こんなにも眠れないのは東京のせい、と思っていたけど

こんなにも眠れないのは東京のせい、と思っていたけど

  • かがみよかがみ
  • 更新日:2020/11/22
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ギラギラした明かり、電車が行き交うごう音、気をつけないと誰かにぶつかりそうな新宿や渋谷を一生懸命歩いていると、時々、「すれ違うこの人たちは皆、どうやって毎日生きているんだろう」と思うことがある。

家に帰ったら夫や子ども、家族がいるならまだ分かる。でもわたしのように、家に帰っても誰もいない、窓をあけてもビルしかない、布団に入ってもずっと車の音が聞こえる場所で、みんなどうやって毎日の悲しかったことやむかついたことを静めて寝ているの?

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布団の中で勝手に聞こえてくる頭の声。東京に来て眠れなくなった

社会人5年目、東京に来てから眠れなくなった。

どんなに仕事で疲れても、ジムで体を動かし家で筋トレをしても、お風呂で体をあたためてお茶を飲んでも、布団に入った瞬間、頭の中で自分が勝手にしゃべりはじめた。

「今日は●●さんから、できあがった原稿のことで『残念な内容』と言われて悲しかった。もっと事前に連絡を取ればよかった」「同僚の態度、変だったな。普通に雑談したかっただけなのに」「あ、お母さんから来たライン、返してない。心配するかな」「遊びの誘いも来てたけど、行く元気ない。なんて返そう」「ていうか明日、9時に会社で、10時にあそこで、間に合うよな・・・」。

だめだ、寝よう、と思っても、こんな声がエンドレスに頭を回る。そのうち、さっきまでの疲れはどこに行った?と思うぐらい、頭は妙にスッキリ冴え渡る。

なんとか1時間ほど頑張って目をつむっているが、だんだんこの時間が無駄なんじゃないかと思えてくる。ブルーライトはよくないと分かりつつ、携帯に手を伸ばして、見たかった服や漫画を見始める。好きなアイドルの動画を見る。

寝られないことにやけくそになっているのでテンションがあがる。気づいたら空が白んでいる。携帯を置いて、目をつむる。ようやく、眠気が少しずつやってくる・・・。こんなのを何回繰り返したか分からない。

睡眠剤を使用するほど眠れない日々。私に東京は合わないのかも

最初は徹夜の反動で翌日は眠れていたが、次第に毎日眠れなくなった。

起き上がる時は地獄だ。体がベッドに張り付いて離れない。外に出て歩いていても体が信じられないほど重い。

仕事でミスはできないから意識だけは覚醒し、ハイな感じで仕事をこなす。夕方には携帯の文字が見れないほど吐き気がし、ともだちとの飲み会なんてとんでもない。家に帰るころには「今日は寝れるかな」という心配がまたむくむく頭をもたげる。

ある夜、電話しながら突然泣き出したわたしに友人は睡眠剤を飲むことを勧め、初めて心療内科に行った。先生は、「寝られるかな、という心配が恐怖になって、余計に眠れなくなるんだよ」と言った。初めて飲んだ睡眠剤は、気絶するように眠りこんでしまうのでちょっと怖かったが、1時間以内に寝付けるようになった。でも、あんなにあった仕事へのやる気はどっかに行ったまま。

ねちねちと送られてくる上司からのお叱りのメール、冗談の皮をかぶったセクハラ、見て見ぬふりをする同僚。実は言われている悪口、急用でもないのに何度も来る電話、話しかけても無視される路上。インスタを開けばおいしそうなレストランでワインを掲げ、東京をエンジョイしているともだちの写真。

全部、ここに来るまで経験したことがなかった。

いくら深夜まで愚痴って飲んでも、問題はぜんぜん消えなかった。

どこに行っても何かの音が聞こえて頭が変になりそうだった。

東京だからこんなことになるんだ、わたしには東京は合わないんだ。

大好きな上司に憧れて、望んで来たのに、

どんどん東京が嫌いになった。「東京病かな」と笑う自分がまた、なんでも他人のせいかよ、と情けなかった。

東京タワーのやさしい光が、東京の大切な人や瞬間を教えてくれた

そんな最悪のコンディションのある日、数少ない心許せるともだちと奮発して高級ホテルに泊まった。ホテルはとても素敵で、バスローブ姿でごろごろ部屋食をし、ドラマを見てげらげら笑った。

窓からはきらきら光る東京タワーが見えた。

大学1年のとき、初めて旅行で東京タワーに上ったときのことを思い出した。

夜になれば真っ暗な地元とはあまりにも違った。

見下ろした街は一寸の隙もなくギラギラ赤く光っていて、人間はここまで地面に光を張り巡らしたのか、と怖くなった。

10年後の今も同じだ。自分だって住んでるのに、「こんなとこは人間の住むところじゃない」と思っていた。

でも、その日見た東京タワーは、きらきらしたやさしいオレンジ色だった。橋の上を、たくさんの車が通っていく。ビルがチカチカしているということは、まだたくさんの人が中にいるということだ。ふと、ここにある光の分、人がいるのなら、いつか皆と知り合えたらいいな、と思った。そんなこと初めて思った。

ふかふかのベッドにもぐり込んで、ちょうど良い高さの枕に頭を沈めた。いつも「眠れるかな」と体をぎゅっと固くしていたけれど、久しぶりに力を抜いて大の字で寝た。その日は、頭の中で自分の声はしなかった。

友人と心ゆくまで見てまわった美術館、尊敬する先輩と仕事終わりに語り合った川辺。とても少ないけど、思えばこの1年、東京でも大切な瞬間はあった。そんなときをいくつかでも集められたら、それでいいよね。

ひかり

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