花巻東・佐々木麟太郎はどちらを選ぶ?高卒プロ入りと大学進学、それぞれのメリットとデメリット<SLUGGER>

花巻東・佐々木麟太郎はどちらを選ぶ?高卒プロ入りと大学進学、それぞれのメリットとデメリット<SLUGGER>

  • THE DIGEST
  • 更新日:2023/09/19
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10月26日に行われる今年のプロ野球ドラフト会議。高校生、大学生のプロ志望届提出者が連日発表される時期になったが、その進路が大きな話題となっているのが佐々木麟太郎(花巻東)だ。夏の甲子園で敗れた時点ではこれから相談して決めると話すにとどまり、いまだプロ入りか進学かがはっきりしない状況が続いている。10月には国民体育大会も控えており、進路表明はまだ先になりそうだが、そもそも高校からプロ入りするケースと、大学や社会人を経てからプロ入りするケースのメリット、デメリットはどんな点があるのだろうか。

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まず高校からプロ入りする最大のメリットは若いうちに整った環境で野球に集中できるという点にある。大学では授業、社会人では社業に費やす時間があり、環境面でも当然プロに比べると劣ることになる。高校生は特にフィジカル面の強化が重要になるが、そういう意味でもプロの環境でしっかり鍛えた方がレベルアップする可能性が高いことは間違いないだろう。そして、もう一つの大きなメリットは、やはり早いうちから高いレベルの野球を経験できるという点ではないだろうか。そのことで自信を失うというケースもあるかもしれないが、目指すべき目標が身近にあるというのはやはり大きなプラスである。

一方でデメリットとしてよく挙げられるのが、低い評価でプロ入りした場合には、数年で戦力外となり、何の保証もなく社会に放り出されるという点だ。特に育成選手の場合は3年で一度自由契約になるというルールもあり、また支配下の選手でも最近は故障などがあれば早くから育成契約に切り替わったり、自由契約になったりすることも多い。 例えば、18歳でプロ入りして3年で選手生活を終えると、まだ同級生は大学生であるにもかかわらず、いきなり無職という状況になるのだ。 特に指名順位が低ければ、入団時の契約金もそれほど高くはないため、十分な貯蓄がないケースも多い。大量の育成選手を獲得しているソフトバンクは、自由契約になった場合には関連会社への就職を紹介することでその不安を取り除いていると言われているが、高校まで野球中心の生活を送ってきた若者には大変な部分も多いはずだ。大学、社会人に進むメリットとしては、高校からプロ入りする際のデメリットを取り除くという意味合いが強いのではないだろうか。

あともう一つ大きいのは、思うように実力が伸びなかった時に、早い段階から第二の人生への切り替えができるという点だろう。東京六大学や東都大学の野球部は卒業する選手の進路先を発表しているところも多いが、期待されて入部しながら大学で苦しんだ選手が一般企業に就職する例も目立つ。また、仮にプロに進めたとしても、引退後に一般社会に出た時のことを考えて、まずは大学卒という学歴を得ておきたいと考える保護者も多いだろう。

ただ一方で大学、社会人に進むデメリットももちろんある。大きいのはやはり相手のレベルだ。高校からプロ入りする際のメリットのところでも触れたが、野球は陸上や水泳など個人の記録を競うものではなく、相手がいる競技であり、そのレベルによって左右される部分が大きいことは間違いない。仮に大学2年生くらいでプロに近いレベルまで成長したとしても、相手のレベルが高くなければそこからさらに突き抜けることはやはり簡単ではない。 2020年のドラフトでは高橋宏斗(中日)が慶応大の入試に不合格になってプロ志望に切り替えたことが話題となったが、高橋が希望通り進学していれば今のように一軍で活躍するほどのレベルになっていることはおそらくなく、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)にも当然出場していなかっただろう。

また、社会人の場合は大きな大会が一発勝負のトーナメントということもあって、粗削りで不安定なピッチャーや、長打力はあっても確実性に乏しいバッターなどいわゆる"未完の大器"タイプの選手はなかなか起用されづらいという点もある。特に高校から直接社会人に進む野手は苦しむことが多く、その点もデメリットの一つと言えそうだ。

もう一つは怪我の問題だ。これは特に大学に多いが、4年間という期間は長く、下級生の時に活躍しても、登板過多が影響して上級生になってパフォーマンスが落ちるというのはよくあることである。そういうことからも、ピッチャーに関しては実力が十分あれば、早い段階でプロ入りした方が良いと考える指導者も確かに存在している。

では、佐々木はどちらを選ぶ方が良いのだろうか。これは個人の問題のため、他人がどうこう言うことではないという意見も当然あるが、最終的にプロで活躍することを目指すのであれば、やはり高校からプロ入りを選択すべきだろう。
まず大きいのはすでにドラフト1位クラスという高い評価を得ているという点だ。1位でプロ入りとなれば当然短期間で戦力外ということは考えづらく、入団時に得られる契約金などで備えることもできる。注目が高くなることで苦労する部分ももちろんあるが、1年生の頃から高い注目の中でプレーし続けてきたということもあって、大きな問題にはならないだろう。

もう一つの理由は、やはり相手のレベルだ。仮に大学野球で最高峰と言える東京六大学や東都大学に進んだとしても、全員がプロのレベルの投手というわけではない。野手の場合は特に相手のレベルに対応しようとして自分のレベルも上がっていくという部分が多いため、その点でも早くからプロを相手にプレーした方が得られるものも多いはずだ。

大学卒という学歴の問題については個人の価値観のため何とも言えないが、近年ではプロを引退してから大学で学ぶケースも増えており、後から何とでもやり直せる部分は多いはずだ。自分のモラトリアム期間として大学で何かやりたいことを探すというわけではなく、最終的に野球で勝負したいというのであれば、すでに高い評価を得ているだけに早くからプロ入りした方がメリットは大きいだろう。

プロではそのレベルに戸惑うこともあり、注目度の高さからバッシングを浴びることも当然あるが、佐々木麟太郎のスウィングからはそんな不安を吹き飛ばすくらいの可能性が感じられる。一日でも早く、そして一日でも長く、野球ファンを熱狂させるバッティングをプロの世界で見せてくれることを願いたい。

文●西尾典文

【著者プロフィール】
にしお・のりふみ。1979年、愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。アマチュア野球を中心に年間400試合以上を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

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