バービー×吉川トリコ「真逆の人格のススメー自分を縛っているのは自分だったりもする」

バービー×吉川トリコ「真逆の人格のススメー自分を縛っているのは自分だったりもする」

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2021/07/22
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40歳の独身女性が、突如子宮頸がんの罹患と余命を宣告される――そんな小説が吉川トリコさんの『余命一年、男をかう』だ。趣味は節約とキルト製作という堅実な人生を歩んでいた片倉唯が、ピンク色の頭のホストと出会い、「お金でかって」人生が大きく変わっていく。

その小説を読み、「もっと読みたいと思える小説に出会った」と語るバービーさんと、著者の吉川トリコさんの対談が「小説現代」2021年7月号で実現。対談前編「結婚後ふたりとも「世帯主」バービー×吉川トリコが語る結婚のこと・出産のこと」では、新婚のバービーさんの「世帯主どうする問題」まで飛び出しました。後編でも、バービーさんが結婚したときにFRaUwebに掲載されて大きな話題を呼んだ「僕が「料理で男の胃袋をつかみたくない」バービーと結婚した理由」記事の実現の背景や、フェミニズムについて、そして性欲ってタブーなの?など盛りだくさんでお届けします。

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「砂鉄事変」がバービーさんにもたらした変化

吉川:そういえば、本がたくさん送られてくるっておっしゃっていましたね。

バービー:はい。実用書や自己啓発系のもの、スピリチュアル系など色々。小説もあったのですが、読もうという風に思わなかったんですよね。今回、吉川さんの作品を読んでから別の小説を読み始めたんですよ。こんなに文章だけで世界観が変わるんだってあらためて勉強になったし、すごく楽しかった。情報は文字だけなのに浮かぶカット割りとか映像の質だとか、照明の感じとか。なんて手軽だし、一番自分の能力を使っているし。それを知れたとてもいい機会でした。

吉川:小説を読んだことのある人は誰でも小説を書けると思っているんです。映画だとスタッフさんがたくさん必要だし、漫画家さんも絵が描けないといけない。小説は文字さえ書ければ一人でできるし、お金もかからないのですごく手軽で自由度の高い手段だと思います。

バービー:今回、ターニングポイントになったなあと。きっかけになった気がします。

吉川:書いてみたいと思いませんでしたか?

バービー:書きたくて書けないという、よくあるやつで(笑)。「おれはまだ本気をだしていない」みたいな(笑)。大学を卒業してからずっとなので。

吉川:砂鉄事変(2019年武田砂鉄さんがパーソナリティを務めるラジオ番組に、バービーさんがゲスト出演。その時のやりとりが話題に。ちなみに実際FRaUweb編集長はそのラジオを聴いてバービーさんに連載依頼をした)のあと、すぐくらいに連載が始まったんですよね?

リアルタイムで聞けなかったのですが、私のTwitterのタイムラインでの盛り上がりがすごくて。あのあと出版社からオファーが殺到したんじゃないかと。依頼を受けたとき、どんな気持ちでしたか?

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撮影/杉山和行

バービー:書きたい気持ちはあり、マネージャーさんには言ったりもしていたんです。売り込みのために、資料みたいなものがないと誰にもジャッジしてもらえないから、とりあえず何か書いてくださいと言われていながら、それすら書いたこともなくて。なので、「本当に書いたことがないんです」ということを了承してもらって、スタートしました。

吉川:とてもそんな風に見えないですよね。バービーさんの文章は冷静でサービス心があふれていて、構成もしっかりしている。すごく頭のいい人が書いた整理された文章だと感じました。

バービー:『本音の置き場所』の第1章が本当に初めて書いたもので、ドギマギしながらでした。いま、こんな風に「ザ・文壇の対談」みたいなものをやっているのも不思議な感じです(笑)。小説も書きたいといいながら20代半ばくらいから読まなくなってしまっていたのが、今またこうやって読み始めたので、「これはそろそろ本気だすときなのか」という気持ちに少しなっています(笑)。

夫の「つーたん。」の記事はどんな経緯でできたの?

吉川:夫さんの文章もうまくてびっくりしました(2021年4月17日FRaUwebに結婚にあたってバービーさんのパートナーの文章が掲載された)。なんだか小説みたいで。感動しました。

バービー:最初、本当に籍を入れる入れないでもめていたんです。最後のほうの話し合いで、「いつになったら籍を入れざるを得なくなるかなゲーム」をしない? って言ったんです。お互い、男性目線、女性目線で発信していって、社会の何かに生きづらさを感じたら籍を入れようという話をしたんです。結局それはなくなったのですが、私は発信場所があるけど、もし夫婦となったときに、片方だけ発信場所があるのはフェアじゃないと思って、ひとつ書いてみたら? と提案したんです。そしたらある日出来上がってきて。それが素敵だったので、そのまま編集者に送って「どうですか?」と。

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バービーさんのパートナーである「つーたん。」さんの記事は公開と同時に話題に。

吉川:依頼があったわけではなかったんですね!

バービー:はい。こちらからです。彼もド素人なので最初から枠をお願いするなんてできなかったので、実物をもっていくしかないと。ちゃんと入籍発表の前に書いてくれたので、いいタイミングでも掲載できました。そのあと有頂天になってnoteを始めたんですよ(笑)。

吉川:「片方だけ発信場所があるのはフェアじゃない」っていう考え方はすごくわかるんですが、それで「だからあなたも発信しなさい」となるのは、もうひとつ壁を突き破っていますよね。

バービー:私の発信内容はフェミニズムっていう看板を背負っていると思われがちで、今のフェミニズムって男性の存在が無視されていることも多いなと思ってました。私は発信場所もあるし声も大きい。でもその対となっている男性側の声が聞こえないのは不思議だなと。実際私たちはお互い賛同して共感して結婚しているわけだから、男性としての本音も聞きたいなと、私がシンプルに思いました。

吉川:たぶんいま皆びっくりしてると思うんですよね。#MeTooムーブメントが起こってからというもの、よく知っていたはずのパートナーが急にフェミニズムに目覚めて変わってしまったように見えてたりするんじゃないかって。多くの男性が戸惑っているのでしょうが、正直なところを言えなくなってしまっている。もう少し気楽に、素直に言えるといいですよね。

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撮影/杉山和行

バービー:攻撃されない素直な感想も絶対男性側にもあるはずだから、いろんな人の声を聞きたいです。

吉川:ここ数年、シスターフッド──女たちの連帯を描いたものがブームになっていて、そういうものを私も書いていたのですが、そろそろ男性のことも書いておかないとなという気持ちがあります。ラブコメっていま書くのがすごく難しいなと思っていて。壁ドンとかいきなりチューとか、昔はあったけれど今はアウトだったりしますよね。

バービー:たしかに!

吉川:申し訳程度に「それセクハラですよ!」と女性キャラに言わせて視聴者に目配せするようなラブコメが最近よく作られていますが、作り手側が根本的なことをわかってないので「やるならちゃんとやれ!」って思ってしまうんです。女同士の連帯を書くことはもちろん大事なことでこれからも書いていきたいとは思っていますが、そこにしか夢を持てなくなっちゃうとそれはそれで夢がないなと思って。男性との関係にも夢をみられる作品を書きたいなって思ったんです。

なかなか変わらない性の問題

バービー:昨日ちょうどメンズノンノで「バービーさんが"思い込みセックス"に喝」、みたいな特集があって。若い子たちから相談があるのですが、彼らは平等に恋愛をしていると思うんですよ。ただ、いざそういうことになったときには男性が全面的にリードするのはおかしいと思うって男子から質問があって。実際、まだまだ女性からっていうのはないようだ、みたいなのがありました。このあたりはまだまだ変わらないんだなと思いました。

吉川:東京ラブストーリー2020年版では赤名リカの名台詞「セックスしよ」のニュアンスが微妙に変わってたんです。

平成版はあっけらかんとしてて、「カラオケ行こ!」ぐらいのかんじでしたが、2020年版では妙にしっとりとしていて。
そっちのほうがリアルといえばリアルなんでしょうが、ちょっと残念なかんじがしました。

バービー:ちなみに企画の最初に「私が喝」っていうのもおかしいなって思って。男性のセックスを女性が評価するのはなって。だから、女性はまだ待ちなんですかって聞いたんですよ。女性にも言ってほしいというのを前提にして、男性がムード作りをしなくてもいいというジェンダー観が合う女の子もいると思うからって言ったのかな……。逆にいまの若い子たちのほうが女性が待ちなのかもしれませんね。

吉川:柚木麻子さんが、「Sex and the City」がはやってから次々と生まれた日本版「Sex and the City」をウォッチしていたらしいのですが、うまくいった例がほとんどないと。なぜかというと性に奔放なサマンサ役が日本にいない。あの役を日本でやるとたちまち湿っぽくなってしまって、過去のトラウマとか、女の寂しさとかそういう余計な何かが添加されてしまうらしく。

バービー:シンプルに性欲じゃだめなんですね?

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撮影/杉山和行

吉川:そうなんです。唯一成功したのが「性と街」という作品(2002年放送の単発ドラマ)で、これは男女逆転になっているらしくサマンサの役を東幹久さんが演じられていてばっちりハマっていたようです。

バービーさんはテレビなどでも堂々と性欲を肯定しているのがすごくいいなって思っています。バービーさんみたいな人がもっといたらいいのにって。

底抜けに明るい性欲は言っちゃいけない雰囲気

バービー:「Sex and the City」の4人みたいな人が、日本だとキレイ目な女性になってしまい、「性欲!」みたいなところでリアリティがないのかもしれませんね。もう少し普通の人……絶対華奢で美人の女性じゃなくていいというか。であれば、「性欲!」もはまるんじゃないかと。

吉川:いまだにまだ言えない風潮がありますよね。

バービー:そうですよね。底抜けに明るい「性欲」みたいなのは、言っちゃいけない雰囲気がありますよね。

Teitterで海外のスターがバイブレーターのプロデュースをしたというニュースを見て、自分のアカウントでこの記事をどう思うかというアンケートを取ったんです。そうすると、9割近くの人が不快ではない、とボタンを押しているのに、リプライ欄では否定的なものが多い。男女問わずでしたね。快不快ではなくても当事者となったとき、そういう風に見られるのは嫌なのかなと。シンプルな性欲が女性の中にあるっていうのは誰も望んでないんですかね、日本では。

吉川:最近『愛のコリーダ』(1976年大島渚監督作品)が4Kリマスターされて劇場公開されていたんですが、このタイミングではじめて観て驚きました。女の性欲を肯定しているなと。男性監督が撮るポルノグラフィだから、男性目線で女性が理想化されているんだろうという偏見をもって観にいったのですが、むしろ藤竜也さん(主人公の吉蔵を演じている)の方が完全に女性の欲望を受け止める器として描かれていてすごくよかった。こんな映画が一昔前に作られていたのだと衝撃でした。もっと若いころに観ておけばよかったと後悔したほどです。

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撮影/杉山和行

バービー:昔のほうが健全なところがあったのでしょうか。江戸時代とかの方がよかったのかもしれませんね。

女性の性欲の話をするとイコールバカというような感じにうつってしまって。そういうフィルターもすごく感じます。私はとくにお笑いでないところで発信をしたものがネットニュースなどになって、そのコメントを見ていたら、エロがなんとかって言っている奴がこういうことを言っても説得力がないとかそういうものがあって、リンクしないんだなと。エロ、性的、商品、とかってものと人間っていうのが一つだと思えない人が多いのかなって。

水着のきれいなねーちゃん、風俗嬢、AVとか記号化された性みたいなものが思考の骨の方まで浸透している感じがします。メディアが与えた先入観ってすごいんだなって感じますね。

吉川:小説にも書きましたが、決まったパートナーがいない女性は、セックスしたいと思ったときに、選択肢がなくて本当に難しいですよね。たとえばやりたいだけの相手を出会い系などで見つけることもできるのかもしれないけれど、それもちょっと怖いだろうなと思って。そういうことも今回の小説には書いておきたいなと思いました。

自分らしく生きることとは?

吉川:私が青春をすごした90年代は、奇抜なファッションをしていたり、人と違った趣味を持ってたりすることがよしとされるような、「個性的でなければ」と気負うあまり、逆にみんなが自分を見失っているような時代でもありました。でも私はテレビも大好きだし、テレビドラマの初回をぜんぶ録画して見るぐらいのミーハーで、あるときまでそのことを恥じていたようなところがあります。

いまは「個性的でなければ」の呪いがすっかり解けて、「ミーハーでなにが悪い」って思ってますけど(笑)。時代の空気感が変化したのと、加齢とともに他人からのジャッジを気にしなくなったというのが大きいと思います。実は自分を縛っているのは自分自身だったりもするんですよね。いまはのびのびと好きにやれていると思います。

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撮影/杉山和行

バービー:ここ最近は生きやすいなって思っています。私はもともとすごくネガティブで暗い人間ですが、バービーという芸名をつけてから、今までたまってきたエネルギーが、バービーによって暴走させられてバランスよく生きられたなと。本名の私とバービーとが仲良くしてて、その2つの顔と、砂鉄事変によってもう一つの顔ができた感じがして、3つの顔があって安定している自分がいるなって。

モヤモヤをためておかないで、なにが原因かつきとめて言語化して、どこかの顔で出すという。すごくいいサイクルです。私はそういう多面的な自分でいられるところが好きです。皆さん、もし少ししんどいなと思うようなことがあったら、真逆の人格の裏アカを作ったり別のコミュニティを作ったりして、別の人格を作るとめちゃくちゃ生きやすいなって思いますね。

私は、芸人として感情を爆発させるのが下手という致命的な感じだったのですが、年齢を重ねて、EDMなんかがかかると、ビートを刻んじゃう自分がいたりして。

吉川:(爆笑) 昔は軽くリズム取るくらいだったけれど!(笑)

バービー:今は自由になりました!(笑)

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吉川トリコ(よしかわ・とりこ)
1977年生まれ、名古屋市在住。2004年「ねむりひめ」で「女による女のためのR-18文学賞」第3回大賞および読者賞を受賞。同年、同作が入った短編集『しゃぼん』にてデビュー。『グッモーエビアン』『戦場のガールズライフ』はドラマ化もされた(『グッモーエビアン』はのちに映画化)。その他の著書に、『少女病』『ミドリのミ』『名古屋16話』『光の庭』『マリー・アントワネットの日記Rosa』『マリー・アントワネットの日記Bleu』『夢で逢えたら』など多数。近著「余命一年、男をかう」が好評発売中。

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