが、以前から行っている取り組みであった。

「公共の機関が開催した“福祉の仕事紹介フェア”みたいな職業紹介イベントに、東北ずん子のノボリ旗を持ち込んだことが最初だったと思います。その時は会場内に同様の仕掛けをするような企業は存在せず、当法人が浮きまくりました(笑)。ただ、東北ずん子のノボリを見たという高校生が興味本位でうちのブースを訪ねてくれました。以前から、介護の仕事は3Kというイメージが強く、うちのブースにはほとんど人が寄ってくれなかったため、嬉しい驚きでした」

PR効果はいかほどだったのか

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昨年「青い森鉄道」に掲載された車内広告

Twitter上で大きな注目を集めた今回の求人広告。どうやらおおむね好感触だったとのことだ。

「肯定的な意見もそうでない意見も様々な意見が寄せられ、広告としては大成功だったと思います。SNSで多くの人に面白がってもらえている、さらには今回のように取材していただけるということは、世間にこのようにアピールする社会福祉法人が少ないことの証左ではないでしょうか。工夫次第で業界自体に興味を持ってもらえる、その“伸びしろ”が大きいことが伺えます」

介護業界は人手不足が叫ばれて久しいが、当事者として現状をどのように捉えているのか。

「当法人の事業所は、青森県内でも過疎の進行した農村漁村に多く、介護の担い手はおろか生産人口自体が枯渇している状況です。本来は、そうした生産人口が地域の経済や産業を活性化させるための底支えを担うことが社会保障の分野です。ただ、生産者人口の減少によって働き手を、地域の産業と介護業界が引っ張り合う現状になっています。私たちの地域では若者人口の流出を少しでも食い止めることは、地域全体の命題なのです」

ユニークかつ煌びやかなポスターとは裏腹に、厳しい現状が背景にあることがわかった。若者の就職先に介護業界という選択肢が広まることを願いたい。

<取材・文/望月悠木>

【望月悠木】

フリーライター。主に政治経済、社会問題に関する記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けているTwitter:@mochizukiyuuki

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